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私たちのダーティ・ワーク 2

                ▽


 ここで、事態は一時間ほど前に遡る。


 オブシディアンがラブラドライトのタワーに乗り込む前。ホワイトリリーやルビーと合流する前。ラブラドライトのタワーには、満身創痍のダイヤモンドが運び込まれていた。


 彼女は拘束室に収監され、大きな魔法使いが暴れだすころまでそこで時間を潰させる予定だったのだが、体のダメージがひどかったため、回復室に入れられることになった。


 先ずコア・ストーンが体から出た影響を確かめ、消費した魔力を充てんする。とはいえ、これには時間がかかる。輸血と同じで、細い血管を通すように魔力を補充するにはかなり時間を要するのだ。そのため、彼女は魔力の通っている管を口にあてがわれ、ベッドに寝かされていた。


 治療を担当していた魔法少女は、処置を終えて回復室から出ていき、大侵攻の備えに臨もうとした。振り返ったところで別の魔法少女に遭遇し、こんなところに来てもいいのかと質問をした。その魔法少女は大丈夫だと答えた。


 その魔法少女はダイヤモンドの近くまで来ると、隣でじっと座っていた。彼女が覚醒するまでにそう時間はかからないだろう。その時を逃さないよう、じっと。


 そして、その時が来た。ダイヤモンドはコア・ストーンの不調から回復し、意識を現世へ引き戻した瞬間、喉を通っている管に気が付き、加えて拘束にも気が付き、目を白黒させてベッドの上で暴れだした。


「ようやく目覚めた。ちょっと待ってて。今、外してあげるから」


 その魔法少女は、ダイヤモンドの額を撫でた。ダイヤモンドはその魔法少女を困惑に満ちた目で見上げた。


 彼女は生地の薄いメイド調のコスチュームの魔法少女だった。メイド調と言っても、よくコスプレに用いられるフレンチスタイルのメイド服ではなく、オールドなヴィクトリアンスタイルのメイド服だ。そのメイド服を、十六の女の子が普段着にリメイクしたようなものを想像すれば、それが彼女のコスチュームである。頭についた丸いヘッドドレスには半分に割った水晶がくっつけられていた。


 気性の荒いダイヤモンドがおとなしくなってしまうほど、彼女は幻想的だった。まるでほとんど役割を終えた燃えさしの白い木炭のように、彼女の存在は薄かった。美人で、顔が印象に残らないではない。コスチュームはありがちだが、それも理由ではない。まるで目の前にいないかのような違和感。


 存在を認識しているのに、それが今にも頭から離れていってしまいそうになる寂寥。今感じる筈のないその感覚に、ダイヤモンドは混乱していたのである。


「私はクォーツよ。キュア・クォーツ。語呂が悪いから、キュアじゃなくてキュアー・クォーツって名乗ってることもあるけど」


 ダイヤモンドの視線に気づいた魔法少女が、そう自己紹介した。

 

「これからこれを外すけど、少しの間動かないで、私の話を聞いて。心配しなくてもあなたの味方だから。あなたの力が必要なの。正確には、戦えるあなたの力が……」


 クォーツがダイヤモンドの拘束具を外す。ダイヤモンドが腕を振り回し、喉に刺さっているくだを引き抜いて、クォーツとは反対側のベッドの向こうにゼリー状の液体を吐き出した。盛大に咳をする。気持ちが悪い。胃がむかむかする。いったい何を飲まされていたのか。


「エホッ、エホッ、クッ。んん……」


 クォーツがダイヤモンドの背中をさすり、ダイヤモンドがその手を掴む。


 ギラついた目で睨みつける。


 こいつは誰だ。こいつはなぜここにいる。そして何より、自分はなぜここにいるのか。そもそもここは一体どこなのか。あのクソッタレの魔法少女たちはどうなったのか。あの場に残っていたホワイトリリーもだ。


 ダイヤモンドには訊きたいことが多かった。あまりに多かったために、言葉が出てこなかった。


 クォーツはそのまま、ダイヤモンドの眼を見返していたが、彼女がなにも言わないでいると、やんわりと彼女の手と自分の腕のあいだに指を挟みこみ、一つずつ剥がしていった。


「ここはラブラドライトのタワーの地下。回復室よ。あなたは深刻に傷ついていたから、拘束される予定だったけど、先にこっちに入れられたの」


 クォーツが言う。その儚げな見目とは裏腹に、彼女の態度は毅然としている。


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