従業員は、隠さない。(2)
皇后にひっぱたかれた皇太子は涙目でレオンに隠れている。
(ミリエル!ここまで頼んでない!)
花は、頭が真っ白になっていた。
王宮にいくといったミリエルに、花が頼んだのは、皇太子に対して諌める・・というか、要するに、皇太子に言いたい放題ボロクソに言ってもよいという許可をもらってほしい、というものだった。
ビンタまでいかないが、反撃の気力がなくなるまで、こてんぱんに言い続けることはしようと心に決めていた。
何せ時間が無さすぎる。花単体でできることは限られていて、ゴーシュを説得するなら、はったりをかまして可能性を感じさせるしかないと思ったのだ。
ならば、愚かな人間代表みたいになっている皇太子をなんとかするしかない。
だが、母親がきちゃった・・。
(一体どんな説得のしかたをしたのか・・。)
「私は、あなたを恥ずかしく思います。あなたの言動は、皇太子として許されません。まずは花さまに謝罪なさい!」
皇太子はレオンをみつめたり、イルディンをみつめたりしたが、彼らは目も合わせない。この場を支配する圧倒的権力者にただ頭を垂れるだけだ。
「・・僕が望むものは、許されないものですか?心を癒す魔物を一体、手に入れたいだけなのに?」
皇太子は震える声で反発する。花はそれに少し引っ掛かりを覚えた。
「あなたがジュエルにこだわるのは、歌??」
それに、皇太子だけではなく、皇后も反応した。
「今回の旅について、いろいろ考えていました。初仕事だから、普通の状態というのは分からない。今回はなんだか特別なのだとは感じていました。でも、特例がいろいろ認められたのは皇太子だったからだと言われれば分かります。ただ、分からなかったのは、皇太子が何を望んでいたか、です。」
最初は、どこか他人事のように無気力だった皇太子が、興味を示したのは「音楽」。ジュエルも、おそらく歌声に惹かれたのだ。
「僕の周りには早い時期から音楽がなかった。でも、昔、母上が、二人きりの時には子守唄を歌ってくれた記憶だけはある。」
ふいに、皇太子が口を開いた。
「音楽のない毎日の中で忘れていた。でも、誘われてこっそり行った貴族のパーティーで、音楽が奏でられていて、自分の記憶にも音楽があることに気づいて、音楽に夢中になった。・・僕は、音楽が、好きだ。騎士になるのは、しょうがない。でも、心を慰めるなにかが欲しかった。」
王宮では禁じられていた音楽。
でも、皇太子は音楽に焦がれた。そんな時に心奪われる歌声を聞いた。
それを求めた皇太子。気持ちとしては分かる。
たが。
「ジュエルは、奴隷でもペットでもありません。それに、権力は、欲しいものを何でも手に入れるためにあるのではないわ。民の生活や、大切なものを守るためにあるのではないですか?私は皇太子に、そういう王様になってもらいたいのです。」
やり方を間違ってはいけない。
てを出していいものか、判断もしなければならない。
花の訴えは心まで届いただろうか。うなだれた皇太子は、レオンに一旦部屋に連れていかれた。
残された面々の視線は、花と皇后のあたりを彷徨う。
花は皇后に膝まずいた。
「立ってくださいな、聖女様。」
皇后は柔らかい声で言う。
言われた通り花が立ち上がると、皇后としっかり目があった。
「今回の一件、心からお詫びします。私たちがしなければならなかったことを、代わりにあなたがしようとしていると聞き、来てしまいました。許して下さい。」
詫びられるとなんだか慌ててしまう。特に今回は、花なりの打算もあるのだから。
「とんでもありません。来てくださってありがとうございました。」
花が頭を下げると、イルディンが口を開いた。
「皇后様。そろそろ参りましょう。里帰りはまた改めて。」
「里帰り?」
花は繰り返す。皇后はにっこり笑った。
「私は東の出身なのです。聖女様とは、またゆっくりお話ししたいわ。私は一旦戻ります。オリバーのことを、よろしくお願いします。」
皇后は、ゆったりしたしぐさで頭を下げ、イルディンと消えた。
あとには、花とミリエルとゴーシュが残る。
「なかなか面白いものを見させてくれたね。暗殺計画は先延ばしにするよ。」
ゴーシュが機嫌良さそうにそう告げ、そして付け加えた。
「だけど、約束だからね。花の無限魔力は返してもらう。」




