第003話「小さな隣人」
わん!!
俺の名前は、「デュラン」!!
黄金の毛並みに優しい瞳!!そして、誰からも愛されるこの絶対的愛嬌!!それにそんじょそこらの犬と同じにしてはいけない!こう見えて強いんだぞっ!何てったって、魔法も放てる!絶対的この家の守り神!!
趣味は、散歩、狩、井戸端会議かな。最近じゃあ、教会近くに住む俺の愛しの思い犬のデイジーちゃんが、恋をしているらしい。むむむ・・・。気になりすぎて夜も眠れない。
気になりすぎて眠れない事と言えばもう一つだ。最近俺の家に新たなライバルが現れた。こいつが厄介だ。こいつは何でも、この家の主の子供で、二年も子共が出来ないと悩んでた主達に出来た幸いの息子らしい。こいつが出来てからは、下僕のヴァンさんが俺の餌やりの時にいつもにやけながら自慢してきやがる。まぁ、ヴァンさんの飯は旨いから許すがな。
因みに俺の胃袋は普通のそこらの犬と比べてなんでも消化する。俺は犬としても優れた種類らしい。なんでもゴールデンワンダードッグって名称らしい。・・・雑種だがな。
脱線したがこいつのせいで、産まれる直前に大きなねぐらだったこの家から俺は追い出され、この小さな犬小屋ハウス・・・。通称ワンダーハウスに移り住むすることになった。今ではもう小さな隣人ならぬ隣犬だ。しかしこの家の主はわんぱくだなぁ。出産後だってのに、ここ最近は毎日狩りに出かけてやがる。俺のフィアンセのデイジーちゃんもいつかそんな風に、俺との子供が出来てわんぱくになってしまうんだろうか・・・・。
おっと・・・。いかんいかん。ついデイジーちゃんのことを思い浮かべてしまってよだれの海をワンダーハウスに浮かべてしまっていた。この家の主のわんぱくは今に始まったことじゃない。
何せこの家の主は元S級クラスの冒険者だからな。昔は散々だったものだ。主がドラゴンを倒しに行きたいってんなら北の大地のレッドドラゴンやアースドラゴンなんかを無理やり狩に行かされたものだ。それでのんびりした休日が迎えれると思っていた矢先には、迷宮ダンジョンに巣くうS級モンスターを狩りたいだの、海の向こうに行きたいからクラーケンでもぶっ倒して未開の地に行きたいだの・・・。まぁ、その後は散々で、海を放浪した挙句、クラーケンと出くわし船を壊されチーム諸共近くの無人島に流れ着いた。
島に脱出できないまま探索していたらダンジョンが見つかり、そこに入りたいと案の定ワンパク主が言いだして、生きる食料確保の為しぶしぶダンジョンの中に・・・。でもそれが功を期したのか地上の大地に繋がる空間転位陣があり、俺たちが住む大地に転移出来て事なきを得たんだが、後から聞いた話じゃそこは、昔海の盗賊団が根城にしていた島らしくて、俺らが住む大地と島の緊急脱出の架け橋だったらしい。
そんなこんなで、俺も幸いな人生を生きてるよ。まぁ、これも全部俺を拾ってくれた主のおかげだけどな。
俺が拾われたのもたまたまなんだよな。ただ主が珍しい種族だってだけでチームの反対を押し切って拾ってくれたんだもん。
俺は物心がついたころから母親や父親はおらず、自力で木の実や雑草、ウサギなどの魔物をしゃぶって生きてきたんだが、運が悪いことにその日は大雪の山の中で遭難していて、アイスドラゴンに襲われていた。危機一髪で逃れたはいいが、瀕死の状態で洞窟の中で一匹さみしく凍えていた。そんなときアイスドラゴンの巣だったらしく、アイスドラゴンがその巣に帰ってきた。「もうだめだおしまいだ」なんて考えちゃってた時に、当時主の設立した頑固者の一枚岩に助けられて、このありさまって訳だ。まぁ、そのおかげでいつもヴァンさんのおいしい飯にありつけるってんだからありがたいことだよ。
そんな主も今はおとなしく・・・おとなしくはないか・・・・。この村に来たのもゴブリンの群れに襲われていた村を救って救世主と崇められ、居心地が良かったが為にヴァンさんと一緒に暮らすようになったのか。冒険者として放浪してたのにめずらしくな・・・。
というのも…主の実家の両親は都市で老衰してるってんで、どこか落ち着ける平和な村はないかって話でここを選んで、一緒に暮らしていたんだけど、二年前に二人ともぽっくり行っちまって主もここ最近は災難続きだった・・・。ちなみにこの家のばあちゃんの名前はフィリスってんだったっけ。優しくていいばあさんだったなぁ。
そんな思いにふけっていると家の玄関が開いた。
「ガチャッ!!」
おっ。噂をするとこの家のわんぱく主人が今日も狩りに出かけ・・・。
なぬっ!?いつも俺を連れて狩りに出かけてくれるはずだった、うちの主人が…、最近巷で有名な坊主を抱き上げて、少しおしゃれな服で身を包んでいやがる!?
なにぃ。家まではいざ知らず、我がお楽しみの散歩or狩タイムの時間も奪うとは・・・。
解せぬ・・・・。
「あら!デュラン?起きて日向ぼっこしてたの?最近はごめんね。この子が生まれて外に追い出しちゃってたもんね。この子も大きくなってきたからそろそろ家に入れるように準備しときましょうね!勿論、昼間はこの小さな小屋で警備ね!!」
なぬっ!?やったぞ!!わが家に帰ってこれる!!
「そうそう。今日はお楽しみの散歩はお預けね。ごめんなさいね。フィリスを隣人さんたちに紹介しなければならないの。色々出産祝いもしてもらったことだしね。」
なぁ~~~にぃぃぃぃ?やっちまったなぁ~~。犬は黙って・・・。お留守番・・・。
ってやってられるか!!こんのガキィ・・・。家ばかりじゃなく俺の楽しみも奪うとは・・・。
てかなんだこの坊主さっきから俺の事ジトッとした目で俺を見つめてほくそ笑みやがってぇ。粗方、地位でも奪ってやって俺の悲惨な立ち位置を嘲笑しているのであろう!許せぬ。
すると坊主が俺に向かって手を伸ばしてうなり声をあげていた。
「あぅ~~。(なっ・・・。なんて可愛いんだ・・。俺は大の犬好きなんだ・・。しかも毛並みが黄金できれいな瞳・・・。ゴールデンレトリバーの様だ。)」
「あら、フィリス?興味あるの?フィリスには見せてなかったわね。私たちの家の守り主のデュランよ!これから一緒に暮らすことになるから仲良くしてね!デュランもよろしく!」
「ワン!!」
「あっ!そうだ。デュランも一緒に挨拶回り行く?教会近くのデイジーちゃんにも会わせてあげるわね!」
・・・このガキ・・・。今回だけは見逃してやる・・・。デイジーちゃんの顔に免じてな・・・!。
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「おい。聞いたかよ。我らがアイドル・・・、デイジーちゃんの初恋の相手。」
「おいおい。そんなの決まってんだろぉ。そりゃこの俺デュラン様に決まってんだろ!」
「なぁに。ぬかしてんだよ。お前はいつも頭がお花畑な奴だな。」
「じゃあ、俺以外に誰だっていうんだよ。」
「そりゃ最近噂のオリバーに決まってるだろ?」
「嘘つけよ!?俺はそんな噂信じねぇぞ!?」
今話してる白い毛並みに黒い粒粒の斑点模様の犬は、俺の唯一無二の親友、ロッキーだ。
こいつは俺と違って鼻が利く、しかもどこから仕入れているのか分からないが、こいつの情報網は広い。それに信頼できる情報ばかりでいつも世話になっている。
だがしかしだ・・・。
今回の情報については俺も信用ならないな。何てったって・・・、この村一のやんちゃ犬でガキ大将のオリバーが、デイジーちゃんの思い犬だって?笑わせるぜ!何かの間違いだ。
「おいおい。ロッキー。そりゃ何かの間違いだろぉ?第一デイジーちゃんはいつもあいつに悪戯されて困ってるってメス犬業界じゃあ有名だろ?そりゃ今回ばかりは外れだぜ。まるでおいしい餌だと思って手につけたエサが、昨日飼い主が食い散らかした晩飯の残飯だって知らされた時並みの外れクジだぜ。」
「おいおい。デュラ~ン。例えがひどすぎて何言ってるかわかりゃしないぜ。そんなんじゃ大好きなデイジーちゃんもお前の話についていけずに置いてけぼり食らっちまうぜ。歯でも磨いて出直したらどうだ?少しは口臭が良くなってデイジーちゃんも付いて来る気にはなるんじゃないか。話を聞いてくれるだけのレベルにはな・・・。」
「それもそうだな。ありがとよロッキー…。って違う!またお前に言いくるめられる所だったぜ。」
「今俺お前を貶したんだけどな・・・。ほんとお前は天然だな、頭も種族も。それに俺の言ってることは案外的を得てると思うぜ。最近オリバーが協会に出入りしているのをお隣のロンやメス友犬に聞いたんだ。こりゃ好敵手が現れていよいよお前もピンチなんじゃないか?それに今回はちょっと相手がわりぃよ。」
「ぬぅ!どうすりゃいいんだ?ロッキー?俺ら親友だろ?助けてくれよ・・・。」
「こういうときばかり親友呼ばわりしやがって・・・。まぁお前には、ゴブリン襲撃事件の借りがあるからな、なんかいい情報がありゃお前に渡すよ。そんなことよりお前は大変だな。お前厄年なんじゃないか?お前んとこのあのいやらしい目つきしたガキといい・・・。」
「そうなんだよそこなんだよ。」
そんな他愛もない話をしていると、うちのボスが隣人と世間話を終えたらしい。
「デュラン!そろそろ行くわよ!なんかいつにもなく長かったわね!ロッキーと何話してたの?」
「ワン!(内緒!)」
そんな返事をして主のもとに俺は駆け寄っていった。するとロッキーは悲しむ俺の背中を心配してくれたのか、俺に一言言ってきた。
「おい。デュラン!そんな落ち込んでばっかいんなよな。オリバーと対立するようなことがあったら、俺を呼べよ!あとお前に忠告だ!オリバーはうんこが嫌いだ。もし喧嘩するようなことがあったらあいつの顔面に犬の糞でもお見舞いしてやるんだな!」
「ワン!(おう!ありがとう!)」
「それともう一つ、デイジーちゃんは、赤ん坊が好きだって話だ。仲良くなりたいなら、そのお前んとこのクソガキを連れて口説いてきやがれ。あとはお前のそのどうにかしてる糞みたいな話術次第で何とかなるだろ!鼻につくけど消臭剤込みならちっとは増しになるだろ。後は健闘を祈ってるぞ!」
「一言余計だ!忠告ありがとよ!ロッキー。」
そんなロッキーを背にして俺は後にした。
「本当にあなたはロッキーと仲いいのね。今度ロッキーも連れて散歩や狩に行きましょうね!」
「ワン!!」
そして俺は、主が開発した赤ちゃんを背中に乗せるおんぶ装具を付けて、フィリス坊ちゃんをまたがせその場を後にした。のんきにキャッキャ笑ってやがるぜ・・。
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そして、色々と周って最後に到着したのは、教会だ。何だよ塀の外で従僕たちとオリバーがかっこつけて飛び回ってやがる。っへ!無死無視っ!
そうして俺は背中に乗せた坊ちゃんを主に預け、教会の中に入っていく二人を後にした。
さぁてさて!お次は!・・・お待ちかね・・・デイジーちゃ・・!?
俺の目に映ったのは衝撃的なものだった。
なんと、噂は本当だった・・・。デイジーちゃんはうっとりして心ここにあらずの状態だった。うっとりした目で見つめられている・・・。
俺ではなく・・・塀の外の野蛮獣ことオリバーに・・・。
「わっ・・・わん!(デッデイジーちゃん?ひ・・久しぶり・・!)」
歯切りの悪い声で俺は吠えた。しかし彼女の耳には届かなかった。もう少し近くによってしゃべりかけてみた。
「やっ・・やあ!デイジーちゃん!今日も教会を照らす滝の虹と相まって美しいね。そ・・その神をも射貫く瞳で何を見てるんだい・・・?」
「あら!デュラン?も~いやねぇ!またそんな恥ずかしい言葉使っちゃって・・・。それより・・・何を見てたか聞きたい~?」
っと、デレデレした声でそう呟いてきた。
「そ・・そりゃあ・・・気になるさ・!何てったってぇ・・・そのぉ・・。」
デイジーちゃんの前だから上がって、てんぱっちゃった俺・・。そんな歯切れの悪い言葉と共にデイジーちゃんの意志は関係なく、最後まで言わせることをこの世界は許してくれなかった。
「あらぁ~。そうでしょそうでしょ~?私ねぇ・・・。」
ゴクリっ!
「恋しちゃったみたいなの・・・。」
おいおい・・。まじかよ?ここで突き付けてくる~?現実・・。いやいやまだ分からん!あれは警戒の目かもしれない・・。
「お~いお~い?誰にだってんだよぉ・・?そんな本人の前で面と向かって言われると照れるじゃないかぁ・・!」
「も~う!デュランったら冗談きついわ!貴方も魅力的だけど違うわ!」
「何だよ。何だよ。じゃあ~誰だってんだよ~?・・・・もしかして・・」
「・・うん。そのもしかして・・・。」
「お~いお~い。嘘だろぉ?・・オリバー・・?だってのかよ・・?」
「・・・。」
彼女は照れていた・・。これは黒だ。この純粋な毛並みとは裏腹に・・・彼女の心は真っ赤な炎だ・・・・。
「で・・・デイジーーちゃん?」
「な・・・なによぉ・・?ダメなわけぇ?」
「待て待て待て。デイジーちゃん言ってたじゃないか?君は僕の瞳がきれいで好きだってぇ。」
「やだぁ。デュランったらぁ!それは瞳が好きってことよぉ。貴方の事じゃない。確かに貴方は綺麗で瞳も美しく容姿もそんなに悪くない・・・。」
「じゃ・・・じゃあ。何が駄目だっていうんだよ・・?」
「そ・・それは。何っていうか・・・。そう!たくましさよ!」
「へっ・・・?」
「あなたは何ていうか・・・。だらしないっていうか、男としては隣にいてほしいって思わないっていうかぁ、弱弱しいっていうか・・・。魅力に欠けるのよね・・。」
Оh~~~~!!Nо~~~~~~~~~!!!!!!
そんな悲しく落ち込んでいるのも束の間に、さらに俺に追い打ちをかけてくる・・・。
「おいおい。デイジーちゃん、俺をほっといてなんでこんな雑種なんかと話し込んじゃってんだよ~?俺が臭いものが嫌いってのは知ってんだろぉ?鼻が痛くてかなわん!」
「おいおい!そりゃどういう意味だよ?オリバー。」
そう喋りかけてきた生意気な奴はオリバー。右目に傷があり、体格のいいウルフみたいな犬だ。
「おうおう!なんかくせぇなと思ってたら雑種じゃなくうんこかよ!?喋るうんことは~こりゃたまげた。そりゃ絶世の美犬のデイジーちゃんも目が釘付けだわ。」
「おい!うんこじゃない!俺はデュランだ!毎日そこらで飛び跳ねてたから脳みそまでどっかに飛ばしてきちゃったかぁ!?オリバー?」
「おいおいなんだよ言うじゃねぇかよ?てかデュランだったのかよ。今日もまた一段と口がくせぇなぁ?人間の飯くって強靭な腹を持ってるってんで、食べ飽きてうんこ食べるとは・・・。ゴールデンワンダードッグも見かねたもんだな!ちょっとそこらへんで砥石でも噛んで歯を磨いてきたらどうだ?仕上げに教会の神聖な滝でお口の消臭でもして一から出直すんだな?そしたらちっとはマシになるんじゃないか?その滝が汚染されるのは俺はごめんだがな!」
「なぁーーにをぉーー!?オリバー!!また、減らず口をたたきやがって!!」
「何だよ?俺と喧嘩でもするってのかよ?デイジーちゃんはそんな野蛮な事望んでないぜ?」
「ぐぬぅ!」
「ちょっとぉ!二人ともやめてよ!そんなことより私にも教えてよぉ!その踊り!可愛いステップが魅力的だわ!」
「おう!いいぜ!デイジーちゃん!こっちにこいよ!」
「待てよ!オリバー。お前はもうデイジーちゃんを十分独占しただろ?」
「あ?なんだよ?まだ突っかかってくんのかよ?」
「ごめんなさいデュラン。今オリバーと取り込み中なのぉ・・。後にしてね!」
「・・・という事だ。そこでおとなしく見物しとくんだな?デュラン。・・・そうだ。最近お前んとこに新しい家族が出来たそうじゃないか。その子でも面倒見ておとなしく子守しとくんだな。上手く出来るようになったらいつか俺とデイジーちゃんとの子供のベビーシッターとして雇ってやるよ!」
「もうっ!オリバーったら!気が早いんだから・・っ!」
「ぐぬぬぬぬ!!」
・・・・。そうか。わかったよ。その案乗ったぜ!そっちがその気なら・・・!
俺は、オリバー達を後にして教会の玄関をノックした。そして、何故か出てきたのは憎たらしいベイビーを連れた主だった。俺としては都合がいい。ちょっとその子を借りるぜ!ッと思ってた矢先に・・・。
「あら!デュラン!丁度いいとこに来たわね!丁度今、村長から緊急の招集がかかったのよ。ちょっとこの子を見ててもらえない?できるだけ早めには帰ってくるつもりだから、夕刻になりそうならその子を連れておうちに帰えっててもらえない!?それと!何があってもその子を守ってちょうだいよ!」
「ワン!(丁度いいぜ!)」
話が早くて助かるぜ!いい感じに手間かけずに坊ちゃんも手に入ったことだし・・。最後の手段だ!
そうして俺は、また、塀の前まで行きこれでもかという感じにオリバー達に愛くるしい子守を見せつけてやった。坊ちゃんも分かってるようで、俺が飛び回ると大はしゃぎだ!脳みその揺れは・・・。あのわんぱく主の息子だ・・。気にする必要はない!
そうこうやっていると、俺の頑張りが伝わったのか、デイジーちゃんの耳が動き、美しい瞳はこっちを向いていた!
「あら!デュラン!その子はだぁれ!?もしかして・・・。噂の坊ちゃん?!」
「おっ!!デイジーちゃん!気付いたかい?そぉ~なんだよ!ちょ~可愛いだろぉ?」
・・・と今日初めて出会い赤ん坊に嫉妬していたゴールデンワンダードッグがつぶやく。
「ほんとに!?超かわいいんだけどぉ!ちょっと近くで見せてよ!」
「おっおい!?デイジーちゃん」
と、オリバーがおやつを取り上げられた子供のような顔でそう言った。
「あっらぁ!本当にかわいいじゃない!びっくりだわ!あんなワンパクなおねぇさんからこんなかわいい子が生まれるなんて・・・まぁ、あの二人が美形ですものね。それにこの子髪の色はお父さんゆずりなのね!」
「そうだろそうだろ!!可愛いだろ?俺って案外子守が上手で、頼れるお父さんになれると思うんだよね!見直したかい?デイジーちゃん!」
「そうね!少し見直したわぁ!」
そんな熱いラブタイムを交わしていると、やはりこの男がでしゃばり出てきた。
「おいおい!・・デュラン・・・。俺とデイジーちゃんのデート中に何だってんだよ?邪魔しに来るんなら帰りやがれってんだ!」
「何だよ?最初に吹っ掛けてきたのはそっちだろ?」
「あぁ?やんのかよ?!」
「いいのかい?俺はいいけど、デイジーちゃんはそんな事望んでいないぜ?」
「もう!二人ともぉ!やめてよ!」
坊ちゃんを得たことにより立場が逆転していた。ふぅ。ありがとな!ロッキー!このお礼は後で家のジャーキーでもたんまり御馳走してやりゃあ!!
そんな喧嘩をしていると急に村中に笛の音と鐘のサイレンが響き渡った。
カンカンカンカンカンカンカンカン!!!!!!!!!
「ん!?これは!?緊急サイレンだ!?・・・。何だ?襲撃か?」
と、この村の掟を知っているオリバーがそう言った。
「うそ・・・。笛の音が三回・・・。ゴブリン・・・?・・いや違う・・。続けて、間が開いて5回・・。ドラゴン・・・?うそよ・・・。こんな辺境の村に・・・。」
「それはまじでかい?デイジーちゃん・・。主が大変だ・・。急がなきゃ!!」
・・・と、とっさに俺は村長の家の方に飛び出していった。
———————————
それから俺は、村の中央近くまでたどり着き、村長の家めがけて足を進めていった。
「おーーーーーい!!デュラーーーン!!」
俺を呼ぶ声がして、その方向を見てみると・・・。白の斑点が俺の方目掛けて近づいてきているのが分かった。
「お!?ロッキー!!?どうした!」
「どうしたもこうしたもない!!大変だ!村の方にゴブリンどもが潜入してきやがった!今は力自慢が抑えているけど・・・。」
「まじかよ?またゴブリンが?ってか、俺の主は見なかったか?ドラゴンのサイレンが流れたってデイジーちゃんが言ってたんで急いで駆け付けたんだが・・・。」
「そうなんだよ・・今回はドラゴンも近くで暴れてるらしい・・・。ドラゴン退治にはお前の飼い主達が向かったんだけど、俺らのとこも女子供がまだ取り残されてるんだよ!このままじゃヤバイ!助けてくれよ!」
「ま・・・まじかよ・・・!?助けるっつっても・・俺の主達も心配なんだ・・。」
「お前んとこの主は強いからいざとなったら自力で脱出できんだろ?・・・
た・・頼むよ・・!!こんな何度も借りを作って申し訳ねぇっ・・て思ってんだけどさぁ!うちの主が足くじいちゃって・・。動けないんだ・・。」
く・・・。確かにそれは心配だ・・・。だからって俺の主が心配なわけじゃない。なんせ子供を産んで何も体を動かしてなかったんだからな。どんなにS級冒険者だろうと、ドラゴンが相手なら勝手が違う・・・。
し・・・しかしだ・・・。ロッキーは俺の親友だ・・。こいつの悲しむ姿は見たくない。それに・・、さっき借りは返してもらったからな・・・。ジャーキーの代わりとは言わないが・・。
「た・・たのむよ・・。デュラン・・。」
「・・・しょうがないなぁ!分かった!すぐ助けに行くぞ!その後は主が戦っているドラゴンの元に俺を連れて行ってくれ!!」
「ま…まじか!?ありがとう!!この恩は一生わすれねぇ!!・・・しかし、本当にドラゴンの退治行にくのか・・?」
「あぁ!任せろ!!こう見えておれも元S級冒険者だ! (飼い犬だけどな・・・)」
「ありがてぇ!!早速行くぞ!!付いてこい!」
「ワン!(おう!)」
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少ししたらゴブリンと抗争する男集団が見えてきた。周りにはまだ避難できていない逃げ遅れていた村人が散見される。
「ワン!ワン!ワン!」
「おう?!この犬の声は!ロッキー!?しかも、ヴァンさんとこのペットじゃないか!?」
「ワン!」
「だ‥駄目じゃないか!ロッキー!?村の対抗戦力を連れて来てくれって頼んだのに・・。危ないぞ!お前たちは逃げるんだ!」
そんなダメ出しをロッキーが食らっていた矢先に、俺は一体のゴブリンの喉元めがけて飛びつき、のどを牙で掻っ切った。そして赤黒い閃光が、周囲を包んだ。ゴブリンに対抗していたおっさんはその身を血で汚していた。
「ぬぉ!?狼?!いや違う!ヴァンさんとこの犬!?」
そして次に2匹、3匹と順調に買っていく、ゴブリンたちは石を使って投石してくるが、俺の速度には着いて来れず増しては投石は当たらない。飛び道具はめんどくさいので俺はとっさに風魔法でゴブリンの群れを包み、そのまま、炎魔法で竜巻を起こし焙った・・・。
しかし、俺は目を疑う光景が起きた。
なんと俺の放った魔法は20メートル級の火炎竜巻を巻き散らかした。
「へっ・・・?なんか威力強くなってね・・・?」
どうしたってんだ?俺が放ったのは初級火属性魔法ファイアだぞ・・・。
急展開だったもので俺もあんぐり口を開けてその場に突っ立ってしまっていた。周りの村人は当然何が起きたか分からないだろう。
そして数秒たち我に戻り、少々焼け野原になった平地を風と水魔法を加えた混合魔法でとっさに火消しした。
「何だったんだ・・・。この何処から溢れているか分からないような魔力の感覚は・・・。」
そう言っていると、上にのせていた坊ちゃんは何かのアトラクションと思ったのか笑って上を見てにやけていた・・・。
お・・・お前か?・・・まさかな・・・。
そんな冗談を頭にちらつかせながら、俺は次のゴブリンの群れに激突しに行った。・・・一匹目は肩口に大きな爪痕を、二匹目は頭から真っ二つに風魔法を・・・風魔法の威力が上がり後ろにいたゴブリンを4体ほどまとめて撃破したときは驚いたが・・順調にゴブリンの群れの数を減らしていった。
そんなこんなで瞬く間にゴブリンの群れを殲滅していく俺だったが・・・、最後に少々厄介な敵と対立することとなった・・・。それは・・・ゴブリンソルジャーだ。
ゴブリンソルジャーは、中々すばしっこい。普通は俺の敵ではないが・・・こいつは変異種なのか、普通より異常にでかい。すばしっこくて剣技に長けているのがこいつらの特徴なのだが、こいつは成人男性一人分くらいの大きなブロードソードを肩に乗せていて、今まで後ろで優雅に戦闘を観戦していた。お気楽な奴だ・・・何て疑問を走らせていたが・・・。
しかし、舐めてはかかれない。何故なら体中古傷だらけで、そいつの眼は俺が見るからに修羅場をくぐってる目をしていた。
そんなことを考えていると、近くまで付いて来ていたロッキーが俺に話しかけてきた。
「おい・・・。フィリス大丈夫かよ?相手はゴブリンロードか?」
「いや違うと思うな。防具で身を少し固めてある様子からじゃ、ゴブリンソルジャーだろうよ。それにロードだったら、ギラギラに宝石なんかを身に着けてゴブリンを指揮してそうだけど、なんかあいつは違う・・・。戦闘が好きだって感じの風格だ。・・・まぁそう心配するな。何度も言うけど俺はS級だ、ゴブリンキングにだって一対一で余裕で勝利してきたんだ。俺を信じろ。あと・・・こいつを頼む。フィリス坊ちゃんだ。」
「お・・おう・・。お前がそこまで言うなら任せるが・・・。無理だったら撤退するぞ?村の住人はお前のおかげで非戦闘員は逃げ延びることができた。遅くても近くの街のギルドの応援を待つだけだからな。」
そして俺は後ろに乗せたフィリスをロッキーに預け、その威圧的な態度のゴブリンソルジャーに向き直って少しずつ歩み寄る。
距離が2・30メートルになったあたりでゴブリンソルジャーは口元に笑みをこぼし大剣を上段に構えなおした。その瞬間俺は、一気に駆け抜けた。
間合いを詰めると相手は右足を一歩だし、右上段からその大剣を斜めに振り下ろした。俺はそのまま右わきに避け爪斬撃を浴びせた。しかしゴブリンは少し後ろにステップを踏み、左手を握り替えて柄で刺突を繰り出してきた。
そのまま刺突攻撃をワンステップで後ろに避けたところを、ゴブリンはそのままの体制から右手だけで大剣を横に振って大きく砂ぼこりを舞い上げた。その剣スジは俺の胸の毛を少し切るに至ったが、大きく後ろにステップを踏み込んだことによりダメージを受けなかった。
しかし、ゴブリンは横に振った大剣の勢いをそのままにしてその身を一回転させた。その直後、相手は、腰につけたダガーを左手に取り俺の方向にそのままの流れでスローイングした。
「っ!?」
とっさに俺は氷魔法を放ち防御した。・・・しかしなんだ?このゴブリン・・・。出来るぞ・・・。あの大きな身のこなしには似合わず、素早く、かつ戦闘スキルに長けてやがる。やはりあいつはゴブリンソルジャーだな。・・・しかしまいったな。こっちは急いでるってのに・・・。確かに単体で強さもあって、ゴブリンキングも一人で倒したが・・・パーティーじゃあ、俺は支援担当だってぇの。
そんなことを一人で考えていると何やらゴブリンが光りだした。魔法を放つ気だ・・・。周りの粒子が光りだす。金色か・・・。雷系のまほ…
「ライトニング!?」
そのままゴブリンの突き出した手から雷が飛び出した・・・・。
俺はとっさに右に避けた。・・・まじかよ?中級のライトニング使うのかよ?こんな辺境のゴブリンが・・・。ゴブリンの体は古傷だらけで、誰かが打ち漏らしてそのままこの力をつけていったって感じなのかな・・・。にしても剣技が華麗すぎる。魔族領のゴブリンか?
そんな考えもさせる暇なく問答無用でゴブリンソルジャーはライトニングを連発してくる。俺は、それにこたえるように左右に避け、中級氷魔法である氷の塊を飛ばすブリザードショットを放つ。
相手は、俺のブリザードショットを右手に持つ大剣で薙ぎ消していく。俺の威力じゃ・・・通用しないってかよ。所詮俺は、近接戦闘で支援担当だからな。
しかし妙だな。さっきまで俺がゴブリンを退治していた時には、なんじゃこりゃって程の魔法を放っていたのに・・・。どうしてだ?
俺の魔法は自分の魔力+外気の魔素から補って威力を上げて放っている・・・。近くに魔石の類は無かった・・・。
ん・・?待てよ?あの時俺は坊ちゃんを乗せていた。しかもその坊ちゃんは俺が魔法を放つ度に魔素による光を流出させていた・・・。しかしまだ生まれて間もない赤ん坊が魔法を放てるレベルの魔力を持つなんて聞いたことがない・・・。
試してみるか・・・。俺は相手のライニングを避けながら一つの考えをまとめた。
「ロッキー!俺を見らずにそこの家の裏に隠れろ!!」
「なんだよ?どうしたんだよ?新手か!?」
「良いから早く!!」
「わ・・・分かったよ!!」
そう叫ぶと俺は、ゴブリンソルジャーの懐目掛けて走っていった。そして、そのまま目の前で目を瞑り光魔法を放った。
「サンフラワー!!!」
そうすると、俺の体がものすごく光りだして辺り一帯を真っ白に包んだ。若干俺も目を開けずらいがこの魔法は目くらましだ。相手は数秒ほど目に手を当て大剣を振り回していた。
すかさずおれはロッキーが隠れた家裏に行き、ロッキーから坊ちゃんを預かった。
「おい良いのかよ?その子足手まといだろ?も・・・もしかしてその子を囮に・・・?」
「おいおいそんなことするわけ無いだろ!まぁ、任せとけって!!すぐさま片付けるからよ!」
そう言って俺はゴブリンの前に姿を現した。
ゴブリンは堂々とそこに仁王立ちし俺を睨んでいた。すごいきれてやがる。まぁいい。俺の感が正しければ凄いもの見せてやんよ!!
こちらも行くぞ!!
そうやって俺は、坊ちゃんから集中的に魔素を集めるように意識を集中させ、雷中級魔法を放った。
「ライトニング!!」
いつもより多く集まった感覚がした・・・。
しかし魔法は出なかった・・・。その代わりワンテンポ遅れて、周囲の魔素が溢れさって、地面から吸い上げられるように青白く細い稲妻光が地を一直線に何度も走らせ相手の足元を通過した。その瞬間、ゴブリンソルジャーに一筋の青白い柱が縦に走った。
そして轟音と共にゴブリンソルジャーは焼け焦げて、手をだらけさせていた・・・。
数秒後に、膝から崩れ落ち、そのまま前に倒れた・・・。
「何だよこれ・・・。ライトニングじゃない・・・。サンダーボルトだ・・・。」
おれは、今の光景に唖然としてそんなことを呟いていた。・・・サンダーボルトにしてもおかしいことだ。サンダーボルトは本来風魔法で気象を操り電素を帯びさせ、上空から雷を落とす魔法だ・・・。今のは地上から電気が走り、地上から相手を伝って上空に雷を放出した感覚に近い・・・。
そんな思いにふけっていると、ロッキーが俺に語り掛けてきた。
「す・・・すごいじゃないか!?お前そんなに強かったんだな!魔法なんて初めて見たぜ!」
「お・・おう・・そうだろ?スゲェーだろ?・・・俺もびっくりしてる。」
「何だよ?自分も信用してなかったってのかよぉ?そんなに強いならドラゴンも一発だな!!」
そんなことを言われ俺はふと我に返る。
「そうだ!主達が心配だ!今すぐ俺を・・・、主達のもとにつれて行ってくれ!!」
「おう!!そうだったな!」
そう言葉を交わし、ロッキーは主達のもとに足を走らせ、それに続くように俺はロッキーの背中を追いかけその場を後にした。
それにしてもこのガキは一体何なんだ・・・?