聖女は、選択しない。(2)
楽士のくる前の時間。
広間に、オリビウス皇太子とレオンを早めに呼び出した。
魔物の件だと察した二人は普通にやってきた。
広間には、花とゴーシュ、王宮から戻ってきたミリエル、イルディンに、なぜか、フィラードと、ベールを被った女性。
ミリエルに聞くと、フィラードの賓客だという。
事情を知らないものがここにいてよいのか不安だったが、彼らが大丈夫だと請け負ったのでひとまず気にしないことにした。
「さあ、返事を聞かせてもらおう。」
正体をあかしたオリビウス皇太子は、もう、偉そうさを隠そうともしない。
控えるレオンは、やはり顔色が悪く、逃げ出したそうだった。
花はゴーシュをちらりと見て、興味を失っていないことを確認し、次にミリエルと目があって小さくうなずく。
そして、きっぱりと言った。
「あなたには、魔物たちをあげるつもりはありません。」
皇太子が驚いたように目を見開き、それからみるみるうちに顔が赤くなった。
(予想を裏切らない、典型的なわがまま坊っちゃんね。)
「そなた、余の望みを退けると言うのか??」
予想していなかったのだろう。彼のこれまでを思い?花は小さくため息をつく。きっと望んで断られるという経験はほとんどなかったのだろう。慣れていないのだ。
「ええ。彼らは私にとって、契約はしていても、召し使いや奴隷ではありません。大切な友人、頼れる仲間です。モノのような取り引きはしません。」
皇太子は、なかなか引き下がらない。
「金ならば払う。それに、余の望みをかなえたお前たちの事業は何かと優遇させよう。」
「優遇?」
花は聞き捨てならない言葉を聞き、怪訝な顔で聞き返す。
オリビウスは、花が興味を持った、という手応えに、言葉を足し始めた。
「ああ。もちろんだ。事業の資金、補助、店の立地も、優遇しよう。他にも何か望むことはあるか?」
「・・あなたは、何でも思いどおりになるのね。」
花の声の変化に、皇太子だけが気づいていない。
「皇太子だからな。王になった暁には皇室御用達の箔を与えてやってもよい。」
「なら、断れば逆もあり得ると?」
そこで初めて、皇太子は、花が好意的な興味を抱いているわけではないことが分かる。
「それは・・。」
突然パァン、と高い音が響いた。
皇太子がぶっ飛び、頬を押さえてこちらを見る。
花は、突然のことに驚き、思わず自分の手を見る。だが、強烈なビンタを食らわした手の主は、いつの間にか近くにきていたベールの女性だった。
「何をするのです!?」
レオンが素早く剣を抜き、皇太子をかばって剣先を女性に向ける。
「剣をおさめなさい、レオン。私が分からないのですか?」
落ち着いて凛とした声。その声に反応したのは、瞬時に剣をおさめ、膝まずいたレオンだけではない。
その後ろで皇太子は分かりやすく顔面蒼白になり、小さく震え始めた。
女性はベールをとる。その下には、二人の騎士の見送りの場にいた、顔があった。
「・・皇后さま?」
花が小声でもらした言葉に、皇后が振り返る。
宝石類を一切見にまとわず、質素な身なりをした皇后は、それでも正体を現したとたん、見送りの時とは全く違う存在感と迫力があった。




