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君、死に給うことなかれ 3

 数十秒後、オブシディアンはパーライトを地面に組み伏していた。


 元々、オブシディアンがパーライトに負けるわけがなかったのだ。

 パーライトはオブシディアンから片腕を奪った。確かに、その状況に持ち込めば勝ちの希望はあった。だが現実はアーマメントの効果でパーライトもまた右腕を失い、あまつさえ武器も落としてしまった。片腕対片腕。状態は五分、むしろ消耗している分だけオブシディアン不利まであったが、片腕で戦うことにも慣れているオブシディアンと、新人のパーライトではパーライトのほうにできることなど一つもなかった。


 立って、転んで、投げられて、捻りあげられて、オブシディアンは途中からいじめているような気分になってきていた。商店街から出て来たらしい、いつのまにかできていたギャラリーからも、こうも一方的だったため、だんだんヒールを見る目で見られるようになっている。パーライトもパーライトだ。「痛い痛い痛い痛い!」とおおげさに叫ぶものだから、ギャラリーの同情を買い、オブシディアンは完全に悪者になっていた。


「訊きたいことがあるんだよ」


 そろそろ抗議の声が飛んできそう――そんなタイミングで、オブシディアンが自分の下にいるパーライトに声をかける。


「お前ら、何者なんだ? ホーリー・シリーズ。あいつらもそう名乗ってた。お前もそうだ。ホーリー・オブシディアンなんだってな。キュア・シリーズとはどんな関係だ? それから、そうだ。トライフェルトとも関係があるのか?」


 腕を捻りあげられた状態のパーライトは、オブシディアンに反抗的な目を返すが、腕に体重をかけられると、情けない声をだして呻いた。


「うわっ、やめ。ふざけんな! 言えるわけないでしょ!」


 オブシディアンがさらに体重をかける。パーライトの肩がみしみしと音を立てる。


「こっちはいくらでも時間を使えるんだぞ? お前の関節をひとつずつ外してやろうか? エレファントマンより面白いものが出来上がるかもしれないぞ」


「魔法少女がやっていい脅しじゃないですよそれは!」


 パーライトが叫ぶ。


「わかった! わかりました! 言いますから、まず解放してください! こう痛くされちゃ答えられるものも答えられませんよ!」


「わかった。それじゃ変身解除しろ」


 パーライトが悔しそうに顔を歪める。

 オブシディアンがさらに体重をかける。

「早くしろ」


「もう! わかりましたわかりました! お願いだからこれ以上いじめないでくださいよ! 加減知らない人だな! わかりました! わかりましたけど! ここ! ここで変身解除させる気ですか!? わたしだって魔法少女ですよ! 身元簡単に晒せませんよ! あんたもわかるでしょそれぐらい!」


 オブシディアンは、チッと舌打ちして、最後にもういちど体重を思い切りかけてからパーライトの上から退いた。悶絶するパーライトが起き上がる前に武器を拾い上げ、それをたてて威圧する。


「逃げようとするなよ。素振りでも見せてみろ。これへし折るからな」


 パーライトが足元に転がっていた自分の腕を拾い上げ、断面をあてがい、左手でおさえる。オブシディアンを恨みがましい目で見て、「びっくりですよ、もう」と零す。


「それからわたしの腕を返せ。どうやったらあの泡なくなる?」


 オブシディアンが上空に浮かぶ腕をさして言う。パーライトが柄のでっぱりを押せば割れると説明し、押すと、泡が割れ、数秒経ってべちゃりと音をたてて地面に落下した。

            

                 ▽


 パーライトは一六ぐらいの少女だった。三つ編みで、地味な文学少女という風情だったが、目や口にふてぶてしさが現れていた。オブシディアンはホーリー・シリーズの魔法少女も自分たちと同じ立場にいるらしいと気付いて驚いた。


 パーライトとオブシディアンは、人のいないところまで跳んでいき、そこで変身を解除した。オブシディアンはパーライトの武器をもったままだ。パーライトがまず変身を解き、次にオブシディアンが変身を解く。変身を解いてすぐ、ヘッドドレスの前にレースをつけ、顔を隠す。パーライトはネットカフェではオブシディアンに気づいていなかったのか、ゴシック・ロリータの少女を見て、「随分と可愛らしいんですね」と呟いた。できれば魔法少女姿のままでいたかったが、気力の回復のためには、ずっと魔法少女でいるわけにはいかなかった。


「そりゃね。魔法少女ですから。わたしだって普通に契約して、普通に魔法少女になったんですよ」


「つい数日前のことですけどね。魔法少女になって、ラブラドライトのところに配属されました。昨日ラブラドライトになにを言われたって訊きましたよね。なにも言われてません。彼女にはね。彼女のマスコットがやってきて、今日はなにもするな、絶対に動くなと言われたんです。それだけですよ」


「じゃああんなことが起こるとは知らなかったのか?」


 パーライトが苦虫を噛み潰したような顔になった。


「後悔はしてますよ……。あの二人があんなにイカれてるとは思わなかった。確かにわたしとは違うと思ってたけど、あそこまでとはね」


「ほかになにを知ってる?」


「じゃ逆に訊きますけど」パーライトが言う。「あなた何を知ってるんですか? だから狙われてるんですよね」


「知らないのか?」


「ある程度は、知ってますけど」

 パーライトがオブシディアンはキュア・シリーズの魔法少女たちが知ってはいけないことを知っていること、彼女の魔法は危険で、だから“行動”より先に倒しておくべきであることを言われたと言った。

 

 “行動”というのがなんなのかも気になったが、それより先にオブシディアンは自分の仮説が正しいか確かめるため、質問をした。


「じゃあお前は“知って”いるんだな。というより、ホーリー・シリーズは全員それを知ってる?」


 パーライトが唇をへの字に曲げる。


「“それ”がなにをさすのかは知りませんけどね」


「それっていうのは魔法少女と魔法使いが同じところでつくられてるってことだよ」


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