従業員は、奪う。(1)
まあ、こんなものか、と、ゴーシュは思った。
久しぶりに、少し期待をしてしまった。
異色の聖女の誕生に。
以前魔王を育てたのは、いつのことだっただろう。
異世界に連れてこられた彼女は、初めは順調に聖女教育をこなしていた。
だが。
当時彼女がいた国は、もともと軍事力が高く、召還したものの、聖女をあまり重要視していなかった。
それどころか、兵士にしてみれば、魔物を倒すことは自分の出世につながるため、魔物が浄化されるのをよく思わない者も結構いた。
前の世界から強制的に連れてこられたのに、必要とされていない感覚。
彼女は次第にやる気を失い、運命を呪い始めた。
そんな時に声をかけたゴーシュに、彼女は積極的についてきた。
聖女教育を終えないまま、与えられる膨大な魔力。
身につけた魔法を、攻撃に特化して鍛え、理不尽への怒りで闇魔法が洗練されていく。
これまでのストレスを発散するように、彼女の攻撃性は増した。
「強いって楽しいわね、ゴーシュ。」
にっこり笑って肯定すれば、彼女は意のままに破壊を始めた。
魔物も片っ端から使役した。魔力は無限だったし、魔物たちは貪るように彼女の闇に染まった魔力を吸収し、強くなった。
だが、彼らに信頼関係はない。
彼女はそもそもこの世界にくる原因となった魔物を憎んでいたし、魔物にとって契約は、力を得る手段でしかなかった。
殺伐とした関係のもと、破壊し続けた彼女は、魔王として君臨した。
だが。
ある日、自ら命を絶った。契約した魔物たちも共に消えた。
目的のない生。破壊し続けることには終わりがくる。
人間の文明を破壊し尽くした時、もう彼女は空っぽだった。
その後、生き延びた人間たちがまた文明を築いていく様子は、束の間ゴーシュの興味をひいた。
魔王となった彼女以上に、ゴーシュもまた、空っぽの自分を自覚していた。
魔王を育てたことに後悔はない。
でも、悪意に染まり、破壊を繰り返す彼女たちに、魅力を感じたことはない。ゴーシュにとってそれは、ただの仕事だ。
ずっと昔には、情がわいた魔王もいた。
だが、彼女は側近のエルフと恋に落ち、人生を狂わせた。
ゴーシュは感情を封印した。
所詮は人間。
共に歩む対象にはなり得ない。
ゴーシュの仕事は、歯車を設置し、力を加え、あとは観察するだけ。
花は、初めての誤算だ。
自ら動いていくペースに、ついていけなかった。
不思議なことに、腹はあまり立たなかった。
誤算、という初めての状況を楽しんでいる自分に驚いた。
気がついたら聖女教育を終えており、しまった、と思った瞬間、笑いが止まらなくなった。
観察に夢中になっていたのだ。
しかも、ゴーシュは、物足りなさまで覚え始めていた。
彼女の物語に、自分も入りたい。
彼女と言葉を交わしたい。
ちょっとだけ、のつもりだったのだ。
暇つぶしだ。歯車は設置できている。あとは力ずくで回すだけ。
の、はずだった。
「欲張りな花。どれかを捨てれば済むのに、あえて全て手放す道を選ぶなんて、理解に苦しむよ。」
惜しいな、と思う。
それでもゴーシュは自分の仕事をする。
魔王にならないのなら、魔力を与えるわけにはいかない。
ゴーシュもまた、制約の中でしか生きられないのだから。
花になにかしてやろうとは思わない。
ゴーシュは、ゴーシュとして生きる。
でも、と、どこかで淡い期待をしていた。
彼女なら、ゴーシュの予定を、また狂わせてくれるのではないかと。
エルフに心奪われたあの魔王とは異なる形で。
だから、「救い」というフレーズに反応してしまった。
だが、もう譲らない。
タイムアップ。
ゲームオーバーだ。




