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オブシディアン・マスト・ダイ 4

                  ▽


――さて、どうしたものか。


 オブシディアンは空を飛びながら、ラブラドライトを襲撃する作戦を立てていた。


――ベストは、見つからないように言って気づかれないようにあっちを倒すこと。でもそれは無理だろうな。行くのは向こうのタワーだから。


 ラブラドライトの最大拠点ということもあって、タワーの警備はちゃんとしている。ラブラドライト下の魔法少女が常駐している他、監視カメラやセンサーも完備されているのだ。オブシディアンは以前にホワイトリリーとラブラドライトに会いに行った際、散々そのことを聞かされた覚えがあった。


――正面からセキュリティを突破できるか……? 魔法少女がどれぐらいいるのかにもよるな。いや、いっそのことこっちは空を飛べるんだから、最上階に突入するのはどうだ……ラブラドライトの部屋はそこにあるんだから。


 見つからないよう、タワーに近づくまでかなりの高度を保って飛行していた。雲の近くを飛んで、タワーの屋上が見えるところでまで飛ぶ。

 そこまで行くのに二十分かかっていた。ルビーたちもスタジアムに着くころだろう。ルビーから渡された通信装置から、逐一報告が来ている。


 オブシディアンは空中で停止した。


 オブシディアンは携帯を取り出した。

 ラブラドライトの追っかけがSNSで発信してるのだ。それによるとラブラドライトがタワーに引っ込んだらしい。抗戦の準備を整えるためだと言って。実際に大侵攻を起こすのは、他ならぬ彼女なのであるが。


 オブシディアンが遠くからタワーを観察する。


――問題は、ラブラドライトがそこにいるかということだ。


 オブシディアンは考えた。


「屋上に降りよう。ダクトから中を覗けばわかるはず」


 オブシディアンは黒曜石を操作し、屋上に降り立った。自分の姿がカメラの視界に入ろうとする瞬間、小さな黒曜石を飛ばして破壊する。ダクトの蓋をこじ開け、黒曜石の欠片をいれる。


 オブシディアンがダクトから解析をはじめる。オブシディアンは黒曜石に魔力を込めることで、ある程度の探知が行える。マスコットであるホワイトリリーほど正確ではないが、魔法少女かそうでないかぐらいは見分けられる。そこから特定個人の魔力を探すには、その人の魔力の波形を憶えておかなければならない。一年以上前に一度会っただけのラブラドライトが相手では不安もあるが、やるしかない。


 あまり時間はかけられない。監視カメラを破壊したから、異常に気付いて誰かがラブラドライトに連絡するかもしれない。


 オブシディアンは目をつむって黒曜石の欠片に集中した。


「――――――――――――…………―――――――思ったより見えないところもあるな……ブロックされてるみたいだ……。魔法少女が、1、2、3……これだけか? いや、見えないところにもいるのか……――――――――――…………――――――――――いた。エレベーターで今こっちにあがってきてる。これ多分、ラブラドライトだ」


 オブシディアンは再び考える。


――このまま行けば部屋の前の広間でかち合うか……? ああ、こんなことになるなんて。


 迷いが生じる前にオブシディアンはダクトに飛び込み、足もとに出現させた黒曜石をドリルのように回転させ、建物を掘り進んでいった。広間は最上階から二つのフロアをぶち抜いてつくられた場所で、ラブラドライトがこのタワーを拠点にするまでは普通のアパレルショップが二階分入っていた。


 オブシディアンのドリルはがりがりと建物を削りとり、深いところまで掘り進んでいった。


                 ▽


 そしてオブシディアンが天井を破って現れたとき、ラブラドライトは広間の階段をあがり、自分の部屋へ戻ろうとした瞬間だった。瓦礫や埃とともに落ちてきたオブシディアンはラブラドライトと眼があった。


 オブシディアンは赤いカーペットの敷かれた床に着地した。

 ラブラドライトと相対する。


 ラブラドライトは銀色のざらついたドレス――丈はちょっと長すぎるがあれはバトルドレスと言われるものだ――を着て、頭には複雑な意匠の金属製のヘッドギアを付けていた。美しいが、恐れを感じた。眼だ――以前あったときと眼が違う。


 オブシディアンは怯んでいた。

 ラブラドライトはこちらの登場に驚いていない。それどころか喜んでいる様子だ。あれは歓喜だ。だが、それは内的なものではない。自分の中だけで喜びを持っているもののしていい眼ではない。耽溺するのではなく、飲み込むような、こちらを拘束しようとするような強い力がある。お気に入りのおもちゃを手放さない子供のような頑なさを感じる。


 自分はおにんぎょうなのだ。


「よく来たね。オブシディアン。君と会うのは久しぶりだよな。確か――一年にはなるか。話には聞いていたが、随分頑張ってるそうだねえ……プレーナイトも、アメトリンも、まだ活動していたならさぞかし喜んだだろう」


「無駄話はやめろ。ラブラドライト。そんな話をしにきたんじゃない。お前の計画を止めるために来たんだ」


 オブシディアンは黒曜石の爪を両手に創り出した。ラブラドライトがそれを見下ろす。


「スライサーを失ったのは、痛手だったねえ。あれがあればもっと楽に行っただろうに。でもその状態でアンバーを倒したのは流石だよ。本当ならもう変身したくもないだろうに」


「大侵攻は、どう、止めるんだ。次に関係ないことを喋るなら八つ裂きにするぞ……!」


 オブシディアンが脅しをかける。

 ラブラドライトが口を曲げて肩をすくめた。


「ああ、大侵攻か。大侵攻、大侵攻、大侵攻、大侵攻……。なあオブシディアン、外のやつらを見たか?」


「彼らはなにも知らないで生きてるんだ。魔法少女がいったい何者か、魔法少女がなにをやっているのか。最近は魔法少女でさえもそれを知らない」


「君が知っていると思ってることについてじゃないよ? オブシディアン。魔法使いと魔法少女は同じところが作り出している? それがどうかしたか? そんなもの、魔法少女が魔法少女として生きるのに重要なことじゃない」


「重要なのは魔法少女らしさだ。魔法少女の仕事は夢と希望を与えること……それなのに最近は俗っぽくなったと思わないか? 街頭を見ればコスチューム姿で踊る魔法少女や、グッズに刻印されたデフォルメされた姿……魔法少女はそんなことのために美しいのではない。確かにこの流れは止められないだろう……人というのは、魂より金を選ぶものだからな。だがな! だが。そんなのは私が許さん。誠意を持ち、公正公平な魔法少女を取り戻す。そのためには、ホーリー・シリーズはうってつけなんだよ」


「スピネルやウルツァイトが? マジで言ってるのか?」


――こいつ、イカれてるんじゃないか?


 オブシディアンは思った。理由と規模が違いすぎる。


「あーはーはーん? スピネルとウルツァイトね。ま、彼らは言うなればバーターだ。いい悪役だろう。魔法少女としてはこれっぽっちも認めていないが、悪役としては気に入っている。その点中途半端なのはアンバーだろうな。アンバーをあげなかったのは、なにか理由があるのかな? オブシディアン」


「そこが君のいいところだ。オブシディアン。君は確かに魔法少女らしからぬ行動が多いが、誰よりも魔法少女を信じている。ひょっとすると私以上に。君には私の考えがわかるんじゃないのかい?」


「妄想に人を巻き込むのはやめろ! わたしはただ、お前を止めにきただけだ。これ以上は本当に待たない。時間稼ぎなんて無駄だ!さっさと大侵攻を止める手段を教えろ!」


 オブシディアンが自分の体の周りに黒曜石を浮かせ、いつでもラブラドライトを襲うことができると示す。だが違和感を覚えていた。この女、いくらなんでも無防備すぎる。他の魔法少女はなぜまだ来ない? 魔法少女が三人しかいなかったのはなぜだ?


 オブシディアンは吐きそうになっていた。ラブラドライトの計画を訊いて、ラブラドライトの眼を見てそれが本気だと知って。はじめからこの場所には、ラブラドライトの毒が充満していた。


 一方のラブラドライトは、相変わらず絡みつくような視線でオブシディアンを見ている。

 彼女がなにを考えているのかは、窺い知れない。というより、見えてはいても理解はできないのだ。この狂人の考えは。

 ラブラドライトはオブシディアンに向け、いつものたおやかな笑顔を返した。


「なあオブシディアン。君が魔法少女をやめるといった原因についてだが、心当たりがあるんだ。それは――」


「次はないと言った!」


 オブシディアンがその言葉に被せるようにしてラブラドライトに襲い掛かった。しかし黒曜石の爪がラブラドライトに到達することはない。突如として床を爆発し、下からあらわれた何者かがオブシディアンに体当たりを喰らわせたのだ。


 魔法少女たちのなかでも軽いほうに位置するオブシディアンの体は、いとも簡単に吹き飛ばされた。そのまま壁を破壊しそうなほどの勢いで衝突し、地面に落下する。


「なんで……」


 オブシディアンは体の痛みに耐えつつ、唸り声をあげた。


「お前がここにいる!」


 オブシディアンを弾き飛ばしたのはホーリー・ウルツァイトだった。ダイヤモンドと戦ったときと同じ、踊り子と道化師を足したようなコスチュームと、七つの黒目。


 そして、床の穴からボウガンを構えた修道女も現れる。


「あらあら騒々しい。お楽しみがはじまるっていうのにね?」


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