従業員は、誘う。
ゴーシュは、朝早く到着した。
「おはよう、花。今日もキュートだね。会えなくて寂しかったよ。」
相変わらずのチャラさでキラキラオーラを放つ。
その軽さは旅先でも健在。ゴーシュに疲れは感じられない。
花たちも元気だったし、オリバーも顔色が良かったが、レオンだけ、暗く沈んでいた。
その理由はすぐにわかったのだが。
「花。魔物を使役するにはどうしたらいいのだ?」
朝食時に珍しくオリバーから話しかけられ、花は戸惑う。
質問の意図が分からない。
「名前をつけてあげて、それを受け入れてくれたら、でしょうか。細かいところは私も分かりません。」
「誰でもできるのか?」
答えに困っていると、変わりにゴーシュが答えた。
「不可能ではありませんが、強い魔力と、魔物と意志疎通できる力が必要です。」
ゴーシュは的確に答える。やけに詳しい気もする。
「魔力というのはどれくらいのものだ?」
オリバーはなおも聞く。ここまで聞けば、この質問が単なる好奇心ではなく、実際に使役をしたいのだと分かってくる。
「魔物の種類にもよりますが、相当魔力がなければ危険です。」
ゴーシュはにこやかな表情を崩さない。
「危険?なぜ?」
とたんに不安そうになるオリバーに、ゴーシュは説明する。
使役は一生続くこと。
その間、魔物は使役の対価に主の魔力を一定量もらい続けること。
使役の瞬間にも、多めの魔力を受け取ること。
そして。
「主の魔力が足らないときは、生命力を代わりに受け取ります。」
つまり、魔力不足は命に関わるのだ。魔力の自然回復には時間がかかる。回復前に次の受け取りをしようとすれば、多くの場合生命力が削られる。生命力の自然回復は、ない。
「あの、歌う鳥女はどれくらいの魔力がいる?」
ジュエルを鳥女、と呼ぶオリバーに、花は言い表せない嫌悪感を抱いてしまう。
「契約に2000、1日に1000くらいです。」
ゴーシュの告げた数字に、オリバーは唖然として黙った。
唖然としたのは花も同じだ。
イルディンの魔力量が、たしか3500。
イルディンですら、ハーピーを使役できない。魔力無限というのが、いかに異様なことか、今さらに思い知らされる。
「・・で、では、使役した魔物を譲ってもらうのはどうだ?金なら用意可能だ!」
「・・は?」
花はあっけにとられて気の抜けた返しをしてしまう。
オリバーの目が据わっている。魔物への執着が怖いくらいだ。
「可能ですけどね。主の花が、あなたの命令に逆らうなと命じればいいだけですから。」
ゴーシュの言葉は、柔らかい。だが、花には変な刺のようなものが感じられる。オリバーには分からないようだが。
「オリバー様。私はおすすめしません。」
そこまでことの成り行きを見守っていたレオンが、口を開いた。
「昨日からお話していたとおり、危険です。安易にそのようなことをおっしゃってはいけないかと。」
二人の関係性が決定的な会話だが、レオンは必死だ。おそらく、この話のせいで顔色が悪かったに違いない。
(まあ、到底乗る気はないけどね。)
「申し訳ないですけど、お受けできません。彼らは大切な存在ですから。」
花は口調こそ丁寧だが、はっきりと断る。だが、オリバーはとんでもない切り札を出してきた。
「余の頼みを断るなどあり得ない。余は・・」
「なりません!」
レオンの制止も聞かず、オリバーは最後まで言いきった。
「余は、セリウス王の第一子でありこの国の皇太子、オリビウスだ。」
部屋の中はしばしの沈黙。
ミリエルの、「なるほど、それで・・」という呟きがやけに響いたが、正体をあかしたオリバーは、気持ちが大きくなったようで、
「よい返事を期待している。」
と言い残し、レオンと部屋に戻ってしまった。
残された三人だが、ミリエルや花が口を開く前に、ゴーシュの笑い声が部屋に響いた。
「素晴らしい!本当に人間というやつは、期待を裏切らない!!」
異様な笑いにミリエルと花は反応ができない。
「花。話があるんだ。二人だけで。」
笑いはじめと同じく、唐突に笑顔が消えたゴーシュは、冷めた声で言った。
「僕には聞かせられない話ですか?」
ミリエルは苛立ちを隠さず言う。
すると、ゴーシュが、意味ありげににこりと笑い、花にスッと近づいた。
「ジュエルの歌は気に入ってくれたかな?」
花の耳元でささやく。
明らかに顔色が変わる花を、ミリエルが心配そうに伺う。
「後で、全部話す。今は、ゴーシュと話してみるわ。」
からかうようなゴーシュの笑いは見えないふりをしてミリエルにそう言うと、ミリエルは、少し迷ったような顔をしたが、
「部屋を使ってください。時間をつぶしてきます。」
花だけを見てそう言うと、外に出ていった。
二人は場所を部屋に移した。警戒心を隠せない花に、あくまに朗らかに、ゴーシュは告げる。
「単刀直入に言うよ。花。愚かな皇太子なんかサクッと暗殺して、魔王にならない?この世界の人間なんか、滅ぼしちゃおうよ。」
金髪碧眼の完璧王子の背中に、真っ黒な羽が見えた気がした。




