幼馴染の頼み事
二月十四日……それは本来婚姻を禁止されて嘆き悲しむ兵士たちを憐れんだ司祭が彼らのために内緒で結婚式を行ったが為に処刑されてしまった日とされている。
にも関わらずチョコを贈るだの、翌月に三倍にして返すだのやっているこの国はおかしいと言いたい。
何で揃いも揃って製菓会社の商法に踊らされて一喜一憂せねばならないの?
しかも男は必ずお返しをしなきゃいけないとか散財以外の何物でもないでしょ。
仮に女性から十円のチョコを貰ったとしたら三十円、百円だったら三百円……何で男性ばかり懐を痛めねばならないのかしら?
幼馴染の男は去年付き合い始めたばかりの彼女から包装を剥がしたチ○ルチョコ一個を貰ったのに対して、翌月にエ○メスのバッグを渡したその場でフラれていたわよね……三倍ですらないし詐欺も同然でしょ。
でも同情する気は全くない。
我ながらひねくれているとは思うけど、こんな話を聞いた時だけは私をカカオアレルギーに産んでくれた両親に感謝するわ。
お陰様で毎年こんな無駄なイベントをスルー出来てるし。
まあ、結局何が言いたいかというと……
「そんな女に渡すお返しの為に借金する様な奴に貸せる金はない、って事よ」
「そりゃねーだろ!頼む、このままじゃマジで生活が出来ないんだよ!」
本当に懲りない奴ね……今年だってアポ○チョコを一粒だけ渡されて、お返しはヴィ○ンの財布が欲しいとか言われている癖に。
相場を調べてみたら三倍どころか190倍以上のお返しを強要、これを頭がおかしいと思わない時点でどうかしているわ。
こいつも悪い奴じゃないんだけど、どうしてこう悪女にばっかり引っ掛かるのやら……私だって女なのに無視するし。
「ほんの一万でいい、頼む!」
「学生時代に貸した百円を十回に分けて返したの忘れてないからね、来月までに一括で返してよ?」
せめてもの情けで利子を取らない事を感謝しなさい。
というか貸してあげてる私に感謝して早く仕事に戻りなさいね。