従業員は、隠さない。(3)
「僕は、提示した条件を変えたくないタイプなんだ。」
ゴーシュは明るく、そう言った。
事実上、花に死を宣告しているのに、あまりの明るさに、そう思えない。だが、それは決定事項なのだということは分かった。
「あなたも、圧倒的権力者なんですね。与えることと奪うことの権限を、好きに使えると思っている。」
ミリエルが低い声で言う。
花は、何も言うことができなかった。
ゴーシュは、笑みを崩さない。
「そうだね。否定はしないさ。ああ、この旅が終わるまでは今のままにしてあげるよ。僕は従業員だからね。全ては仕事をちゃんと終えてからにしよう。」
ゴーシュが去るのを、もう引き止められない。
花は、足がすくみ、この世界に来て初めて、絶望していた。
「待ってください。」
ふいに、澄んだ声が響いた。
ミリエルが、まっすぐにゴーシュを見ている。
「まだ、何かあるのかな?」
ゴーシュは、笑ってはいるものの、その声にはあきれた響きが混ざっている。
「あなたは、全ては言わないけど、聞けば嘘はつかない。神様の一部なのだから、それは当たり前なのかもしれませんが。」
ゴーシュの笑みがなぜか深まった。
「あなたは、3つの選択肢を与えました。でも、本当に選択肢は3つだけですか?あなたは、本当に花を失いたいと思っていますか?」
・・どういうことなのか、花には分からない。期待を裏切られればもう立ち上がれない気がする。だが、ミリエルがまだ諦めていないことは分かった。
「花は、面白いからね。でも、この程度で終わるなら、つまらない。僕が思いつく選択肢は、言ったとおりだよ。今までも、無限魔力と魔物の使役ができた者は、魔王になるか、ならないかの二択だった。今回は聖女でもあるから三つ目の選択肢があったけど、花は選ばなかったんだろう?まあ、この後の楽士と踊り子を楽しんでね。ちょっとした退屈しのぎにはなったから、お礼に素敵な出し物であることは約束しよう。」
ゴーシュはそう言うと、今度こそ部屋から出ていった。
「花。」
ミリエルがそっと花を抱き寄せる。
「ごめん、ミリエル。上手くいかなかった。皇后まで連れてきてくれたのに。」
花がそう言うと、ミリエルは肩をすくめる。
「花、あの時『そこまで頼んでない!』って顔にかいてありましたよ。」
(バレてる。)
こんな時なのに、ちょっと笑ってしまう。
笑った拍子に涙が出てきた。
止まらなくなってくる。
「どうしよう。怖い。魔力がなくなったらどうなるんだろう。覚悟なんてできないよ。」
死への恐怖の克服など、できるはずがない。
「ポチとジュエルを消す選択を一切考えないんですね。僕にその力があったら、そうしてしまうかもしれない。」
ミリエルはため息混じりに言うと、花を強く抱き締める。
こんなに震えていても、泣いていても、花の中にその選択肢は始めからない。潔いくらいに。
ミリエルの腕の中で、必死に運命を受け入れようとしている。
ならば、ミリエルは、運命に抗わなくてはいけない。それができるのは、自分しかないような気がした。
「花。僕には、まだ可能性がないとどうしても思えないんです。だから、僕はもう一度考えます。」
失いたくないものは絶対に諦めない。
ミリエルはゴーシュの言葉に感じたわずかな引っ掛かりがなんだったのか必死に考える。
「僕も、怖い。花を失うかもしれない怖さと、僕も一緒に戦います。だから、まだもがくのをやめないで、花。」
ミリエルの切ない声に、花はミリエルを抱き締め返す。
まだ、終わっていない。
全ての可能性を探しきるまで、諦めるわけにはいかなかった。
楽士と踊り子たちが準備を始める。
その様子を見ながら、花はもう一度、自分を立ち上がらせるために大きく深呼吸をした。




