従業員は、下る。
「分かったよ。好きにしたらいい。」
ゴーシュは、ひとしきり笑った後、そう言った。
意外なほどあっけない態度に驚いてしまう。
「本当に?」
「ああ。僕は、君に与えたものを全て返してもらった。その上で、君が自分のもので生き延びるなら、もう邪魔もしないさ。」
そう言って、ゴーシュは背を向ける。
遊びの時間が終わった。
(戒めだな。)
ゴーシュは思う。
誤算だらけの計画。軌道修正をあえてしなかったのは、どこかで、いつでも終わらせられると思っていたからだ。
一方で、終わらない方法をあれこれ考える自分もいた。答えはなかったが。
(何もかも半端だった。)
そして、彼女は見つけてしまった。
全てを捨てない方法を。
(まあ、花じゃなきゃ使えない方法だし、特に問題ない。)
観察者に戻るだけ。
まあ、花がその生を終えるまで、人間たちを見逃してやってもいい。
「じゃあね。」
ゴーシュが消えてしまおうとしたとき。
「待って!」
花が、ゴーシュを呼び止めた。
終わりを感じて、息をつきかけていたその場にいた皆が、また、緊張する。
「・・なんだい?」
ゴーシュは振り返った。
「・・っ私、あなたをまだ解雇してないわよ。」
「花?一体何を・・。」
ミリエルが戸惑う声で止めようとする。
だが、今を逃せばきっと、二度とゴーシュには会えなくなる。
なぜかそれは、だめなことのように感じた。
「あなたは契約にこだわりがあるでしょう?言ったことは変えない主義よね?なら、私と交わした雇用契約は、まだ有効なんじゃない?」
何を言っているのか自分でもよく分からない。
ゴーシュを行かせないために、自分のもつ切り札を並べ立てているに過ぎない。
「雇用契約?」
そうだ。事業なのだから、契約書もちゃんと交わした。
退職は可能だけど、双方の合意なき場合は、一応のペナルティもある。
「ええ。確かに結んだわ。私とあなたは、まだ、雇用主と従業員の関係よ。」
「僕が、正規の手続きを踏まない限り、契約は継続する?」
「ええ。そして、あなたは他の場所で働くことは許されない。」
次の契約は結べない。
はずだ。
ゴーシュが、そんなもの気にしない、関係ないと突っぱねれば、なんの意味もない。
ゴーシュは普通の人間ではないのだから。
だが、何となく、ゴーシュは『契約』を持ち出せば断れないような気がしていた。
「君は、僕を雇い続けるの?なんで?」
ゴーシュが、呆気に取られたように言う。
このときばかりはその場にいた全員が同じように思っていた。
「私の夢を叶えるために、あなたは失いたくない従業員だわ。無駄にキラキラしてるからでも、魔力に未練があるからでもない。あなたの知識や発想力は、私に必要なの。」
ゴーシュをどうしたいのか、自分でも具体的には分からない。
ただ、サラが言っていた
「孤独から救って下さい。」
という言葉がどうしても引っ掛かって、つながりを絶ちたくない自分がいる。
「もう少し、一緒に働かない?」
花が問いかけると、ゴーシュは、なんだか少し、泣きそうな顔で微笑んだ。
「契約を、こんなところでまで持ち出すなんてね。答えは、保留にする。」
ゴーシュはスッと消える。
「・・っ花!?」
消えたとたん、緊張の糸が切れたように、花は力が抜け、ミリエルに支えられながら、気を失った。




