表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
85/90

従業員は、奪う。(1)

まあ、こんなものか、と、ゴーシュは思った。

久しぶりに、少し期待をしてしまった。

異色の聖女の誕生に。

以前魔王を育てたのは、いつのことだっただろう。

異世界に連れてこられた彼女は、初めは順調に聖女教育をこなしていた。

だが。

当時彼女がいた国は、もともと軍事力が高く、召還したものの、聖女をあまり重要視していなかった。

それどころか、兵士にしてみれば、魔物を倒すことは自分の出世につながるため、魔物が浄化されるのをよく思わない者も結構いた。

前の世界から強制的に連れてこられたのに、必要とされていない感覚。

彼女は次第にやる気を失い、運命を呪い始めた。

そんな時に声をかけたゴーシュに、彼女は積極的についてきた。

聖女教育を終えないまま、与えられる膨大な魔力。

身につけた魔法を、攻撃に特化して鍛え、理不尽への怒りで闇魔法が洗練されていく。

これまでのストレスを発散するように、彼女の攻撃性は増した。

「強いって楽しいわね、ゴーシュ。」

にっこり笑って肯定すれば、彼女は意のままに破壊を始めた。

魔物も片っ端から使役した。魔力は無限だったし、魔物たちは貪るように彼女の闇に染まった魔力を吸収し、強くなった。

だが、彼らに信頼関係はない。

彼女はそもそもこの世界にくる原因となった魔物を憎んでいたし、魔物にとって契約は、力を得る手段でしかなかった。

殺伐とした関係のもと、破壊し続けた彼女は、魔王として君臨した。

だが。

ある日、自ら命を絶った。契約した魔物たちも共に消えた。

目的のない生。破壊し続けることには終わりがくる。

人間の文明を破壊し尽くした時、もう彼女は空っぽだった。


その後、生き延びた人間たちがまた文明を築いていく様子は、束の間ゴーシュの興味をひいた。

魔王となった彼女以上に、ゴーシュもまた、空っぽの自分を自覚していた。

魔王を育てたことに後悔はない。

でも、悪意に染まり、破壊を繰り返す彼女たちに、魅力を感じたことはない。ゴーシュにとってそれは、ただの仕事だ。

ずっと昔には、情がわいた魔王もいた。

だが、彼女は側近のエルフと恋に落ち、人生を狂わせた。

ゴーシュは感情を封印した。

所詮は人間。

共に歩む対象にはなり得ない。

ゴーシュの仕事は、歯車を設置し、力を加え、あとは観察するだけ。


花は、初めての誤算だ。

自ら動いていくペースに、ついていけなかった。

不思議なことに、腹はあまり立たなかった。

誤算、という初めての状況を楽しんでいる自分に驚いた。

気がついたら聖女教育を終えており、しまった、と思った瞬間、笑いが止まらなくなった。

観察に夢中になっていたのだ。

しかも、ゴーシュは、物足りなさまで覚え始めていた。

彼女の物語に、自分も入りたい。

彼女と言葉を交わしたい。

ちょっとだけ、のつもりだったのだ。

暇つぶしだ。歯車は設置できている。あとは力ずくで回すだけ。

の、はずだった。


「欲張りな花。どれかを捨てれば済むのに、あえて全て手放す道を選ぶなんて、理解に苦しむよ。」

惜しいな、と思う。

それでもゴーシュは自分の仕事をする。

魔王にならないのなら、魔力を与えるわけにはいかない。

ゴーシュもまた、制約の中でしか生きられないのだから。

花になにかしてやろうとは思わない。

ゴーシュは、ゴーシュとして生きる。

でも、と、どこかで淡い期待をしていた。

彼女なら、ゴーシュの予定を、また狂わせてくれるのではないかと。

エルフに心奪われたあの魔王とは異なる形で。

だから、「救い」というフレーズに反応してしまった。


だが、もう譲らない。

タイムアップ。

ゲームオーバーだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ