03 後編
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リシャールは留学期間中に国使として各所を訪問する際、出来る限りヴィオレットを伴った。ヴィオレットは的確な助言をし、両国の橋渡しを担い、リシャールからは勿論、訪問先でも歓迎された。ヴィオレットの活躍は、学園でも伝え広がっていった。リシャールとヴィオレットの二人が適切な距離を保ちながらも、次第に親交を深めていったのは自然の成り行きだろう。
マルスラン王国の王宮主催の茶会が予定され、リシャールはヴィオレットに相伴として同行してほしいと懇願した。いつもは堂々たる風格のリシャールが、その時ばかりは子犬が耳を垂らして縋るように見え、ヴィオレットは思わず二つ返事で承諾してしまった。
「ありがとう。そうだ、ドレスを贈らせて欲しい。すぐに準備させよう」
嬉しくてたまらない様子で、リシャールが申し出た。
「楽しみにしておりますわ」
クスリと笑いながら、ヴィオレットも気軽に受け入れた。まさか後に、この事で赤面するとは夢にも思わなかった。
茶会前日までにコルネイユ侯爵家へ、大量の荷物が届いた。ドレスに靴、宝飾品。香油や化粧品。大量の花束。その全てが最高級の品で統一され、思わず溜息が漏れる程だった。
前日だと言うのに昼過ぎからヴィオレットは侍女達に拉致され、本当に何もかもピカピカに磨き上げられた。当日も日が昇る前から、最後の仕上げがされた。正直、ヴィオレットは半分寝ていたが、準備は恙なく完了した。手がけた侍女達曰く、
「控えめに言って、完璧だと自負致しております」
と満足げに自画自賛していた。事実、彼女たちの働きぶりは目を瞠るものだった。それは予定より大分早くに到着した、リシャールの態度からも窺い知れた。リシャールが客間へ通されると、すぐにヴィオレットがやって来る。姿を見た瞬間、リシャールの瞳は吸い寄せられるようにヴィオレットを見つめたまま、動きを止めた。たっぷり三分近く見つめた所で、漸く弾かれるように我に返った。
「…綺麗だ、コルネイユ嬢」
ヴィオレットの手を取り、その甲に唇を一つ落とす。見る見るうちにヴィオレットの頬は赤く染まり、恥ずかしさを隠すように話題を変えた。
「あの…、素敵な衣装を、ありがとうございます。本当に美しいですわ、ご覧下さい、この絹の光沢を」
「あくまでもドレスは、付属品に過ぎない。美しいのは君だ、コルネイユ嬢。いつも美しいが、今日は一段と輝いている。この姿を、最初に見る事が出来た幸せに感謝しよう」
照れるでもなく、サラリと言ってのけたリシャールは、何時までもヴィオレットの手を離そうとしなかった。初めての距離感に鼓動が早く打ち付け、ヴィオレットの頬を真っ赤に染めた。
「そんな…。お褒めに与り、光栄ですわ。ところで、会場へ向かうには幾分早いようです。グーディメル様、如なさいますか?」
二人は視線を絡めたまま、逸らす事も出来ず、それでも何とかヴィオレットは言葉を絞り出した。すると呟くような声が聞こえてきた。
「…リシャール」
「はい…?」
ヴィオレットが思わず聞き返すと、リシャールは手の甲を口元に当て、恥ずかしそうな顔で更に続けた。
「リシャールと呼んで欲しい」
なんとか伝えきると、彼は耳まで赤くなっていた。言われたヴィオレットも、温かさで心が満たされていく様な、くすぐったい気持ちを味わっていた。
「宜しいのですか?…では改めまして、リシャール様。私の事もヴィオレットと、お呼び下さいませ」
「ヴィオレット、素敵な名を口に出来るなんて。ヴィオと呼んでも?」
思わず目を丸くしてしまったヴィオレットだったが、何だかリシャールの事が可愛らしく思えてきた。さっきまで耳を垂らして、シュンとしていた子犬が、今はもう足元をクルクル走り回っている、例えるならそんな感じに。
「えぇ、勿論ですわ。リシャール様の、御心のままに」
「ありがとう、今日という日を生涯忘れる事は無いだろう」
真顔で答えるリシャールと目が合い、二人同時に噴き出した。
「リシャール様、大げさな。ふふ」
「ヴィオ、時間まで、このまま談話でも?」
「えぇ、喜んで」
コルネイユ家の客室から、穏やかな笑い声が続いた。
◇◇◇
茶会では沢山の令嬢がリシャール目当てに、めかし込んでやって来たが、ヴィオレットを一目見た途端、分かりやすく意気消沈した。
ヴィオレットの纏うドレスを見て、入り込む隙が無いと見せつけられたからだ。銀糸を織り込まれた柔らかな光沢の絹地が、裾に向かうにつれて濃くなるように、紫色に染め上げられていた。そこに刺繍の緻密な柄が重なり、美しさに一層華を添えている。大粒の紫水晶の周りを金剛石が囲み、繊細な意匠の台座に留められたイヤリングに、お揃いの指輪。どれをとってもリシャールの色を纏っていた。リシャールも、ヴィオレットの装飾品と同じデザインのタイブローチを着けていた。しかも中心に輝く宝石を、ヴィオレットの瞳の色と同じ、青色の黄玉にして。
二人揃って、主催であるマルスラン王国のソフィア王妃へ挨拶に行けば、
「十年ぶりかしら、お変わりありませんことね、グーディメル次期公爵」
ソフィア王妃が鈴を転がす様に微笑んでも、リシャールは表情一つ変えずに向かい合った。
「ソフィア妃殿下も変わらず、お美しい。本日は、お招き頂き光栄です」
ヴィオレットを抱き寄せたまま、対応する。ヴィオレットは不敬ではと慌てていたが、リシャールもソフィア王妃も、お構いなし。
「あらあら、そういう事でしたのね。過度な拘束は、嫌われましてよ」
呆れたように王妃が突けば、リシャールはヴィオレットの額に口づけを落とし応戦する。
「そうでもしないと大切なヴィオが壊れてしまいそうな程、学園が荒れていましたので。国が管理しているというのに、怠慢だな。困ったものです」
「まぁ、愛称呼びとは相当ね」
二人が美しい顔で、ほほほ、ははは、と笑い合うのを、内心早く帰りたい…と考えながらも、笑顔で乗り切ったヴィオレット。今日くらいは、とびきり甘いミルク入りの紅茶で癒されたい…ヴィオレットは自分にご褒美をあげようと誓った。けれど大役を終え、コルネイユ邸へ戻れば、一気に疲労が押し寄せ、湯浴みの途中から記憶が無くなっていた。
◇◇◇
あの日を境に、リシャールとの距離が近くなった気がする。もし、ただの気のせいで勘違いだったら、過剰な反応した自分が恥ずかしい事この上ない。もう少し確認してからでも遅くは無い、という結論に達したヴィオレットは、注意深く観察に徹した。
移動の際には常に左手を握られ、腰に手を添えられる。挨拶代わりと言っては、手だけでなく額や頬に口づけされる。流石に、これは確実だろう。一度抗議してみたが、
「それでは同じ邸に住み、ヴィオを閉じ込めなければ守れない。それで良いのであれば、この手を離そう」
と余計おかしな方向へ行きかけたので、早々に諦めた。過保護ともいえる状況だと言うのに、嫌ではない。自分も相当、変になってしまったのだと、呆れて笑った。
遂に留学も残りわずかとなったある日、改まったリシャールがヴィオレットと向かい合う。コルネイユ邸の客間で隣同士に座り、ヴィオレットの左手を両手で握り締め、宝石の様な紫の瞳でヴィオレットを捕えた。
「五日後にエルヴェシウスへ戻る。ヴィオも一緒に来て欲しい」
「それは助手として、という事でしょうか」
ヴィオレットは少しだけ、意地の悪い質問をした。心では否定して欲しいと、願いながら。
「私はヴィオを愛している。これまで何度も態度で示したつもりだったが…そうか、私の努力が足りなかったのだな。…改めて伝えよう。私の伴侶として、エルヴェシウスの住人になってはくれないだろうか?」
自分の左手を力強く包み込むリシャールの両手に、右手を重ねた。
「助手としてなら、お断りするつもりでおりましたの」
「なっ…」
その言葉に、リシャールは焦りの色を見せる。ヴィオレットは頭を横に振って、言葉を続けた。
「だって、リシャール様に対する想いを抑えながら、貴方に仕えるだなんて私には無理ですもの」
「想い…」
見る見る内に悦びに溢れ、リシャールの顔が綻んでいく。
「ですから、リシャール様への気持ちを止めずに居られるというなら、そのお誘いを断る理由を持ち合わせておりませんわ」
「ヴィオレット、あぁ、ありがとう。幸せにする」
リシャールは凛とした声で誓うと、ヴィオレットの華奢な肩を優しく引き寄せ、そっと抱きしめた。
「私もリシャール様を幸せに致します」
そう言ったヴィオレットがリシャールの頬に、ちゅっと口づける。一瞬で全身真っ赤になったリシャールを、してやったりといった顔で見つめる。
「いつも私ばかりがドキドキしていては、不公平ですから。ね」
ふふっと笑ったヴィオレットの顎に指を掛け、リシャールだけを視界に入れさせる。
「それは男として、負けていられないな」
軽くヴィオレットの桜色の唇に、自分の唇を重ねた。茫然とするヴィオレットを見て、リシャールは満足する。
「今回はヴィオが悪い。制御不可だ」
「ふぁっ」
僅かに離れた唇を、もう一度重ねれば更に深くなっていった。
◇◇◇
リシャールの留学終了と共に二人は婚約し、揃ってエルヴェシウスへと旅立った。最後まで別れを悲しむテオフィルに、ヴィオレットは必ず手紙を書くからと約束した。
エルヴェシウス王宮に用意された、ヴィオレットの部屋に向かうリシャールに、護衛役のアンナが言葉を投げ掛ける。
「しかし強引でしたね、嫌われてもおかしく無いほどに。流石、初恋を拗らせている男は、怖いですね」
視線は前を見据え、きちんと任務を遂行するアンナは、今日も凛々しい。
「ヴィオは気付いてないから、余計な事を言うなよ?もし言ったら…これは命令だ」
「これでも許婚も居りますし、命は惜しいので」
アンナは顔色を変えず、淡々と返事をする。リシャールは肩を竦めた。
「物分かりの良い臣下で、安心するよ」
「兎に角、婚姻おめでとうございます。これは従姉として」
視線だけを動かし、リシャールを捉え、ほんの少し微笑んだ。
「あぁ、ありがとう。君の御陰だ」
「えぇ、本当に。最大限に感謝して下さい」
クスリと笑うと、リシャールは「そうだな」と頷いた。
◇◇◇
もう十年以上も前になる、父母に連れられマルスラン王国の地に降り立ったのは。取り立てて目に付いたものもなく、幼い子どもよろしく、視察が始まってすぐに飽きていた。何とか我慢出来たのは、従姉で幼馴染のアンナも同行していたからだろう。
マルスラン王宮に着いて程なく、大人達は茶会や晩餐会に駆り出された。紳士淑女教育の一環として、私と年齢の近い子息令嬢が集められ、茶会と称した、おやつの時間が開催された。特に挨拶をしに来る者も僅かにしかおらず、なんならマルスラン王国の第一王子の元へ皆が押し寄せている状況だ。
各々が好き勝手に好みの菓子を選び、紅茶と共に楽しいひと時を過ごしていた。王家が用意しただけあって、菓子は大人のそれと比べても何ら遜色なく、味も見た目も最高級だった。これを作った菓子職人を呼び、礼が言いたい程だ。
そんな時だった、私の前に天使が現れたのは。
軽やかな白茶色の髪は、この辺りでは珍しい直毛で一部分を編み込み、右側一ヶ所で結ばれている。結んだ所には淡い葡萄色のリボンが大きな蝶のように形よく飾られている。
「こんにちは、何処から来たのですか?」
笑顔で話し掛けられ、思わず固まってしまった。そんな情けない私を尻目に、アンナが気を利かせた。
「隣の国エルヴェシウスからです。お名前を聞いても?」
「コルネイユ家ヴィオレットです。エルべシウしゅ…まだ行った事ないです」
((上手く言えてない上に噛んだ!そして全て無かった事にした))
「私はグーディメル家アンナ、彼は従弟のリシャールです。私たちの国にも美味しいお菓子があるので、遊びに来て下さいね」
「大きくなったら、遊びに行きます!」
すぐさま返事をするヴィオレットは、恐らく菓子に釣られたのだろうが、また会えるかもと内心喜んだ。アンナ、よくやった!だが、その気持ちを見透かされてはいけない。力んで表情を変えない様、気を配る。
「お前なら、私が案内してやる」
無関心に、けれど不快にならないギリギリの所で返事が出来たと思う。
「ほんとうに?嬉しいです」
「ところで、ヴィオレット様、今日のドレス素敵ですね」
ヴィオレットの笑顔に、色々と抑えられなくなりそうになった所で、状況を察知したアンナが話題を変える。こういう時、アンナは最高の働きをする。あいつ幾つだ?確か一つ上だが、誕生日がまだだから今は私と同じか。それなのに…末恐ろ…将来が楽しみな奴だ。
最近のドレスは、砂糖菓子のような淡いピンクや明るいレモンイエロー、透明感のある水色が人気を占めている。けれどヴィオレットは、淡いながらも落ち着きのある葡萄色のドレスを身に着けている。髪に着けたリボンとは同系色で合っているが、他の令嬢と比べると、やや落ち着き過ぎるきらいがあった。ちなみアンナは瞳と同じ翠色のドレスで、大人びた着こなしをしていた。顔を赤く染めた子息がチラチラ見ていたが、当人はどこ吹く風だったし、今は全く要らない情報だ。
「私の名前、菫や紫という意味があって。だからなのかな、好きなんです」
「!」
リシャールは自分の瞳と同じ色を褒められ、まるで自分の事を好きだと言われた気分になった。勘のいいアンナは直ぐにそれを読み取り、リシャールを肘で突く。
「菫の花と紫色ですよ」
「分かっているっ」
するとリシャールの瞳を真っすぐ見つめ、ヴィオレットが呟いた。
「わぁ、綺麗。今まで見た紫で一番好きです」
裏表の無い感想に、それはもうドキドキした。顔に熱が集まるのが分かる。
「っ!」
「あくまでも瞳の色ですから」
「言われなくても分かっているっ」
何てことないと言わんばかりに、アンナが呟く。本当に痛い所を突いてくる。それなのに。
「髪の色も素敵、まるで妖精王みたい。あなたと結婚できる人は幸せね」
暫く茫然と、その言葉が頭の中で繰り返された。じわじわと、その意味が伝わると照れくささと悦びが同時に押し寄せる。
「リシャール、褒められてます」
「言葉にするな!」
アンナは無表情だけど、明らかに楽しんでいる。くっ!
「私の髪は平凡な色だし、瞳は半端な水色なの。全部、普通なの」
少しだけ悲しそうに、そんな事を口にしたヴィオレットを覗き込む。
「そ、そんな事はない!ヴィオレット嬢は美しい。貴女と結婚できたら幸せだろう」
気付いたら口走っていた、勿論本心だったが。すると見る見るうちに、ヴィオレットの顔が綻んでいった。可憐な様に見惚れしまう。
「ほんとう?それなら、あなたが結婚してくれる?」
余韻に浸る間もなく、ヴィオレットが口を開いた。
時が止まった気がした。
その内容を噛み締め、思わず小躍りしそうになるが、周りからすれば唖然としている様に見えたのだろう。
「女の子に、こんな事言わせて返事なしですか。これだからリシャールは」
アンナの声に、ハッと我に返った。そうだ、ここは男としてバシっと決めねばならない。
「ヴィオレット嬢、では約束だ。大人になったら迎えに行く」
「嬉しい、約束です」
その表情を、大人になった今でもハッキリと覚えている。それなのに、その翌年にヴィオレットはフリオン侯爵の嫡男と婚約してしまったと伝え聞いた。あの時は絶望して、荒れた事もあったなと想い出に耽る。そんな障害を越えて、尚も再会したのは運命としか言いようがない。だからこそ、彼女の笑顔を絶やしてはいけない、人知れずリシャールは心に誓いを立てたのだった。
「何故ヴィオレット様に、お話しにならないのです?思い出されるかもしれませんよ?」
「ヴィオ自らが思い出すまで黙っているつもりだ。彼女が思い出さないのなら、きっとその時じゃないのだろう」
はぁーっと大袈裟に溜息を吐きながら、アンナは肩をすくめた。
「夢追い人は、これだから」
「何か言ったか?」
「いえ、何も」
今日も平常運転ね、とアンナは顔色を変えずに笑った。
◇◇◇
エルヴェシウスへ到着した後、二人は婚姻に向けて忙しくなった。リシャールが自分の欲望を詰め込んだ花嫁衣裳を作らせ、その出来に感動したはいいが、当日その衣装に身を包んだヴィオレットを見た途端、
「誰にも見せたくない!式なんて不要だ!」
と子ども顔負けの駄々をこねて、周りに迷惑を掛けた挙句、ヴィオレットの
「私は、お披露目したいのです。リシャール様は私の旦那様だと、皆に知らしめなくてはいけないもの」
という一言で、あっさり決行された。
「旦那さま…だん…な…」
という呟きが、始終聞こえたとか。
その日の夜、夫婦の寝室へとリシャールが足を踏み入れると、寝台に腰を掛けたヴィオレットが目に入る。中が透けて見えるような、下卑た夜着ではなく安心したが、その一枚の儚さに、何か色々込み上げてきた。しかも銀色に輝く生地に裾に行くにつれて濃くなるように菫色の刺繍が施されていた。まるで自分がヴィオレットを包み込んでいるようで、更に要らぬ妄想が掻き立てられた。
「ヴィオ、遅くなってすまない」
「いえ、一人で待つ時間も悪くありませんでしたわ。リシャール様の事だけ、考えていられましたから」
これはもうヴィオレットが焚きつけたのだからと理由づけて、隣に座りそっと肩を抱いた。
「ヴィオ、優しくする。だから、これからもずっと傍に居て欲しい…」
ちゅっと軽く口づけをすれば、薄っすらと頬を染め、ふわりと笑う。
「どうか、お傍に居させて下さいませ。私の妖精王様」
それを聞いたリシャールは、ハッと息を呑んだ。
「!ヴィオ…いつから…?」
「婚約を破棄された私に、リシャール様が手を差し伸べて下さった時ですわ。徐々に霧が晴れるように、段々と記憶がハッキリとしていったのです」
ヴィオレットは恥ずかしそうに、けれど真っすぐにリシャールの瞳を見つめた。遂に、この時が来た…リシャールは幸せを噛み締めた。
「そうか、ありがとう」
「漸く、あの時の約束が叶いますのね。私とても幸せですわ」
「あぁ、私もだ」
二人の影が近づき、ゆっくりと重なり夜に溶けていった。
初恋は実らない、世間でまことしやかに囁かれている教訓の様なもの。けれど初恋同士であったリシャールとヴィオレットは、年を重ね新しい家族が増えても、誰もが羨むほど仲睦まじく、人々の憧れとなっていた。
過度な思いは、どのような感情であれ危険なもの。全てにおいて程ほどが良い、というお話。
おわり
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マウスで描くと、これが限界でした。(言い訳)
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