聖女は、探す。(1)
「ゴーシュは、否定しませんでした。きっと何か、あるはずです。」
ミリエルは花にきっぱりと言った。今は、それにすがることしかできないのだ。
楽士たちが準備をして、皇太子を呼び、予定通り観賞の時間をとる。ゴーシュが提供したものはヒントになるかもしれないという思いもあり、花たちも観ることにした。
「一曲ということで、私たちの一団に昔から受け継がれているものを御披露いたします。」
一際美しい踊り子が、そう言ってお辞儀をし、衣装をふわりとなびかせてその場に座ると楽士たちの調べが始まった。
聞いたことのないメロディ。でも、不思議と心地いい。
それに合わせて、踊り子たちが、舞う。
白を基調にした柔らかい衣装は、動きに合わせてなびき、何かキラキラと輝きながら見るものを引き付ける。
歌はなかったが、感情をゆさぶるその曲と踊りに、現実を忘れて魅せられた。
(なんだか、身体があたたかい・・。)
花個人だけではなく、部屋全体が何かで満たされているような感覚。そのたった1つの演目が終わるまで、その感覚は途絶えることなく続き、全てが終わって彼らがお辞儀をするまで、我を忘れて皆が見いっていた。
「彼らのような人々が、東にはいるのだな。」
皇太子が言った。
「母を育んだ地に、僕は行く。騎士として、ちゃんと彼らを守りたい。・・花。魔物の件、すまなかった。」
神妙な顔で頭を下げられ、花はかえって居心地のわるい気分になる。
「私こそ、上手くいえなくてすみません。でも、今の皇太子の表情のほうが、好きです。東の地で、大好きな音楽にたくさん触れられると良いですね。」
皇太子は、「ああ。」と同意して、部屋に戻る。付き添っていたレオンが深く礼をしてあとに続いた。
いろいろ思いながら彼らも進む。やがて王都に帰るときには、きっと大きく成長しているはず。
東の地にたどり着くまでもうあと少しだ。
部屋に戻ったミリエルは、ドアを閉めるなり
「ステータス」
と、画面を確認していた。そして、「やっぱり・・。」とつぶやく。
「どうしたの?ミリエル。」
「HPが回復しているんです。おそらく先程の演目で。」
部屋が暖かい気がしたことと関係があるのだろうか?
「音楽に、そんな効果があるんだ。」
ミリエルは何かを考えているようだった。
「僕、少しポチさんと話しました。」
「ミリエル、言葉が分かるの?」
「いや、精霊のリリーさんが間で通訳してくれました。」
ポチが、何が起こっているかを聞いてきたのだという。
ポチには、花の魔力や感情の揺れが感じ取れる。
何かが起こっていることはすぐに分かったらしい。
「話したの?」
「・・花が魔力を失うかもしれないということだけ。」
ポチは、目を見開いたが、表情は穏やかだった。
『我らを消せばいいと、伝えてくれ。我らの契約はそういうものだ。』
ポチはすぐにそう言った。
『主は変わっているからな。つまらないことでなやんでいるのだろう?だが、もともと我らは聖女に消される運命だ。それに・・。』
「ポチさんは、魔物にも感情がある、と言いました。契約者への忠誠心もそれぞれに異なるって。」
『我らは、合成獣を泣きながら浄化した主を決して見捨てない。あの時、本当に主のためなら全てを懸けてよいと思った。ジュエルも、そうだ。』
ポチは詳しい事情を何も聞かなかった。結論だけを告げ、最後に言った。
『直接話せば決断できなくなる。ミリエルどの。あなたが花を説得して、時が来たら我らを呼べ。そして、何もいわず浄化を。』
「花。それを聞いて、初めて、僕は彼らを消したくないと思いました。」
ミリエルの言葉に、花はハッとする。
「今までは、まだどこかで、魔物は浄化すべき、という思いが僕はありました。正直なところ、どちらかをとれと言われたら花をとります。でも、できるなら、彼らを消すことなく、結末を迎えたいと、僕も思うんです。」
皆が花を生かしたいと思っている。なにも失わない選択肢を探したい。
「でも、ゴーシュの気持ちを変えるのは無理だった。」
花は絶望に向き合う。
退屈から救うと宣言して、興味をひき、できることはした。でも、彼の決断は変わらない。
「・・今回の件、要は聖女か魔王の二択を迫られたんですよね。その先に浄化するか、しないかで三択。でも、僕は引っ掛かっていることがあって。」
それは、ミリエルだから思ったこと。
ミリエルにとっての花は、「聖女」でも「魔王」てもない。
「花だから選べる選択肢がある気がするんです。」
存在していることはなぜか確信がある。あとは手を伸ばすだけのような。
だが、姿かたちは見えない。見えないものはまだ、つかめない。




