赤塚陽妻という男
死んだ。
何もかもが終わった。
35歳で無職になるなんて思ってもなかった。
親に金を出してもらって大学を出た。
特に優秀でもなかったから、それなりに勉強を必要としていた。
予習復習をしなければ授業にはついていけない。
だから時間を作らなければ、いけなかった。
留年したら困るからサークルなんぞは参加せず、友達もあまりつくらず何かをなすこともなく卒業してしまった。
そもそも大学で何をすればいいのかわからなかった。
いつもゼミでも端っこの方で黙々と作業していた。
授業も寝たりゲームしたりしないで、ふつうに聞いてテストを受けた。
グループ活動でも周りに合わせていた。
自ら何かをやった記憶はない。
俺には今、二人の子供がいる。
大学生の時に俺の何に惹かれたのか……惹かれたという言い方はおかしいか。
いつもぼっち、成績も良くない、身だしなみに気を使わない、何か優れたことがあるわけではない。どうしようもない没個性な俺に話しかけて来てくれた聖人が今の妻だ。
それからデートしたりして大学卒業後に結婚してほしいと言われて結婚。
結婚後に子供が欲しいと言われて、作って産んでもらって。
そう、俺は自ら何かをしたことがない。
仕事でもそうだ。大学を卒業して、それからそれから……どこにも就職できなかった。
妻や親や親戚は俺のために色々働き口を探してくれて、24歳になって漸く就職することが出来た。
俺は努力できていない。
面接を受けた、履歴書をたくさん書いた。
いろんな会社に足を運んだ。
だがそんなものは努力に入らない。
何も出来ない俺のためにみんなが支えてくれた。
大学卒業後、すぐ結婚した俺たちの為に親や親戚はお金は食べ物をくれた。
両親はもう使わないからなんていって家具や調理器具をくれた。
妻は俺とは違って就職した。
就職して仕事が大変だろうに家事をして、それなのに俺の仕事先を探すのを手伝ってくれた。
こんなやつなのに、別れようって言われなかった。
俺も就職出来て、俺も妻も仕事に慣れて落ち着いて来た頃、子供が欲しいと言われた。
それから少しして妊娠した。
子供は無事に産まれた。
経済的余裕から予定では一人だったが双子らしく、そっくりな男女の子供が産まれた。
子供達も大きな怪我もなく、病気もなく大きくなった。
妻は今の男尊女卑の社会でも自らの優秀さを見せつけ、あっという間に役職持ちになった。
俺は細々と働いた。
働き先は小さな会社だ。ただ業績も悪くない、いいとはいえないが。
先進的なことにも取り組んでいないし、とはいえ仕事はたくさんあるわけで凄く安定していた。
まさか廃業するなんて思ってもいなかったのだ。