第002話「のどかな一日」
やぁ。こんにちわ。私の名前は、「フィリス・A・ウェリントン」・・・。
俺の事は『フィリス』でも、『あああああ』でも好きな方で呼ぶがよい!!
今のところ後者は恥ずかしくて永遠の封印を施すと心に誓っている・・・。ってか・・・なんでこの名前をあのバ神ズは採用したのだ。嫌がらせにも程がある。
確かに俺は、買ったゲームを早くしたいが為に大事な名前決めを『あああああ』に設定して行っていたのは認めよう。しかしだ・・・。
それは、ほとんどが途中飽きて放棄してしまった積みゲーのセーブデータ名達だ。
はぁ~。呪いなのか?これは前世で積みゲーになったセーブデータ達の因果的なカルマなのか?
そんなこんなで命名後は、とにかく俺の家族は喜んでいた。俺は食えなかったが、夕食も豪華に飾られていたのを覚えている。もちろん、その後夫婦の営みである激しいプロレスをするほどに浮かれていた奴等の笑顔も。
あいつら俺が起きてないからいいと思っているのか?俺が寝ている横で堂々とおっぱじめやがった。健全ではないね。お仕置きとして夫のフィニッシュ行く手前に神の咆哮を浴びせてやったことは内緒にしておく。
そんなこんなで4ヶ月の月日が経って今に至る。
転生ボーナスのおかげだろうか。寝返りも3ヶ月で行う事が出来、今では若干だがよちよちと体を前に這いずる動作もお手の物だ。前世でそのような仕事を嗜んだこともあって、凄い既視感を覚え、苦渋の過去を思い出し涙を流したのは内緒だ。
ここまで順調的に身体は作り上がって行ってる。
それに加えて英才教育が家庭方針なのか、寝る前は俺が静かにしている事で本などの読み聞かせをしてくれる。そのおかげで、この世界の言語も多少は理解できるようになってきた。…多少だけどね。あいにく俺は物覚えが悪いんでね。
今日も朝から親父は豪華な朝飯を作って・・・洗濯物を干して・・・寝床を整頓して・・・トイレ、キッチン周りを掃除してぇぇぇ・・・。っておい。
…やりすぎじゃないか?いやいや考えすぎだ。やっぱあれだ・・・、産婦さんの旦那は妻の為に何でもやるってよく言うし・・・。そういう文化も日本には良くあるよ!!
・・・俺はTHE亭主関白を貫くがな。
しかしあれだな、身の回りの掃除やら飯やら作るのに手慣れすぎている。できる夫だ・・・。
それに反して母親は大雑把で、産婦後なのにとても元気だ。朝食後には時たまどこかに出かけている。何をしているのやら・・・。
そうこうしていると、俺も赤子の本分だ。眠たくなって眠りに落ちた。
少し時間がたって、目が覚めた時には父親も察していたのか俺に駆け寄ってきて抱き上げる。いつも思うがここだけは前世の記憶があってほしくなかったと思う今日この頃。
ムサ苦しい男からの熱いキスをお見舞いされる。避けようとするが体がうまく動かせない。嫌がってるの分かってるくせになんて馬鹿親魂が強いんだ。酷い時には口に熱いディープキスだぜ。やれやれだぜ・・・。
しかし凄いもんだな異世界は。父親は泣き出す俺に、ベージュ色の麻袋からあるものを取り出す。透明な計量カップのような容器に入った母親の母乳だ。なんでもこの麻袋は異世界で俗に言われる時間経過なしのマジックバックと呼ばれるものらしい。便利すぎてすげぇ。
俺は遠慮なくそのミルクをがぶ飲みする。父親も目を見開いてその光景を眺めている。どうやら俺の成長は他の赤子と比べたら一段と著しいらしい。
しかし、時間経過なしのマジックバックって・・・、貴重な代物じゃないのか?よくラノベやアニメじゃあ、異世界の住人たちが重宝する貴重な代物で、住民から驚かれる主人公特製チートアイテムなはずなのにな。
そんなこんなで朝食後は親父の本分を見せたいのか、父親が率先して俺にミルクをあげたがってこの習慣が身についている。
そして、昼になるとちょうど母親が返ってくる。何やら今日はめちゃくちゃ笑顔だ。しかし俺はその後の光景に目がくぎ付けになっていた。
そこまでムキムキではないスタイルの良い赤髪の美女母ちゃんは、片手に人ほどの身長はあるイノシシらしき動物をぶら下げていた。
「今日は大物に出くわしたのよ!!こいつっ!!」
「フォレストファングじゃないかっ!?こんな豊かな平原にいるわけないよな・・・。どこまで行ってきたんだ?アイリス・・・。」
「すぐ近くのマーレの森までよ。」
「おいおい。程々にしろよな。すぐ近くって言ったって歩いて25分位かかるとこだろ?別に近くでホーンラビットでも狩ってくるだけでよかったのに・・・。」
「見つけてしまったものはしょうがないでしょ?いつもウサギの肉じゃあ、飽きるしなかなかこいつの肉はうまいじゃないの!」
奥さん…。よだれ、よだれ。・・・おいおい綺麗なお顔が台無しだぞ。
「それに貴方のいつも作る料理は旨いんだもん。期待しちゃって狩りに熱が入っちゃったわ!!」
「ったく。調子いいんだから。」
どうやら、俺の疑問は当たっていたらしい。こりゃ、夫婦が逆転してやがるな。母ちゃん一家の大黒柱だな。にしても稼ぎはどうなってるんだろう・・・。
「だって・・・そんなこと言われたって、冒険者時代の名残がウズウズしてたまらないのよ。それに・・・そろそろ生活費も足りなくなってくるでしょ?子供生まれたら生活費稼ぐために少しづつ鍛えて依頼受けに行っていいって約束してくれたでしょ?貴方も一緒に冒険者やってたんだから分かるでしょ?」
「まぁ、そんなことも言ったし、冒険者だったってのも分からなくもないけど・・・。まだまだ貯金もあるんだし、そんなに急がなくていいよー。」
へぇ。そうなんだ。この夫婦元冒険者か・・・。
「あっ。あとこれ」
アイリスは腰に下げた麻袋から3匹ほどウサギの魔物と1匹の蛇を取り出した。また貴重なマジックバックか・・・。やれやれだぜ。
「ホーンラビット3体とメガスネークね。」
「おっ・・。昼前までによくこんな多く見つけてきたね。」
「こんなの朝飯前よっ!何てったってSランクですものね!」
アイリスは良い笑顔でそう言った。・・・。
この夫婦は思った以上に大物だぞ?・・。そういいながら、父は微笑んでアイリスを抱き寄せてラブラブタイム。
「アイリス・・・。」
「ヴァン・・・。」
白昼堂々と熱いキスをかます二人・・・。暑いね!!
「おぎゃーー!!おぎゃーー!!おぎゃーー!!」
俺は邪魔するように夫婦のラブタイムを遮ってやった。
とりま、ミルク飲ませろ・・・バカップル・・・。
「あっ。行けない!ミルクの途中だったよ!!」
「フフフッまるで見計らってるみたい。フィリスったらすぐ嫉妬するんだから。」
「まったく可愛い恋敵だ。」
・・・うるさい!この汚らしい下郎がっ!
こうして、また俺のにぎやかな一日は終わった。