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キュア・ダイヤモンドvsホーリー・ウルツァイト 4

 スピネルはダイヤモンドの狙いが正確だったために驚いたが、その攻撃をかわすこと自体は、彼女にとってそう難しいことではなかった。剣はスピネルを通り過ぎ、天高いところまで登って行った。


――そうだ。そうじゃなきゃ困る。


 ダイヤモンドは剣が外れたことを悟り、内心でそう言った。


 スピネルは矢をつがえ、ダイヤモンドではなく、ホワイトリリーを狙っていた。ウルツァイトを援護するより、自分の身を護ることを優先したのだ。ボウガンを構える。と、矢を発射しようとした次の瞬間、ダイヤモンドの剣から衝撃波が放たれ、直撃したスピネルは建物と建物の間に落下した。


「当たったみたい!」


 ホワイトリリーが叫び、ダイヤモンドが頷いた。ダイヤモンドは固有能力を用い、腕を振るうことで空中に静止していたサップレッサー・ウィズ・ダイヤモンドをその身に戻した。


「うまく行ったか」


 そのままチャージを放てればそれでよかった。スピネルにあてるのでも、彼女のいる建物にあてるのでも。ダイヤモンドの必殺技は射線だけではなく、その周囲も巻き込む範囲攻撃の性格も持っている。そのため普通に使うことができなかったのだ。


 ここまで彼女は我慢していた。


 ウルツァイトもスピネルも、ダイヤモンドにとっては一瞬も隙を見せられない敵だ。自分よりパワーのある相手と、自分には見えない相手なのだから。だがダイヤモンドを戦いづらくしているのは、そのような理由ではなく、周りに人がいることだった。ふつう魔法少女が戦うときは、手すきの魔法少女や警官が避難誘導にあたるものだが、折悪いことに魔法少女はもちろん、警官もこのあたりにおらず、自主的に逃げた民間人も多くいたものの、みんなが逃げられたわけでないことはちゃんとわかっていた。そのため範囲攻撃は使えず、なるべく家屋も壊さないようにしたい。ダイヤモンドはそういった器用な真似はあまり得意ではなかったが、魔法少女である以上、多少気を遣っていた。


 だからチャージは空中で使わなければならなかった。もちろん、スピネルに絶対命中させるために考えた策でもあったが、建物の中の民間人に被害が及ばないためでもある。


 ホワイトリリーが高所にいたのも、スピネルの攻撃を観測するためだけではない。民間人の避難の状況を見るためでもあったのだ。そして今、ダイヤモンドの周りにはほとんど人がいなかった。いる場所と、いない場所。その両方を把握していた。


 立ち上がったウルツァイトは、ダイヤモンドを睨みつけていた。まるで目から光線でも出そうとしているみたいに。冗談ではない。ウルツァイトの固有能力がなんなのかまだわかっていないのだ。ダイヤモンドはウルツァイトがなにか行動を起こす前に、剣を投げた。ウルツァイトがそれを枝葉のように手で払いのける。剣を投擲すると同時に距離を詰めたダイヤモンドは、ウルツァイトの頬に強烈な右ストレートを浴びせた。怯んだすきを見て、右、右、左、そしてボディに打撃を加える。


 さっきからずっとそうだったが、この化け物はガードがド下手だ。ただ手を前に出すだけだから、すぐこっちの動きを見失う。顔に拳を突き出せば、体がひける。そしたら足を動かしてサイドに廻り、脇腹を抉るショットを放つ。


 サンドバッグと変わらない。


 違うのは、そう違うのは、まるで堪えてる様子がないということだ。

 ダイヤモンド。全宝石の中でトップの硬さを持つこの宝石をコア・ストーンとする彼女は、当然ながら力が強く、耐久力もある。仮にさっきからやってるコンボがオブシディアンに決まれば、彼女はバラバラになるかもしれない。やりはしないが。


 彼女じゃないにしても、その他の魔法少女に対しても、そう――ダイヤモンドの次に硬いルビーやサファイアの魔法少女に対して同じようにしても、やはり大きなダメージとなるだろう。だがこいつは違う。こいつは何発喰らおうが怒ったり鬱陶しがったりしても、ほとんどダメージが通っていないのだ。


――やっぱりチャージをぶつけなきゃダメかな……。でも使えない……。さっき使ったし、依然として避難できてない人たちがいる。


 ウルツァイトに跳躍したダイヤモンドは、ウルツァイトの肩に乗り、首を両腿で挟み込み、体重をかけ押し倒そうとした。体術だ。とにかく今は、これで攻撃する。


「うううううう~っ!」

 ウルツァイトが暴れる。ダイヤモンドはさらに体重をかける。

 ダイヤモンドはかなりの重さだ。勢いもつけた。しかし、ウルツァイトは苦悶を顔に浮かべながらも、それに耐えようとしていた。ひやりとしたものがダイヤモンドの背を走る。


――まさか、倒れないのか?


 ダイヤモンドがウルツァイトの脳天に肘打ちをしようとしたそのとき、ウルツァイトは重さに負け、仰向けに倒れ込んだ。ダイヤモンドがウルツァイトに馬乗りになった。「どけ!」とウルツァイトが喚く。ダイヤモンドが鼻へ拳を叩き込む。一発では鼻の骨さえ折れない。二度、三度。まだ折れない。それどころかダイヤモンドの手が痛んできた。


――こいつなんの魔法少女だ? 硬すぎる!


 しかし、ダメージが表に出ないからといってウルツァイトがなにも気にしていないわけがない。彼女の幼い精神からすると、殺意を持って馬乗りになり攻撃してくるダイヤモンドは恐怖と怒りの対象だ。


「やめろ! やめろ!」


 ウルツァイトは大声で要求していた。

 ダイヤモンドはその要求を呑まなかった。それどころか真剣に、ウルツァイトを倒す方法について考えていた。

 ウルツァイトの体内にパワーが溜まる。ホワイトリリーはそれに気づいたが、今度はダイヤモンドに警告する時間はなかった。

 ウルツァイトの体から放たれたエネルギーを受け、ダイヤモンドが勢いよく跳ね飛ばされ、すぐ近くに落下した。そのダメージを刻みながら、ダイヤモンドはそのエネルギーに既視感を覚えていた。


――まさかアタシと同じか? ダイヤモンド? そんなことありえるのか?


「もうやだ! お前キライ!」


 ウルツァイトが地面に落ちていたモーニングスターを拾い上げる。ダイヤモンドは地面に寝転がったまま、動けない。


――これは“麻痺”だ。ダメージと違う。こいつのコア・ストーンも、アタシと似てるけど、性質が違う。アタシが使ったのは衝撃波で爆発みたいなものだけど、こいつのは電撃。ビリっときて、動けない。


「そんなこと冷静に考えてる場合じゃないって」


 ダイヤモンドは頭だけ動かし、ウルツァイトの様子を見た。ウルツァイトは立ちながら痙攣していた。頭をしきりに動かし、死後硬直した死体が無理やり動いているみたいな動きで、ダイヤモンドの頭にモーニングスターを振り下ろす。


 振り下ろそうとする。


「ぶわっ、なんだ! なんだぁ!」


 ウルツァイトが仰け反った。ホワイトリリーが襲い掛かったのだ。といっても、目の前まで行って驚かせただけなのであるが。


「どけ!」


 ウルツァイトの掌をホワイトリリーが避ける。

 ダイヤモンドは固有能力で剣を手に引き寄せ、剣と自分の体内で魔力を循環させた。そうすることで麻痺を解消させることができる。これは、剣に備わった力だ。


 ウルツァイトの攻撃を避け続けていたホワイトリリーだったが、四度目のビンタを喰らい、離れた瓦礫まで飛ばされていった。


「リリー!」


 ダイヤモンドがなんとか立ち上がる。


――まだ痺れは残っているが、動けないことはない。こいつは頭が悪いから、どうにか上手く立ち回れば……。


 ホワイトリリーは、ずっと抱いていた疑問が現実となって現れていることを感じていた。


 魔法少女が、来ない。


 そう、すでに戦闘をはじめてからかなりの時間が経っているにもかかわらず、ラブラドライトのところの魔法少女が一人も現れないのだ! 戦いが起こっているのはラブラドライトの区域だと言うのに! 救援、それどころか、民間人向けのアラートさえ鳴っていない。


 明らかな異常事態だった。ここに来て、焦りが一層強くなっていた。ダイヤモンドはもう長くは戦えないかもしれない。ただでさえ弱っていたというのに、これだけ激しい戦闘をこなしているのでは。


――今からでもルビーを……いや、連絡して、仮に今すぐ繋がったとしてもここまで五分はかかる。それに、仮にと言ったが、さっきから連絡はしている。だが出ないのだ。なんどもかけているから、それで異常に気付いてくれるかもしれない。それでここに来てくれるかも――。


 ホワイトリリーは頭の中で考えを巡らせた。それよりもっと重大な問題があった。今どうすべきかということだ。今、自分にできることはないか。ダイヤモンドに近づいて簡単な回復魔法をかけることはできるだろうか。できるかもしれない。


――いらないから、そーゆうの。


 唐突にホワイトリリーは怖くなった。オブシディアンに拒絶されたときのことを思いだした。オブシディアンはよく戦闘中の回復を拒み、後ろに回っているよう言ったのだ。


 要らないことをしただろうか。それが累積して、魔法少女をやめる結果になっただろうか。


――違う。今は。ダイヤモンドのことを考えないと。


 ホワイトリリーの近くに落ちていた携帯が、魔法使いの出現を知らせるアラートを鳴らした。ダイヤモンドもそれを聴いていた。


「ようやくかよ……」


 ウルツァイトを牽制しつつ、安堵の息を吐く。

 ホワイトリリーも同じ気持ちだ。だから携帯に表示された“門”の所在地を見て、彼女は絶句した。


「ここじゃ、ない……? ここじゃない。これは……」


 この区域の、ちょうど反対側の、一番遠いところ。規模は巨大。


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