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ウィスパー・イン・ザ・ライオン 1

 ダイヤモンドは剣を振るうことができなかった。


「ダイヤモンド!」


 ダイヤモンドが膝を地につける。“魔法使い”は刺した触手で、ダイヤモンドのなにかを吸い取っているようだ。


「ぐっ、ぐぐ……」


 ダイヤモンドが必死になって鬼の形相をつくりだす。自分でそうあることで、気力を絞り出そうとする。


「のらぁ!」


 ダイヤモンドが自分に刺さっている触手を腕に巻き込んだ。地に足を張っていた“魔法使い”がその場所から引きはがされ、ダイヤモンド目掛けて跳んできた。ダイヤモンドがこれを、左腕でキャッチし、地面へ共倒れになる。

 

「舐めるなよ……この……クソ……がぁぁぁぁっ!」


 左腕に一杯の力を込める。“魔法使い”の体がみしみしと音をたてる。“魔法使い”の触手がダイヤモンドの中で暴れる。これを受けて、ダイヤモンドはますます力をこめる。“魔法使い”のひし形の体にひびが入る。ダイヤモンドは罵りながら力を振り絞り、徐々に、徐々に左腕のしめている半径が小さくなる。そしてある点を越えたところで、“魔法使い”の体は何十という木の枝が一気にへし折られたときのような音をたて、ダイヤモンドの腕のなかで潰された。


 ダイヤモンドが“魔法使い”を離す。地面に大の字に身体を投げ出す。

 死んだ“魔法使い”の触手は、自然とダイヤモンドの体から抜け落ちた。


「ダイヤモンド! そんな……これは……」


「大丈夫……生きてる……」


 あの赤いしみをもっと重要に考えるべきだった。それよりも、あそこで必殺技を使わせていれば。


 ホワイトリリーの頭に後悔がよぎる。


 ダイヤモンドは余裕がなく、口で息をしている。変身を解くと、魔法少女としての傷はなくなっているが、失った生命力は戻っていない。それどころか変身を解いたというのに、ダイヤモンドの腹には赤いしみが残っている。


 ホワイトリリーはダイヤモンドの額のうえに乗り、回復の魔法をかけた。しかし、大して状況は変わっていない。ホワイトリリーのようなマスコットの使える魔法は本当に微々たるもので、解析すらできなかった呪いを解くようなことはできない。


 それでも少しは楽になったのか、ダイヤモンドの眉間の皺が薄くなる。

 ホワイトリリーは励ましを込めて声をかける。


「ルビーに言って、戻ってきてもらうね! 待ってて!」


 ルビーに連絡を取り、状況を伝えると、すぐに来ると言ってくれた。ルビーは気を付けてと言った。もう一匹がどこにいるのかはまだわからない。


 オブシディアンがいてくれれば、とホワイトリリーは思う。オブシディアンがいてくれれば、こういうとき警戒に当たってくれていたはずだ。しかし、ここにはいない。どこにいるのかもわからない。


 ダイヤモンドはルビーに運ばれ、ダイヤモンドの家ではなく、ルビーの家にしばらく厄介になることになった。プライベートでも付き合いのある二人なので、ルビーがダイヤモンドの家に連絡をいれ、お泊りをすると言った。娘をよろしくお願いします、というダイヤモンドの両親の気楽な声にホワイトリリーの胸は痛んだ。


 なにがあったの、とルビーが訊くので、ホワイトリリーは一部始終を話した。赤いしみと、“魔法使い”の追跡、そしてダイヤモンドがやられたこと。


「そう……リリーの解析でもわからなかったんだ……。うん、それはリリーのせいじゃないよ。どっちかというと、ダイヤモンドのせい。この子、向こう見ずだし、どうせ敵の攻撃を受けても大丈夫だと思ってたんでしょう。だから自分を責めないで」


 ルビーのこの言葉を受けても、ホワイトリリーの気分は晴れなかった。

 そしてルビーは、こうも言った。


「でも、その赤いしみというのは、昨日のあの“魔法使いたち”につけられたものなんだよね。じゃあ、その二つは繋がりがあるんだ。もしかすると、Aの現場のことも」


 二人で話した結果、やっぱりオブシディアンが必要というところで見解は一致した。ダイヤモンドは呪いで行動不能。気力が戻っても、あれがある限り戦いに出すのはリスキーすぎる。


 オブシディアンがAの現場にいたとしても、いなかったとしても、関係ない。元々、K県K市、ルビーたちの区域はかなり広い方なのだ。ルビー一人ではすぐ限界が来てしまう。


「とはいえ、しばらくは大丈夫だと思う。わたし一人でやってみる。だからリリーは、オブシディアンを探すのと、呪いを解くの、どちらもやって欲しい。大変だけど、お願い。あなたの中継役の人は……こういうとき、頼れないん、だよね。うん……それじゃあ、ラブラドライトのところに行くのがいいと思う。あの人のところには魔法少女がたくさんいるし、コネもたくさん持ってるから。オブシディアンを探せる魔法少女も、ダイヤモンドの呪いをどうにかできる魔法少女も見つかるかも」

 

 考え得る限り、それは最良の手段だった。


「きいてる?」


 ルビーに言われ、ホワイトリリーは我に返った。


「どうしよう。ボクのせいだ」


 違うと言われても、ホワイトリリーにはそうとしか思えなかった。


「オブシディアンがやめるのも、ダイヤモンドがこんなになっちゃったのも、全部」


 自分がもっとちゃんとケアできていれば。ダイヤモンドといるとき、もっとちゃんと気を付けられていれば。ホワイトリリーは、自分はちゃんとできていたんだと思っていた、と言った。マスコットは涙を流せないけど、流せたらきっと泣いてる。


「ホワイトリリー……」

 

 ルビーはどう声をかけていいかわからなかった。


 そういうときでも、時は進むのだ。

 


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