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聖女は、迫られる。(2)

花は怒っていた。

何にだろう。そして、それをぶつける相手として、目の前にいる人物は正しいのだろうか。

「ふざけてなどいないさ。ただ、真実を言ってるだけ。君の従業員として働いたのは楽しかったけど、人間たちはやはり愚かだし、なにより刺激が足らない。僕と魔王になれば、最高に刺激的な毎日になるよ。ミリエルより、君を満足させる。」

魅惑的な笑顔。

もし、投獄され、どうしていいか分からなかったときにこの笑顔に誘われたら、花は今とは全く違う道を歩んでいたに違いない。

だが、そうではなかった。花はミリエルと逃げ、いろいろめぐりめぐって聖女の道を歩み始めた。

出会った人たちも、夢への歩みも今の花の一部分だ。

「この世界は、私から奪いたがる。」

花は呟く。怒りの理由が見えてくる気がする。

「自分たちが与えたいものが一番良いものだと信じて、私の持つものを簡単に奪おうとする。あなたもそうよ。ゴーシュ。」

ゴーシュは表情を変えない。

「それが、自分勝手なエゴだと、なぜ気づかないのかしら。都合のいいときだけ現れて、それまで細かい毎日の積み重ねでやっと手に入れたものを無視する。これがふざけてなかったら、なんなのよ?」

花は、おもちゃではない。

人のせいにしようと思えばやりたい放題だ。

勝手に召還して、勝手に投獄して、勝手に見下して、勝手に教育して、勝手に決断を迫って、勝手に力を与えて、勝手にそれらを否定して、別の道を歩かせようとする。

花にだって、意志がある。

状況を嘆いて、怒りをぶつけても、そこから生まれる未来はない。

過去が変わらない以上、自分がもがき、未来を変えるしかない。

そうやって、絶望せずに、進んできたのだ。

それを、また邪魔される。しかも、自分の根底を覆す言葉で。

この世界は異世界だ。それぞれに役割があり、彼らはそれを全うしているだけなのかもしれない。

花にも割り当てられた役割があるのだ。ゴーシュの言葉が事実なら、魔王への道は自然な流れなのかもしれない。

でも。

ミリエルを思って聖魔法を発動したとき。

花は違う方向に舵を切り、神様はそれを認めざるを得なくなった。

抗って、認めさせて。

少なくとも今は、花は自分の意思で進む道を選びとり、自分の足で歩もうとしていると、自信を持って言える。

だから、それをひっくり返されることに怒りを感じるのだ。またか、ふざけるな、と。

ゴーシュは、笑顔を消した。

「僕は、誰かのために無償で何かをするのが嫌いだ。面白くならないなら、花に意味はない。次の魔王を探すことになる。」

次の魔王、という言葉にぞわりと悪寒が走る。

「また、誰かを召還するの?」

「僕じゃないさ。きっとまた、召還の儀式はあるだろう。魔物は消えないのだからね。でも、その場合、花にあげた無限の魔力は返してもらう。」

花は、脅されていることに気づく。

ゴーシュはまた何かを思い付いたようににやりと笑った。

「そうだよ。選ばせてあげる。僕と共に魔王になるか、魔力を失い、契約のために生命力を絞られて死ぬか・・ああ、君の場合はもうひとつあったね。生きるために、ポチとジュエルを聖女の力で浄化するか。自分で決めなよ。」

「・・3つも選択肢があるのに、どれもぞっとするほど救いがないわね。」

自分が対峙しているものが何なのか、今さらながらに悟る。

神が作ったものなのだ。

時がを持ち、力も大きく、そして自由。

花はどれを選んでも、きっともう前向きに生きることは出来なくなるだろう。

なぜ、この世界はここまで花から奪おうとするのか。

ゴーシュは、期限を、皇太子が楽士たちの歌を聞く時までだよ、と言った。


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