初陣
俺達は騎士として働きはじめ、それぞれ違う小隊へと組み込まれて様々な業務を請け負っていく。
流石に4人共同じ小隊という事は叶わなかったが、
ベガと俺が、そしてデネブとアレンが同じ小隊になった。
別の小隊に配属されれば会える時間は極端に減るそうだが、仕方ないだろう。
俺達はあくまで業務をこなしていき、手柄を立てられそうならば一発狙う。
それに徹してただ機械的に目の前の仕事を片付けていった。
と、いっても流石に長年この国を守り続けただけはあり、手柄を立てようにも仕事は先輩達にほとんど持ってかれてしまう。
分かってはいたつもりだったが、こうも上手くいかないとはな。
「おう、新入り!中々元気がいいな!」
「うぉっと!?」
見回りも終わり、なんの異常もない周囲の景色に飽き飽きし、少しばかりの休憩となった。
それを見計らったように大きく背伸びをしたアルタイルの背中を巨漢の先輩騎士が叩く。
中々力が強く思わずよろけてしまった。
「おぉおぉ、悪い悪い!
まぁ、入隊したばかりで気持ちばかり先に出ちまう気持ちはよく分かるがな。大人しく現場に慣れる事に集中した方がいいぞ。
変に出しゃばって、そのまま野獣共に食い殺される新兵も俺達は何人も見てきたんだ」
ガハハ!と豪快に笑っていたが、そんな彼の目は笑っていなかった。
きっと彼の言う通り、手柄を立てようと躍起になり、そのまま殺される新兵が後を立たないのだろう。
「エボミーの恐ろしさは文字だけじゃ絶対に伝わらない。
自分の目で、耳で、肌で見て感じないと命の危険ってのは分からないもんだ。
全く、上の頭デッカチのバカ共もその事に気付いて現場で研修をするなり、生け捕りにした魔物を見せてやるなり、新人育成にもっと力を入れてくれりゃいいのによぉ」
あのジジイ共のせいで何人の若者が死んでいったことか…と巨漢は剣を納めて怒り任せに石を蹴り飛ばした。
「ゴルーダ。そう怒ってもしょうがないさ。
上のジジイ共はそういう肝心の事は全部現場に投げてるからな」
「!! 申し訳ありません。隊長」
ゴルーダと呼ばれた巨漢は一回り小さい男に頭を下げた。
隊長と呼ばれた男の名はサロメ
俺とベガの所属する王宮右側索敵隊の隊長を務めている。
「新入り二人は中々筋がいいそうだな?
特にそっちのベガちゃん…だったかな?
君の話はよく聞いてる」
サロメ隊長はベガに興味を抱いていた。
だが、当の本人は心当たりがなく、首を傾げる。
「へ?わ、私ですか?」
「なんでも折れた模造刀が新兵に当たりそうだったのを阻止したそうだね。それも見た事のないような武器で」
あれだ……
思わず顔を伏せてしまい、ベガは口を閉じて開かなくなってしまった。
アルタイルは思わず爆笑した。
「いやぁー、実はあのとき模造刀を振り回してた男は所属こそ違うが、僕の後輩でね。
中々の逸材がきた!って騒いでいたもんだから、是非ここに引き抜こうと思ってたんだよ」
「違うんですよ!そ、それはその…」
何か否定しようとしたが、否定出来るものがないのでベガは開いた口をまたそのまま閉じるしかなかった。
「ガハハ!!恥ずかしがる事ねぇーよぉ!!
立派な事をしたんだからな!!ガハハハ!!」
やたらと大声で笑うゴルーダさんにやや気圧されつつも紅くなった頬を掻く。そんなベガにゴルーダさんは馴れ馴れしく肩を回し、またガハハ!!と豪快に笑った。
「おいおいゴルーダ。それはセクハラになるんじゃないか?
あんまりダル絡みはしない事だ」
「えぇ!!分かってますよ!訴えられる前にやめときます!!」
ゴルーダさんに反省の色はない。
サロメ隊長のお咎めを聞いても相変わらずベガにダル絡みを続け、流石のベガにも困惑が見える。
そろそろ助けに入るべきか、と思考するうちにゴルーダさんはようやくベガを解放してくれた。
「嬢ちゃんすまなかったな!!許しとくれよ!!」
「次やったら訴えます」
ムスッとした表情のベガに、ゴルーダさんはささっと逃げ出し代わりにサロメ隊長がベガに謝罪をする。
「すまないね。あいつの事を許してやってくれないか?」
「怒ってる訳ではないですよ。
まぁ……正直自重してほしいとは思いますが」
ムスッとした表情が解けないベガの様子にサロメ隊長は口元を隠して上品に笑い、遠くに逃げ出すゴルーダの背中に視線を送る。
「実はね、ゴルーダには娘がいたんだよ」
え?
「え、娘さん…ですか?」
「あ、やっぱりご結婚はされてたんですね。ゴルーダさん」
ベガは薬指に指輪をつけてたので、もしやと思ったそうだ。
「うん。
もしかしたら、いるって言う方がいいのかもしれないけどね。
娘さんは、不慮の事故で亡くなった、と僕は考えてる。
旅客船の沈没事故だよ。
ゴルーダの実家は船を使って渡る島国の一つだそうでね。
彼女はゴルーダに会いに一人旅をしていた途中だったらしい。
船の残骸すらも見つからない。
ただ、沈没した船の乗組員が、遺体となって見つかったそうだ。
事故からはもう、400日も経ってる。
だから…その、、、正直、彼女が生きてる可能性は……」
そこから先はサロメ隊長は何も言わなかった。
ただ辛そうに唇を噛み、眉間にしわ寄せて俯くその背中はひどく寂しそうだった。
「・・・だからベガちゃん。
きっとあいつは、娘さんと君を無意識のうちに重ねているんだと思う。
容姿も似ているから余計にね。
だから、どうか傷が癒えるまでだけでもあいつの事を大目に見てやってほしいんだ」
あいつはああ見えて頼りになる奴だから、と言い残してサロメ隊長は見回りに戻っていった。
しかしその道中、突然振り返って大きく手を振り、申し訳なさそうに笑った。
「辛気臭くなってしまったな。
すまないが、今の話は僕から聞いた事はゴルーダには内緒で頼むよ!
ドヤされてしまうからな!!」
ベガとアルタイルは分かりました!と大きく返事をし、負けないくらいに大きく手を振り返した。
とある日、俺とベガ、そしてサロメ隊長の率いる8名の先輩騎士達の合計10名で、村の警護をする事になり馬を走らせていた。
「我々の警護は町外れの小さな村だ。
敵は恐らくこのあたりで頻繁に起きている人攫いと無差別殺人犯。
何が起きるか分からない。
常に万全の状態で職務に臨む事!」
『了解!』
サロメ隊長の号令に気を引き締め、アルタイル達は目的の村に到着した。
「見回りは当番制だ。
まずは僕とアルー、ウィル、ワトソン、ベガで見回るので他の者は村に挨拶を済ませておくように」
サロメ隊長達は引き続き馬に乗り、そのまま村の四方八方に散らばっていった。
ベガもまた村の北方へと走り、周囲の警戒に当たる。
俺たちも軽い仕事を一人で任せてもらえる程度には任務をこなしてきた。
まだまだ龍を相手するには足りないが、力はつけていると日々感じる。
「アルタイル。まずは村長の元へ行くぞ!」
先輩騎士に呼ばれ、馬を降り駆け足で向かう。
「よくぞお越し下さいました。
本日よりよろしくお願い致します」
物腰丁寧な老人が深々と頭を下げて騎士達を持て成した。
それを見たアルタイル含む騎士達は慌てて頭を上げるよう伝える。
あなたはこの村のリーダーなのだ。
そう易々と下げてよい頭ではないはず。
「ハハハ、お気遣いありがとうございます。
ですが、皆さんにはお願いする立場ですので、頭を下げるのは当然ですよ」
村長はケラケラと笑い静かに、しかし真っ直ぐな目で騎士一人一人を見つめる。
「それでは今日より7日間、どうかよろしくお願い致します」
「よぉっし!!あとは7日間でどれだけバカをぶっ倒せるかだな!
もちろん殺人鬼だとか人攫いなんざ来ないのが一番だがな!!ガハハ!!」
「ささ!この村の酒を持って行ってください!!
この村は酒が美味いですよ!!」
村長への挨拶を終えたものの当番が交代になるまではものすごく暇なので話すうちに仲良くなった村人達と一緒に酒無しでの軽い宴会を開いていた。
仮にも防衛としてやってきた戦力が初日からこんな事してていいのだろうか?
「アルタイル!
聞いた話じゃ、お前中々酒が強いらしいじゃねぇか。
どうだ。任務が終わったら一杯付き合えよ」
「上等です!!酒だけは負ける気しませんよ!!」
「おっしゃあ!!今晩が楽しみだなぁ!!」
・・・あいつら何やってんだか…
ベガは一番最初に見張りを交代してもらう事になり、次の当番と交代しにきた……ところ、アルタイル含む休憩の騎士達がゲラゲラと笑いながら宴会を開いている。
見たところ酒だけは飲んでいないようだが、そういう問題ではない。
これからお世話になる村で、しかも初日からあれだけ騒いでいいのだろうか?
ベガは久しぶりに深い溜息をついた。
〜〜〜夜〜〜〜
その晩は確かに軽い宴会があった。
昼間より人数を減らして4人の騎士を見張りに残し、他はのきなみ宴会に参加していた。
「ベガちゃん、君もよく飲むそうじゃないか!!
僕と飲まないかい!これは隊長命令だ!!」
「サロメ隊長まで!!」
最後の頼みであったサロメ隊長までもが男達の喧騒に取り込まれてしまった…
もはや私の方がおかしいのだろうか、とさえ思い始めたベガは酒場のカウンターで頭を抱えた。
「もぉー…私が間違ってるの…?」
「お疲れ様ですね」
一人言を聞かれ、ハッと顔を上げると蒼い長髪を束ねた可愛らしい女性がワイン瓶を抱えて柔らかに微笑んでいた。
「お注ぎましょうか?」
「あ、ありがとうございます」
彼女は手慣れた様子で素早くグラスにお酒を注ぎ、ニコリと微笑んだ。
その笑顔に思わずドキッとさせられてしまい思わず目線を逸らして注がれたワインを一口頂く。
「このお酒美味しいですね。なんていう名前ですか?」
「イベリスと言います。
私もこのお酒、大好きなんですよ」
これはデネブに買っていったら喜びそうだな。
警護の任務が終わったらお土産に何本か買っていってもいいかもしれない。
円を描くようにグラスを回し、白っぽいお酒とガラスに写る自分を見つめる。
ガラスの中の自分がうっすらと微笑んでいるのが分かった。
「お!そこのお姉さん中々美人さんですね!
どうです? 良ければ向こうで一緒に飲みませんか」
ゴルーダさん中心の男共に飲まれ、悪酔いしたアルタイルが女性に声をかける。
この様子ではすでに酒が回って何考えてるのか覚えてないだろう。
明日、二日酔いに悩まされないようにね。
「フフ、ごめんなさい。
私、もう他の人に捕まってるんです」
彼女はそう言って首から下げたペンダントを開いて見せてくれた。
そのペンダントには写真が入っており、
そこには笑顔の彼女と見知らぬ銀髪の男が……
「もう…ゲットされてましたか…」
「ウフフ!はい。ゲットされちゃってます♡」
情けないアルタイルにベガは小さく吹き出した。これほど早く玉砕するとは面白い。
「いやー、お幸せに! ・・・えぇ〜っと…」
「あ、私、ローズと言います」
彼女の名前はローズというようだ。
この酒場で働いている店員のようで、村人曰く彼女が男付きだと知っていても尚、彼女の人気は高いようで日々男達の注目の的になっているそう。
聞いた話だと彼氏の男はこの村の出身ではないらしく、
30日に一度、彼の住む所にお酒を届けに行く際、彼の方から彼女に会いに来てくれるそうだ。
まぁエボミーとカゲロウ達がしょっちゅうぶつかり回っているこの世界では仕方ないのかもしれない。
まぁそれでも自分の恋人がこんな所で男の目に晒されているというのに、彼氏の男は一体どこで何をしているというのだろう。
女に惚れたならば全てを捨ててそばにいてやるべきではないか!
それもこんなにかわいい子だというのに!
〜〜翌日〜〜
「ヨォしぃ!!!!
サロメ隊長!!早くしねぇとベガちゃんにドヤされますよぉ!!
ガァーーッハッハッハ!!」
ゴルーダさんはまだ酒が抜けきっていないようだ。
朝から妙にテンションが高い。
「す、すまない…。
職務に支障をきたしてしまうとは…」
対象的にサロメ隊長は頭を抱えながら、しんどそうに馬を走らせていた。
どうやら隊長は戦闘とは違い、酒には強くないようだ。
いや、私達が強いだけ…?
どちらにしてもサロメ隊長は今日一日戦闘不能のようだ。




