聖女は、選択しない。(1)
「神様に会いに行きましょう。」
開口一番に、ミリエルが言った。花も考えなかったわけではない。だが、気になることがあってその選択は出来なかった。
「ゴーシュは、皇太子を暗殺するって言ってた。返事の期限も気になる。楽士たちの中に暗殺者がいるかも・・。」
そんな状況で、自分がおかしな動きをしたら、ゴーシュがどうでるか分からない。
「そんな!今は、自分の命でしょう?!」
ミリエルは、花の肩をつかみ、ハッとして力を緩める。
花は震えていた。ミリエルの顔を見て、バレた、という顔で笑って見せようとした花は、そのままその場所に崩れ落ちる。
ミリエルはあわてて花を支えた。
「ごめん、ミリエル。すぐ回復するから。ちょっとだけ待って。」
ミリエルはまた、自分の無力さを謝りそうになって、違う、と飲み込む。今、自分ができることを探すのだ。こんな状態の花が、それでも仕事を全うしようとしている。ならば、ミリエルも考えるしかない。
「花。一緒に考えましょう。そんな、救いのない道は、花にふさわしくない。違う道は、必ずあるはずです。」
花は、呼吸を整えた。
怖い。
でも、いろいろな立場や思惑があるなかで、花を迷わず一番に考えてくれるミリエルの存在が、花を落ち着かせる。
策はないわけではない。
小さな可能性。全てはぶっつけ本番の相手の出方次第だ。
「ポチとジュエルには言わないんですか?何か分かるかも・・。」
花は首を横にふる。
「この話は、彼らにまた辛い選択を迫ることになるわ。」
彼らが花を大切に思ってくれていることは、伝わってくる。契約までした主の命と、自分たちの命。それらを天秤にかけさせるわけにはいかない。
「選択しなければならないなら、それは私がすべきことよ。」
合成獣の時のようなことは、もうたくさんだ。
ミリエルは、花が考えていることが分かり、それ以上は言わなかった。代わりに言う。
「僕なら自由に動けます。イルディン長官に話してみます。」
ならば、と花はミリエルにもう一つ頼み事をする。
ミリエルの目が大きく見開いた。
テレポートのことを考えると、北の領地を経由する方が早いと判断し、何気ない風を装ってポチに呼び掛ける。
『主。どうした?』
「ちょっと忘れ物をしてしまったの。ミリエルを北の領地にあるフィラードの邸宅まで連れていってくれないかな?」
ポチは、花を見て一瞬何かを考えているようだった。
だが、結局は何も言わず、一言『承知した』と告げてミリエルの肩に手をおく。
「必ず花の頼み事、成し遂げてきます。」
ミリエルは、花をしっかりと見つめたまま、消えた。
約束の時間は、あっという間に訪れる。
「そろそろいいかい?」
ゴーシュは軽く、花の前に現れた。
絶望的な三択。久しぶりの痺れるような期待に、ゴーシュの胸は踊っている。
それが伝わり、花は苛立ちよりも呆れてしまった。
だが。
面白い展開を望むゴーシュだからこそ、第4の可能性はあり得るはずだ。
花は、できるだけ、余裕の笑みを見せて、言った。
「どうするか、決めたわ。」




