カセットテープの思い出
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「おばあちゃん、これなぁに?」
娘に頼まれて預かっている孫が私に見せたのはカセットテープだった。
何十年も前の物の割にはケースには艶がある。
「これはねぇ、カセットテープと言うのよ。今はもう聞けなくなったけどね。」
当時の私は外大の受験勉強に一生懸命な時だった。
3食の食事とお風呂とトイレ以外はほぼ勉強していたと言っても過言ではない。
当時の普通高校の英語の授業では合格は難しいと考えていた私は、当時にしては
珍しい近所に住むイギリス人と日本人のハーフの大学生に頼み込んで、英語を
教えてもらっていた。
最初の頃は初めてっぽい拙さがあったが、徐々に家庭教師業も板についてきて、
そのうち私に教えることを楽しんでくれるようになっていたと思う。
ある授業終わりに彼は私にカセットテープを手渡してきた。
「Ken, what it this?」
「これはケン社が開発した英語学習テープだよ。よかったら聴いてほしい。」
興味津々で彼が帰るや否や、私はカセットテープを聞いてみた。そのテープには
彼のお母さんと彼が一緒になって英語朗読してくれている物語の一部が録音されて
いたり、私がよく間違う文法について丁寧に説明してくれていた。
テープの内容も素晴らしかったが、彼が時間をかけてこのテープを作って
くれたことが嬉しかったので、その思いを素直に伝えた。
彼も私が喜んでくれたことが嬉しかったらしく、頻繁に録音したテープを
渡してくれ、回を重ねるごと英語教科以外の教科のアドバイスや、息抜きと称して
彼が好きな洋楽なども録音されるようになり、それは、ちょっとしたラジオ番組の
ようになっていった。
いよいよ受験直前、最後の授業の日が終わった時、「頑張って」と言い、
例によってカセットテープを彼は私に渡してくれた。
私は受験前日にそのカセットテープを聴いたことを後悔したものだった。
「最後にかけたのはQueenのTeo Torriatteという曲だよ。
この1年余り僕は楽しかった。君と出会えてよかった。僕は君が好きだ。
できれば君の気持を教えてほしい。受験結果と一緒に。」
「ケンって、おじいちゃん?」
「そうよ」
私はカセットテープと孫を見ながら微笑んだ。
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