従業員は、笑う(2)
初めと同じように、花は一人、馬車から降りた。
ジュエルは、やや上気した顔で、片膝をついている。
聞きたいことが頭を巡ったが、こちらを見るジュエルの目が、まっすぐに何かを期待していることに気づき、我に返る。
「ありがとうジュエル。優しく運んでくれて、みんな安心できた。それに・・」
ジュエルの目はまっすぐ花を見ている。ジュエルは純粋に花が喜ぶと思ってくれたのだ。
「歌も素敵だった。声が美しくて、感動したわ。」
まずは、ジュエルに心からのお礼を言う。ジュエルは輝くような笑顔になった。
『嬉しい。主を喜ばせたくて、練習したかいがあったわ。馬車を運ぶときに歌ったら、きっと驚くって言われて。』
花は、その言葉に引っ掛かりを覚える。
「言われて?誰に?」
その時、花はとっさに振り返った。
そこにはもう、誰もいない。
ジュエルと目が合うと、彼女は意味ありげに微笑み、人差し指を立てて、口元に持っていった。
『ヒミツ。』
秘密・・。契約していても、そんなやりとりがあるのか、と花は思いながら、先程振り返ったときの事を考える。
質問をした時、ジュエルの視線が、花からふっと外れた。
花の後ろにいた、誰か。
振り向いた瞬間、金色が見えた気がした。
(まさかね。)
ゴーシュと合流するのは、まだもう少し先の小さな集落だ。
ここにきていたとしても、隠れる理由がない。
だが、この旅は、やはりどこか変だ。
そのことが気になりつつも、花は馬車に戻る。波乱は、始まったばかりだった。




