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オブシディアン・マスト・ダイ 1

幕間も本編です。

               ▽


 上空からでも爪痕は確認できた。キュア・オブシディアンは黒曜石に乗り、東の空から飛来して、むしり倒された木の側に着地した。


――静かだな。


 ときおり人のこえは聞こえる。窓の割れた車から盗難防止用のブザーが鳴っている。オブシディアンは助けを乞われ、家屋の扉を塞いでいた瓦礫をどかした。オブシディアンはなにとなにが戦っていたのかと問うた。彼女がアンバーから断片的にだが聞いたところでは、ホワイトリリーがここに現れる。そしてスピネルとウルツァイトもまた、自分を追って現れるだろうという話だったのだ。


 ホワイトリリーにこんな戦いが出来る筈もない。ルビーは学校があるならこの時間には来ないだろう。


 その人は戦いをほとんど見てはいなかったが、戦っていたのはダイヤモンドと、踊り子のような魔法使いだったと言った。ダイヤモンドは負けて連れていかれてしまったと。マスコットのことはわからないと。


――ウルツァイトだな。スピネルは来なかったのか?


 オブシディアンはその女性にお礼を言い、大通りの瓦礫を跨いでホワイトリリーを探した。


「リリー!」


 口元で掌を立てて、声を大きくする。


「リリー!」


――もうここにはいないか……? ダイヤモンドが連れていかれたというのなら、ルビーに連絡を入れているかもしれない。わたしにもいれたかもしれないが、わたしの連絡先はいま家に放置されているから、誰も出ない。


 横転したバスの陰へ至ると、飛び散った血が見えた。それを見て急に、オブシディアンが怖くなる。あの小さなホワイトリリーはすでにこの世にいないのではないかと。実際、ダイヤモンドがやられたなら、ホワイトリリーを守る者はいなかったろう。


 オブシディアンが焦燥を顔ににじませ、三度目のコールをしようと息を吸ったときだった。


「オブシディアン。きみ……」


 バスの近くに倒れていた自動販売機の残骸の向こう側から、見慣れた白い生物が現れた。


 オブシディアンはホワイトリリーへ駆け寄った。


「リリー。無事だったか」


「オブシディアン」


                   ▽


――オブシディアンが来た。


 ホワイトリリーは彼女へかける言葉をずっと考えていた。怒ればいい? 安心すればいい? 質問することは山ほどある。だが、ホワイトリリーは自分がどのような態度を以てオブシディアンと接するべきか決めかねていた。


 だからはじめにオブシディアンがホワイトリリーの名前を呼んだときは、出ていくことができなかった。二回目もだ。先ほど連絡のとれたルビーとはちゃんと話すことができたのに。


 三回目に呼ばれたとき、ホワイトリリーはついに出て行った。強い口調で詰問するつもりだった。自分の混乱をそのままぶつけようとしていたが、目にしたオブシディアンの姿を見て、なにも言えなくなってしまった。


「オブシディアン、きみそれ……」


 ホワイトリリーの眼は特殊である。ふつうの風景をふつうにみることもできるが、そこから魔力を検知し、時間さえかければ相手を解析して弱点を割り出したりすることもできる。


 それによれば、オブシディアンは立っているのが不思議なほど消耗していた。コア・ストーンの光が脆弱で、あのアンホーリー・トライフェルトと戦ったあとと比べても、ほとんど変わらないぐらいの光しか発していなかった。


 そのうえ、彼女はコスチュームの上からではわかりにくいが、体のあちこちが欠損している。


「きみ、体の半分以上が今、黒曜石で……」


「ああ……」


 オブシディアンがホワイトリリーの安否を確認出来て安心したのか、ため息をしてバスに寄り掛かった。そのまま座りこむ。スカートの裾から覗く足は、黒曜石でできているようだ。


「実はけっこう消耗してる。敵がここにいないなら、一度変身を解きたいんだけど」


「大丈夫。いないよ」


「そっか」


 オブシディアンが変身を解いた。ゴシック・ロリータ服にアリス風のパンプス、ヘッドドレスは糸がところどころほつれいて、顎紐が取れかけていた。ヘッドドレスの間からでている金髪もかなり乱れているし、顔色も悪い。


「なにがあったの? オブシディアン。どうしてこんなことに……」


「さっきまで敵の魔法少女と戦ってたんだよ。ホーリー・アンバー。変なやつだったな」


「ホーリー……、なに? 魔法少女ってどういうこと? どうして魔法少女と……」


 そういえばダイヤモンドも、戦っている相手はどうやら魔法使いじゃないらしいと零していた。

 なにか、決定的に自分の知らないことがあるのだ。ホワイトリリーはそう思った。


「ホーリー・ウルツァイト。それと多分、ホーリー・スピネル。さっきまでダイヤモンドと戦っていたのは、そういう名前の連中なんだよ。ホーリー・シリーズの魔法少女……。それがいったいなんなのかなんてきくんじゃないぞ。わたしも知らない。わかってるのはあいつらはK県K市の魔法少女になり替わろうとしていること……そしてラブラドライトがなにか知ってるってこと。それぐらいだ」


「ほんとに?」


「ほんとにって?」


「ほんとにそれだけしか知らない? ホーリー・シリーズのことだけじゃなくて、全部のこと。他になにか知ってる? どうしてきみは魔法少女をやめたいなんて言ったの? 今もそう思ってる? ラブラドライトとは、なにもない?」


 オブシディアンは肘に顎をのせ、何事かを考えている様子だった。ホワイトリリーは彼女の横顔をじっと見つめて、答えを待った。


 オブシディアンが口を開く。


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