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私たちのダーティ・ワーク 3

前話を改稿しました。この話を読む際は、前話の最後の方から読むことをお勧めいたします。

 クォーツはダイヤモンドの手を自分の手で包み込み、彼女が投げ捨てたくだに視線を落とした。


「……それ、無味無臭でとっても不味いでしょう。でもそれ、魔力の塊だから。飲んでおいて損はないわよ。これから凄く……タフな夜になるでしょうから」


「それは一体どういう意味……ウッ」


 ダイヤモンドが胸の辺りを抑え、呻き声をあげる。


 クォーツはゼリー状の液体を垂れ流す管を拾い上げ、ダイヤモンドの前で咥えてみせた。そのまま、コスチュームで隠れた喉をわざわざ顔をあげて露出させ、ゼリー状の液体をごくん、と飲み込む。


 口から離した管の先をガーゼで吹き、ダイヤモンドに渡す。

 ダイヤモンドは疑いの目を向けて、なかなか受け取ろうとしない。


「ダイヤモンド。時間があまりないの。これから全部を説明するのにはとても時間がかかるし、あなたには出来るだけ万全の状態でいてもらわないと。あなただって、自分の体の状態はわかるはず。だから疑う気持ちもわかるけど、今はこれを受け取って」


 クォーツが管をダイヤモンドに向ける。


 ダイヤモンドは逡巡するような表情を見せたあと奪うように管を受け取り、口に咥えた。じゅうとゼリーを吸い込むと、確かに体の中にパワーが溜まっていくのを感じた。


 クォーツはそれを見ていたが、ダイヤモンドのベッドの隣で、電気ケトルのスイッチが起るのに気が付くと、離席してお茶をいれた。ダイヤモンドはそれらの動きを険しい眼で見ていた。


 クォーツが戻ってくると、ほんの少し落ち着いた様子で口を開く。


「さっきラブラドライトのタワーだと言ってたな。あいつの関係者かなにかか」


 ダイヤモンドが相手の出方を窺うかのように、首をもたげて言った。この状況は、あまりに出来過ぎている。そう感じていた。


「私はラブラドライトのところの魔法少女よ。クォーツ、つまり水晶の魔法少女ね」


 ダイヤモンドがイラついた声を出す。


「違うだろ。ラブラドライトのとこの魔法少女は全員知ってるけど、お前みたいのはいない。トルマリン、ネフライト、ガーネット、バンデットアゲート、ムーンストーン、トリフェーン、ジルコニウム、コスモオーラ、ヘリオドール、アクアマリン、イーグルスアイ、で最後にラブラドライト。この十二人がこの区域の魔法少女の筈だ」


 とはいっても、入れ替わりの激しいラブラドライトの区域では、十二人という人数以外は常に流動的なのであるが。ネットニュースを見る限り、彼女のような魔法少女が仲間になったと書かれていたことはない。


「すごい。全部覚えてるんだ。私なんてまだ半分ぐらい怪しいのに」


 クォーツがわざとらしく嘲って、小さく拍手をした。


「変な駆け引きはやめろ。時間がないって言ったのはお前のほうだろ」


 ドスを効かせてダイヤモンドが言う。それでクォーツは、肩をすくめて微笑む。


「と、言われてもね。本当のことだから。確かにあなたの言う通り、十二人の中には入っていないけど、確かにラブラドライトの下にいる魔法少女よ。ホーリー・シリーズの子たちみたいに、昨日今日仲間になったというわけでもないわ」


「ホーリー……なに?」


「ホーリー・シリーズは次世代型の魔法少女のこと。ほら、あなたがついさっき戦った二人――スピネルとウルツァイトみたいな連中のことよ。彼らはキュア・シリーズの次世代機なの。というより、ジェネリックと言った方が正しいのかしらね。ほとんど独占状態だった魔法少女市場に現れた、新しい軍事商品。それがホーリー・シリーズ。あなたたちはいちおうまだ売り出してるけど、色んな面で負けてる旧型というわけね」


――こいつはなにを言っているんだ?


――一気に情報が増えて、わからなくなった。アタシはホーリー・シリーズについて訊いただけの筈だ。それはあのクソ硬い魔法少女と、姿を消していたクソイモ野郎のこと。

 そこまではいい。だがそのあとはなんだ?

 

 なにか恐ろしいことを聞かされた気がする。

 自分たちの存在そのものを脅かすようなそんな。


「ああそうか……あなたはまだ知らなかったんだっけ。あなたたちはね、軍事商品なのよ。兵器なの。考えてもみてよ。あなたはなにが出来る? 車を持ち上げること? 銃で撃たれること? コンクリートを片手で割ること? 街をぶっ壊すこと? 人をたくさん殺すこと? なんだって出来るでしょう? それってとても恐ろしいことよ。そんなことが出来るのが兵器以外のなんだっていうの? っていうのは、ちょっとズルい言い回しで、ちょっと公平じゃないか。でもとにかく、そういうことよ。あなたたちは軍事商品。戦争の道具。血と涙のある兵器。わかった?」


 ダイヤモンドは言葉を振り払うように頭を振った。だが無駄だった。彼女はこういうとき何も理解できないような馬鹿ではないし、すべて飲み込めるほど冷徹でもなかった。


「魔法少女の軍事利用は禁止されてる。それは――」


 それは“砂漠の鉄”作戦において、アメリカが秘密裏に魔法少女を借り受け、イスラームのテロリストを襲撃させたことが露見したさい、国際条約にて禁止されていた。


 だが、そういうことじゃないだろう」


「それは――それは……いや。そうか」ダイヤモンドは観念したように目を瞑った。「“魔法の国”か」




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