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プロローグ

 悪の大魔法使いアンホーリー・トライフェルトが消滅したのをキュア・オブシディアンが見送り、全ては終わりを迎えた。


 場所は、透き通った水晶の世界だった。あちこちに水晶でできた足場が点在し、足場と足場の間には、奈落へと続く濃い紫色が広がっていた。アンホーリー・トライフェルトが作り出した、特殊な精神世界だ。アンホーリー・トライフェルトを倒し、管理者亡き今、この世界は崩壊の一途をたどっている。


 キュア・オブシディアンは、名の通り“黒曜石”の力を受け継いだ魔法少女である。控えめなフリルのついた白のシャツに、膝丈のスカート、白のソックス。魔法少女のなかでも特にシンプルなデザインのコスチュームに、黒色の鉱石をあしらった装身具を身に着けている。彼女はあちこち傷だらけで、生命力を表すコア・ストーンの輝きも鈍くなっている。普段であれば、予断を許さない状況である。だがもうここに敵はいない。彼女の顔も疲れこそでているものの、緊張はしていない様子である。


 そんなキュア・オブシディアンに向けて白い小さな影が飛んでくる。はるか上空、この世界の外から現れた影は、キュア・オブシディアンの相棒、ホワイトリリーだ。


「オブシディアン! 今外にいるキュア・ダイヤモンドとキュア・ルビーと話して来たんだけど、出られるかもしれないって! オブシディアンがコア・ストーンに念じて、そのパワーを受信すれば、ひっぱりあげられるってさ!」


 ホワイトリリーは興奮した口調で続けた。


「ここから出られるんだよ!」

 ホワイトリリーはオブシディアンの顔の前で滞空し、「生きて帰れるんだよ!」と言った。


 ここでホワイトリリーはキュア・オブシディアンの様子がおかしいことに気が付いた。


 キュア・オブシディアンは焦点のあっていない顔で佇んでいた。いつも無表情で、たまにぼうっとしていることがあるのは前からなので、遠くにある足場でも眺めていたのかと思ったが、そうではない。


「オブシディアン?」


 ホワイトリリーは不安になってそう訊いた。もしかしたらここにいるのは本物のキュア・オブシディアンではないかもしれない。悪の大魔法使いアンホーリー・トライフェルトは、“新神秘の秘術“を用い、自分の人格をどこかに転送することができるのだ。

 相棒の緊張した声を聴き、キュア・オブシディアンはゆっくりとだがホワイトリリーに顔を向けた。


「オブシディアン、だよね?」


「……そうだよ」


「……だよね。よかったあ。トライフェルトがまだ生きてるのかと思って、怖くなっちゃったよ。大丈夫だよね。なにせトライフェルトはオブシディアンが倒したんだから。乗っ取られてなんかいないよね」


 ホワイトリリーは楽し気に、歌うように、キュア・オブシディアンを褒め称えた。キュア・オブシディアンはそんな彼女の小さな後ろ体を眺めていた。

 少し微笑まし気に。ここまでの戦いの疲れが、癒されていくかのように。いつもは無口な彼女だが、キュア・オブシディアンは微笑んでいた。


 ――が。


 キュア・オブシディアンは、ふと、思い立ったように、こうつぶやく。

「わたしもうやめるね」

 ホワイトリリーは耳を疑った。


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