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ウィスパー・イン・ザ・ライオン 2

 そういうときでも、時は進むのだ。


 ダイヤモンドとK市をルビーに任せ、ホワイトリリーは問題を解決しなければならない。

 オブシディアンの不在。

 ダイヤモンドの呪い。

 どちらも重要で、どちらかを優先するというのも難しい。

 ホワイトリリーは、キュア・ラブラドライトの担当区域にいた。駅前の大きな交差点のうえで、いろんな人の視線を受けながら、ホワイトリリーはラブラドライトが区域内に作った自分の“拠点”に目を向ける。

 天高くそびえたつそのタワーは、以前は多くの衣料品店などが入っていた巨大商業施設だった。タワーの壁面には、建物の名称である数字の看板がたてられていたのだが、今は降ろされ、代わりにラブラドライトが自分で考案したという、魔法少女のロゴが掲げられている。

 中は一二人の魔法少女たちの居住スペースや、彼女たちをサポートする機材などが備え付けられている。

 ホワイトリリーは緊張していた。一人でこのタワーに昇るのは初めてだった。以前、一度だけ来たことがあるのだが、そのときはオブシディアンと二人で、避難勧告の手伝いに人手を借りるためだった。

――オブシディアン。

 彼女はここへ来る前に、オブシディアンの家に寄っている。もしかすると彼女が帰ってきていないかと、一縷の望みにかけて。でも彼女の姿はなかった。心配する両親がいただけだった。

――ダイヤモンド。

 二人ともなんとかしなくちゃ。

 ホワイトリリーは気を引き締める。


 ホワイトリリーはタワーの受付に話を通し、しばらくすると、魔法少女たち各々の部屋へと繋がっている共用のスペースへと案内された。


 そこでは名前も知らない魔法少女が三人いて、一人はビリヤードを楽しみ、残り二人はバーで飲み物を頼んでいた。カウガール風の魔法少女と、妖精のような恰好の二人だ。しかしどれもホワイトリリーには興味がないのか、見向きもしない。居心地が悪くて案内して一緒に来てくれた女性に助けを乞う目を向けると、「ではこれで失礼します」と挨拶された。


「あ、あの……」ホワイトリリーが言う。「ラブラドライトはいますか。助けが欲しいんです!」

 カウガール風の魔法少女が帽子をあげてホワイトリリーの姿を見て、またビリヤードへと戻った。

「オブシディアンが……わたしの街の魔法少女が一人、いなくなっちゃって。それを探さなくちゃ。それから、ダイヤモンドが……キュア・ダイヤモンドがひどい傷を負ってて! 呪いを解ける魔法少女を紹介してもらいたいんです!」


「うるさいなあ。きこえてるよ」


 どの魔法少女が言ったのか、この言葉にホワイトリリーは愕然とした。魔法少女は、基本的には互いに関わらないという不文律がある。とはいえ、ここまで徹底して相手を冷遇できるのは、ここの魔法少女ぐらいだろう。

 助けを求められることはあっても、求めるという必要がないのだ。


こんな魔法少女がいることが、ホワイトリリーは信じられなかった。けっきょくどうしようもなく、ホワイトリリーが肩を落としてラブラドライトを待つため近くの椅子へ移動しようとしたその時、居住区の廊下から現れた修道服の魔法少女が、ホワイトリリーに話しかけた。


「あらぁ? 虐めちゃダメじゃないの。どこの子? あなた」


「あ、すいません……」


 ホワイトリリーが顔をあげる。


 特徴的なコスチュームが目に入る。

 その魔法少女は、不思議な恰好をしていた。修道服なのだが、あちこちに金糸の刺繍がはいっていて、体を動かしたり、少しひねったりしてみると、途端に色の印象が変わるのだ。

 顔はおっとりとしていて、親しみが持ちやすかった。灰色の髪の毛が修道服のフードから飛び出していて、十字架の紋章が入った眼のまえにかかっていた。


 その魔法少女は、キュア・スピネルと名乗り、最近ラブラドライトのもとにやってきたのだと自己紹介した。


 固有の魔法は治癒であると。ホワイトリリーは、先ほどとは別の理由で驚いた。魔法少女は信頼している相手にしか普通、固有の魔法は教えないものだからだ。


「わ、わたしは、ホワイトリリーと言います! 二つ隣の区域のマスコットです。今日は、ラブラドライトに、お願いがあって、来ました」


「そう。それって、お友達を探して欲しいっていうのと、お友達を治して欲しいっていうやつ? 随分大変だったのねぇ」


 スピネルは心配そうな顔をして言った。

 ホワイトリリーは安心して話をつづける。


「うん。それで、そうだ! スピネルは治癒の魔法を使えるんですよね! だったら、よかったらダイヤモンドのことを見てもらえないですか!」


「ええ、わたくしが? うーん、それはどうかしら……」


「お願いです! 命がかかってる……」


「うーん、うーん、そうねえ……それなら、なにか――」


「キミこそ、いじめはいけないんじゃないのかい」


 背後からラブラドライトが現れ、スピネルを諫める。


「失礼した。スピネル、君は自室に戻っていてくれ。君の子供たちが、君のことを呼んでいた。うるさくてかなわん」


 スピネルが振り返って小声でなにかを言ったが、ホワイトリリーには聞き取れない。ラブラドライトも同様に小声でなにかを返し、スピネルはぐっと言葉を詰まらせ、立ち上がる。


「じゃ、またあとでね。リリーちゃん。ラブラドライト」


「ああ。それじゃあとで」


 ラブラドライトが手をあげてスピネルを見送る。気が付くと、共有スペースにはラブラドライトとホワイトリリーの二人しかいなかった。


 ホワイトリリーが言う。


「あの……いじめられていませんよ?」


 他の魔法少女はともかく、キュア・スピネルには。

 ホワイトリリーはただ純粋に真実を伝えたつもりだったが、しかし、ラブラドライトはそれをきくと乾いた笑いをした。


 そして、「そうだろうね」と返した。


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