従業員は、奪う。(2)
ゴーシュは、花とミリエルの肩にふれ、テレポートをした。
東の地を見下ろせる高台の上。
風が吹く。
「最後に聞くよ。気持ちは変わらない?」
ゴーシュは尋ねる。
答えは変わらないだろう。命乞いは期待していない。
花はぶれないでいるべきだ。そのほうがいい。
だけど、これ以上特別扱いはできない。
「ごめんなさい。私はあなたとは行けない。」
花はまっすぐそう言う。
「惜しいなあ。僕を選んでくれたら、何か、今までと違うものが見られるって思ったのに。」
ゴーシュの言葉は本心だ。でも、どこかで、自分を選ばないで欲しいとも思っていた。
でも、ここまでだ。
これ以上彼女と過ごせば、もっと迷ってしまう。
居心地のよい場所は危険だ。
自分の役目は、時が来たら、魔王を育てて人間たちを滅ぼすこと。
人間たちと遊ぶことではない。
無限の魔力を奪えば、花の魔力はは普通の魔力になるだろう。
タイミングを合わせておいたから、魔物たちに魔力を吸い取られ、生命力を搾り取られることになる。
それだけで死が待つ。
仮に歴代聖女最高の魔力があっても、魔物2匹を使役していたら2回か、下手すれば3回死ぬ。
魔物の使役をなめてはいけない。
魔物を使役して生きていられるのは魔王だけなのだ。
「さようなら、花。」
ゴーシュは呟くとパチン、と指を鳴らした。
花の顔色が青白くなり、ミリエルが絞り出すように「・・花!」
と叫び崩れ落ちる花を抱き止める。
スローモーションで見えるその景色を無表情で見ていたゴーシュ。
その顔色が変わったのはその後だった。
駆け寄ったミリエルが取り出したのはなにやらキラキラした小瓶。片手で花を支え、片手で小瓶を持って、口で栓を抜くと、花の口に持っていく。
花が飲めないと見るやミリエルは素早くそれを自分であおり、口移しで花に飲ませた。
花の意識が一瞬もどり、何か呟くとポチとジュエルとリリーが現れる。
その後花はまた、もう一本の小瓶の中身をあおる。
リリーはなぜか両手いっぱいに草を抱えている。
花がまた小さく動き、その手になにやら変なものが現れた。
リリーが草を突っ込む。
花が、魔法を発動。
ウィーンというモーター音がして、草が撹拌される。
花が力を振り絞って、できた液体をポチにつき出すのが見えた。
ポチは明らかに躊躇していたが、意を決した顔で一気に飲み干す。
ものすごい顔をしていたがその顔は驚愕に変わり、そして、にやりとした笑みに変わった。
その間に手際よく2杯目が準備され、ジュエルは躊躇わずそれを飲み干した。
その間、瞬きほどの短時間。
それらが終わった時、ゴーシュの目の前に立っていたのは五人。
ポチとリリーとジュエル。
そして、ミリエルと、彼に支えられながらもしっかり立っている、花、だった。




