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終わりと終わりと終わりの戦い 4

 遠目で見たそれは、きらきらと光りながら、段々大きくなっていった。青白いと思ったのは四つの羽で、それが鱗粉のようなものをまき散らしながら飛んでいた。ホワイトリリーははじめ、それが思っているよりもずっと近い位置にいるのかと思った。それは蝶か蛾のどちらかに見えたからだ。


 だがそれが――蝶のような羽を持った魔法少女であることを知ると、ルビーへ叫んで警告しようとしたが、彼女は回避行動に忙しく、今集中を切らせれば向こうの攻撃が命中してしまう危険が高かったため、その警告は遅れてしまった。

 そのため、「ルビー! 魔法少女が来てる! 知らない子だ!」と、ホワイトリリーが叫んだ時には、蝶のような羽をもつ魔法少女――ホーリー・アンバーはルビーと魔法使いの間に滑り込んでいた。


 その瞬間は、まさしくルビーの胴体に魔法使いの足が命中しようとしたときだった。ルビーはそれを防ぐことも避けることもできたが、アンバーはその間に割り込み、巨大な琥珀を出して魔法使いの攻撃を防いだ。種もしかけもない琥珀だ。魔法使いの攻撃など防げるはずはないが、アンバーが触れると、琥珀は溶けた飴のように粘性を持ち、魔法使いの足を包み込んだ。魔法使いの足は速度を緩めながらもアンバーの繊細な肉体を傷つけようと動くことはやめなかったが、アンバーがもう一度琥珀に触れると、琥珀が硬直し、魔法使いの足は重さからアンバーより下を掠めていった。


 魔法使いは次の行動を取ろうとして、自分の足についた琥珀がまだ取れていないことに気が付いた。魔法使いは別の足でその足をがりがりと引っ掻き、琥珀を削った。明らかに嫌がっていた。

 魔法使いが琥珀を削ることに執心している間に、アンバーとルビーは空中の少し離れたところに移動していた。

 アンバーは四苦八苦する魔法使いを見やった。


「あれは僕が設計したんだ。見た目はあれだが、三歳児ぐらいの知能はある」


「あなたが設計……?」


「僕はホーリー・アンバー。信じないだろうが手伝いに来た」


「ホーリー・シリーズの魔法少女!」ホワイトリリーが言う。「なんの目的でそんなこと! ルビー! ダメだからね信じちゃ!」


 ホワイトリリーが叫び、アンバーが視線を投げる。


「済まないが黙っててくれないか。君には関係のないことだ」


 アンバーは冷たく言い捨てた。アンバーにとってマスコットは、魔法の国がつくった粗悪なおもちゃでしかなかった。ラブラドライトは彼女たちの固有の人格を信じていたが、アンバーはそうではなかった。作り物の体に、作り物の人格。AIとそう変わらないものであると。


「なにを……!」


「ホワイトリリー」


 ルビーがホワイトリリーを諫める。ルビーが深呼吸してアンバーと向き合う。その背後の魔法使いも。


「設計したというなら、あれを止めることもできる?」


「ルビー!」


 ホワイトリリーが言う。ルビーはもちろん、ホワイトリリーの主張がわかっている。ルビーだって突然現れて助力がしたいという、それも敵戦闘員の言葉を、全部信じるわけじゃない。ただアンバーが敵であるならば、自分を攻撃しない理由はないし、そもそも魔法使いの間に入る理由もないと考えたのだ。


「それは無理だな」なぜかアンバーが少し誇らしげに言う。「確かに設計したのは僕だが、起動させたのはラブラドライトだし、仕事が終わるまで止まらない仕様になってる」


「そう……でもさっきやったみたいに魔法使いを手に付いた水あめを振り回す子供みたいにしておくことはできるのよね」


「いや、それも少しだけだ」アンバーが説明をする。彼女によれば魔法使いは三歳児並みの知能を有し、そのため外部からの刺激に対し、いやいやをすることもあるが、同時に逸脱しすぎないようコードがかけられている。だからあれで止められるのは一度きりで、二度目はないとのことだった。


「やくたたずね」


 ルビーは言い切った。


「あなた、アンバーの魔法少女ならかなり体が脆いんじゃない? 私の同僚――オブシディアンも頑丈じゃないほうだけど、あなたはその更に半分程度? 他になにかできることは?」


 アンバーがむっとした顔になった。


「おい、なんだその言い草は。せっかく助けに来たっていうのに」


 ルビーが同じく険しい顔で返す。


「あのね、気づいてないみたいだからいうけど、私はあなたに怒っていないわけじゃないからね。設計したとかさらりと言ったけど、ようするにこの状況はあなたのせいってことよ。なのに助けにきたですって? 人を馬鹿にするのも大概にしてくれる?」


「いいか、こっちは……」


 アンバーがもっとひどい言葉で言い返そうとしたのを、ルビーが指で制止した。


「助けにこなくてもよかったんだって言うつもりなら、そんな強がりを言うもんじゃないわ。助けにくるつもりがないなら初めから来ないもの。私にちょっときつい言葉を使われたからって帰るようなら、あなたは本物のクソ野郎ってことよ。でも違うんでしょう。見たところプライドがある。憶えておいて。あなたが私を助けるんじゃない。手助けをするんでも。三人でこの場を乗り切るの。運命共同体としてね」


 ルビーの激しい剣幕に押され、アンバーが後退する。顔がへちゃむくれになり、子供のように俯くが、アンバーは自分よりもルビーのほうが正しいことがわかっていたし、彼女のいう通りアンバーにはプライドがあった。


「ごめん……」


 アンバーが不本意そうに謝る。


「ごめん? それだけ? なにがごめんなの? 言ってみなさいよ」


 背後の魔法使いはあらかた琥珀を取り切っていた。あとは足の関節の間に入り込んだ小さな欠片をとるだけだった。アンバーはルビー越しにそれを見ていて、ホワイトリリーもそれを見ていた。


「いや、だから……その……くそっ、そんな場合じゃないってのに……だから、悪かったよ。偉そうにして。確かにこの状況は僕が引き起こした面もある。だけど、やりたかったわけじゃない。信じてくれ。ほんとに助けに来たんだ。もうすぐオブシディアンもダイヤモンドもここに来る。それまで足止めをする」


「それから。私の友達にあり得ない口をきいたこともよ。あなたにリリーを無体に扱う権利なんてないわ」

 そんなもの、誰にもね。

 ルビーは誰かを思い出したようにつぶやいた。


 アンバーはホワイトリリーに向き直った。そして、「悪かった」と言った。ホワイトリリーは「い、いいよ」と引き気味に言った。


 ルビーは満足げに息を吐き、魔法使いを振り返った。ルビーはもちろんしっかりと、魔法使いの動向は把握していた。そのうえでやったことだった。


「それじゃあ、足止めをしましょう。策があるんでしょう。それと――そう、あなたさっき、オブシディアンとダイヤモンドの話をした?」


 アンバーが頷く。


「ああ。邪魔者も来るけどね。それより今は魔法使いだ。君と僕とで、あれを止める」


「リリーもね」

 

 間髪入れずルビーが付け加える。


「そう。そのマスコットも……。ああもう、調子狂うな……」


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