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猫になってしまった。

 記念すべき第一部は、エストの昔話です。まあ本編とは全く関係ないんですがね。

 私は天才なのだが、やはり、何事にも限度はあって欲しい。


「⋯⋯こんなことって、ある?」


 私はどうやら魔法研究を一ヶ月間連続で徹夜してやったせいで、いつの間にか寝ていたらしい。何時間、あるいは何日間寝たのかは今のところはっきりしないが、そんなことどうだっていい。今はそれどころではないのだから。


「⋯⋯」


 手鏡に映るのは、白髪のとても美しい少女の困惑した表情だ。自分のことを美少女と表現することは少し恥じらいがあるのだが、まあそれ以外の言葉では表現できないこともまた事実。

 おっと、話がずれてしまった。

 さてなぜ私が自分の姿を見て困っているのか、それは頭の上に付いているものが原因だった。

 もふもふしていて、白色の毛並みの、耳。これは猫耳だろう。自分の意志で動かせるし、正真正銘、私の体の一部である。しかも尻尾も、尾てい骨あたりから生えている。こちらも白い毛並みを持っていて、動かせる。


「⋯⋯えぇ⋯⋯」


 これは私の魔法の圧倒的な才能ゆえの事故ではないか、と推理した。

 おそらく、私は寝ている間に、猫になる魔法を創作した。そして同じくそれを行使した。

 いやどうして猫になると言っても、ほとんど人間の──いや私の種族は魔女なのだが──姿で、耳と尻尾だけがついた状態なのかは分からないが、まあ寝ている間に無意識につくったものだし、不完全であってもおかしくないだろう。


「⋯⋯たしかに猫可愛いなとは思ったけどさ」


 昨日森の中で出会った猫は、白い毛並みを持った猫だった。野良猫とは思えないほど綺麗だったので、何らかの事情で森に迷い込んだのだろう。そのあとすぐに白い猫はどこかへ行ってしまったのだが。


「⋯⋯どうやって戻そうかな」


 世間一間では、魔法の創作は難しいとされるのだが、私ほどの天才であれば簡単につくれる。なので、魔法の効果を打ち消す、あるいは軽減する魔法を新たに創作することだって容易なのだが、それには一つ条件が必要だった。


「この魔法の魔法陣って⋯⋯どんなの?」


 魔法には魔法陣というものが存在する。その魔法陣は通常、魔法の名称を唱えることで自動的に展開され、効力を発揮するようになっているのだが、魔法を創作する場合、その魔法陣を描くところから始まる。魔法陣の描き方によってその効力が変わるのだ。

 そして、特定の魔法を打ち消す魔法を創作するなら、打ち消したい魔法の魔法陣をそこに組まなくてはならないのだ。

 つまるところ、打ち消したい魔法の魔法陣を知らない私は、それがつくれないということである。

 『猫耳が生えてくるような魔法を今考えれば良いんじゃないか』って? ああ、たしかにそうだし、実際、現実的な解決方法はこれだろう。しかし、これはとてつもなく面倒な解決法でもあるのだ。

 魔法は同じような効果を持つものでも、魔法陣は全くの別物ということがある。

 そうだね、数学でそれを例えるとしよう。

 数字の1が答えになる式を考えたとき、その式は無数にあるだろう? 2−1、1877−1878+2、±√1、0^0、etc⋯⋯。

 魔法陣の構成もこれと同じで、同じ効果、つまり答えを持つ魔法でも、それを導き出す魔法陣、つまり式は無数に存在する、というわけだ。

 当然ながら簡単な魔法陣もあれば、難しい魔法陣もある。普段私が魔法を創作するときはできるだけ簡単な魔法陣をつくっているのだが、今回、私がつくったのは寝ている間だ。もしかしたら、とんでもなく難しい魔法陣かもしれないのだ。


「⋯⋯疲れてるし、明日に回そ」


 気絶するように寝てしまうほど、私の体は疲れている。私は考えることを放棄して、その意識を暗闇へと沈めた。


 ◆◆◆


 昼。起きてから一時間が経過しているうちに、軽く十個ほどの魔法陣を描いては試してみたのだが、そのどれもが駄目だった。試しに私が描ける一番難しい魔法陣を描いてみたのだが、それも駄目だった。

 ざっと私が思いついたこの魔法と同じ効果を発揮するだろう魔法陣の種類数だが、軽く二千は超える。流石に四千まではいかないが、それでも全通り試すなら、単純計算で一週間ほどはかかることになる。しかも、これは二十四時間ずっとやり続けてだ。


「⋯⋯」


 魔法研究は好きなのだが、それとこれではまるで違う。何が悲しくてこの猫耳と尻尾を消すなんて言う下らない魔法を創作しなければならないのか。

 ストレスがマッハになりそうだったとき、家の扉が叩かれる。


「⋯⋯タイミング最悪だよ」


 居留守を使うことも一瞬考えたのだが、私自身の天才的頭脳がそれは意味がないと同じく一瞬で結論付けた。そもそも、私がこの家から出るはずがないのだ。居留守をしたとしても不審がられ、どちらにせよ家中へ入ってくるのだから。

 ということで私は家の扉を開いた。


「エスト、久しぶりに──」


 青髪の女性、レネは、私の姿を見るやいなやフリーズした。


「⋯⋯あなたって可愛いもの好きだったのね」


 とんでもない誤解だ。


「違うから。⋯⋯何があったか話すよ」


 文章に表すなら三行ほどの文章量で何があったかをレネに説明し終わる。


「へえ、そんなことが」


「⋯⋯」


「大変ですね」


「⋯⋯」


「⋯⋯いやにしても、ここまで触っていて気持ちいいとは。もう戻さなくていいんじゃないですか? 可愛いですし」


 レネは先程から私の猫耳をずっと触っている。不快感を覚えると思ったのだが、中々どうしてそれ自体に不快感はなかった。いやむしろ心地よさがあったほどなのだが⋯⋯なんだろう、この気持ち。凄く恥ずかしい。


「やめて⋯⋯」


「あ、ごめんなさいね」


 レネの手が離れると、恥ずかしさはなくなったのだが、どこか寂しくもなった。⋯⋯うん。これ以上考えるのはよそう。私は猫じゃない、私は猫じゃない、私は猫じゃない⋯⋯。


「エスト? どうかしましたか?」


「⋯⋯あっ、いや、何でもないよ」


 今は顔を見ていられないから、私は思わずレネから目を逸らしてしまった。


「⋯⋯もしかして、さっきの気持ちよかったですか?」


「うっ⋯⋯そ、そんなこと⋯⋯」


 レネの顔に笑みが浮かんでいる。ただの笑顔だというのに、とても怖い。


「えっ、何その手」


 レネの手がゆっくりと迫ってきているのを見た。私はなぜか酷く焦っており、身動き一つ取れなかった。抗うことさえ、できなかった。


「っ⋯⋯ちょっ⋯⋯まって⋯⋯」


「うーん。やっぱり手触りがいい。ってあら? 尻尾もあるのですか」


 私の尻尾に、レネの手が触れた。


「──んっ⋯⋯」


 気持ち良い。頭が真っ白になっていく。

 されるがままになっていて、主導権はレネに握られている。初めてのこの感覚は、他人の記憶からでしか知らなくて、私自身で体験したことのない感覚だった。

 ナニカ来る。ナニカが。


「まってレネ、もどれな──」


 ◆◆◆


 あれから数時間が経過して、夜が来た頃。


「うう⋯⋯」


「本当にごめんなさいね⋯⋯気持ちよくてつい⋯⋯」


 あの恥ずかしさと快楽はさながら初めてを奪われたような感覚だ。

 ──いやもう思い出したくない。


「また明日何か美味しいもの持ってくるから⋯⋯ごめんね」


 そう言ってレネは帰った。

 でもこんなことをされても、私はレネのことを嫌いになれないらしい。


「⋯⋯はあ」


 早く元に戻りたいと願う傍ら、あの触られるという快楽の記憶が脳裏に浮かんでしまう。


「⋯⋯いいや、戻るべき。⋯⋯でも今日はもう疲れた⋯⋯」


 何回かイッてしまったのだ。魔女としての私は子供を生む機能を失っているのだが、体の構造やその他のあらゆる機能は人間時そのまま。当然、性的な快楽も普通に感じるわけである。

 いやまさか耳と尻尾が性感帯になっているとは、私も思わなかった。


「⋯⋯」


 魔法で湯を沸かして、お風呂に入る。湯の暖かさを感じて、日々の疲れが癒やされていく。


「⋯⋯」


 試しに自身の尻尾を触ってみたが、あまり何も感じなかった。

 たしかに、人に触られる方が気持ち良いことはあるだろう。例えばくすぐりも、自分自身にしたってあまりこそばゆくはないが、他人にされると一転、とてもこそばゆくなる。

 しかしそうだとしても、自身で尻尾を触ったとしてもほとんど何も感じないのはおかしい。少しばかりこそばゆい程度である。


「⋯⋯もしかしてだけど、レネの触り方が特別だったってこと?」


 だとしたら、レネはテクニシャンなことになる。


「⋯⋯でもあの感じ、無意識っぽいし⋯⋯天然ってこと? ⋯⋯えっ、怖っ」


 長風呂ものぼせてしまうから良くない。あと色々と忘れたいことが多くなってきたから、早く寝たい。

 汚れてしまった服は明日洗濯するとしよう。洗濯している間に着るものはレネに買ってもらおうか。

 私は長い髪の毛を便利な魔法で乾かしてから、泥のように眠った。


 ◆◆◆


 翌朝。


「⋯⋯ん?」


 私の体から、尻尾がなくなっているのを見た。

 手鏡で見ると、頭の上にあった猫耳もなくなっていた。


「寝ている間に、無意識に私がやったのかな⋯⋯?」


 この魔法を創作したときのように、無意識下でこの魔法を打ち消す魔法をつくったというわけだ。


「⋯⋯」


 ようやく解放された。もっと喜んでいいはずなのだが、どこか惜しい気持ちがある。


「⋯⋯えっと、猫耳と尻尾を生やす魔法はこういう構成ならいいかな⋯⋯」


 ──私は知ってしまって、どうやら元には戻れなくなったようだ。


「エスト、昨日はごめんね。これ、王都で一番高いケーキですから機嫌直してください!」


 そのとき、家の扉が開かれて、レネがすごく申し訳なさそうな顔でケーキを持ってきた。


「ひっ⋯⋯!?」


 それ以降、しばらく私はレネとはまともに会話できなくなっていた。

 エッッッ⋯⋯。

 いや、うん。私のが大した官能描写じゃないことは分かるんですが、エロ漫画描く人の気持ちが少しはわかった気がします。

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