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従業員は、笑う(1)

『モニカ』から聞こえる歌声に、ゴーシュは笑みを浮かべていた。花が、歌詞の意味を大まかに説明しているが、ざっくりしていて、詳しくない。

メロディが気に入って、思わずくちずさんでしまう。

食堂に入った時、噂に聞くエリザの想像以上の美しさに、見とれたのは事実。だが、エリザには、聞いてみたいことがいろいろあった。ぜひ一度、食事をしながら話してみたい。面白そうだ。

自分がいない方が花たちの話は弾む気がして抜けたのだが、時間を潰すのにも飽きて、もう一度戻ってきた。この分なら、もうすぐ一段落して戻ってくるだろう。

ミリエルの教会に先に向かいながら、ゴーシュはあることを思いつき、一人、目をキラキラさせた。

さっそく、先程の歌を口ずさみながら、思いを巡らせる。

やはり、花の周りは飽きない。


旅の打ち合わせの最終段階になった。

ゴーシュは、かつてからの馴染みである楽士と踊り子の一団と話をつけて、東の領地に入る手前で二人の騎士に一曲披露してくれる約束をした。

ハーピーとコボルトが旅に関わることについては、イルディンとフィラードの方で説得をしてくれて、相手も了承している。

花たちを除いた話し合いがなされたということは、彼らも魔物たちとの共存・・嫌な言い方をすれば、政治的、軍事的な利用価値について、本格的に考え始めた、といったところか。

道筋も、立ち寄るところも確認すれば、あとは出発の日を待つのみだ。

今回の旅には、花とミリエルの二人が同行する。

とはいえ、ゴーシュも、楽士たちの一団との打ち合わせを終えたあと、森の辺りで合流することになっていた。

オリバーは、楽士たちの演奏の話を聞き、ちょっと興味を引かれていたようだった。意に添うものかはわからないが、王都ではなかなか聞けないものを聞けるのだ。貴重な体験にはなるはずだ。

出発の日は、あっという間にきた。


騎士の待遇はかなりよいようで、出発前、王と王妃による見送りがあった。

といっても、玉座の間で話すだけだったが。

セリウス王は何度も見ていたが、王妃は初めてで、その事実に驚く。

ミリエルによると、人前を嫌う方で、かなりのレアキャラなのだとか。

ゲームや小説では、社交の中心にいるイメージだが、そのへんはいろいろ大変そうだ。そういえば、この世界で、パーティーをまだ見ていない。招待されていないのではなく、開催されていないのかも知れない。


使うのは、プロテクトを施した馬車。

騎士とはいえ、貴族のご令息だけあって、馬車には慣れた様子で乗り込む。4人乗りより少し大きめのその車内で、正直なところ気まずい空気を覚悟していたのだが、先輩騎士のレオンは気さくな感じで、あれこれと話をふってくれた。

知識が豊富なミリエルも、会話の戦力になってくれて、オリバーの声はほとんど聞かなかったが、馬車内は穏やかな空間になった。

聞き手に回ることが多くなった花は、彼らの話でこの世界のことをまた発見する。

王都を中心に、東西南北の領地をそれぞれが納め、基本的に王家の血をひく貴族たちが領主であること。

現セリウス王になるまでは、普通にこの世界のイメージらしく、ダンスパーティーなどのきらびやかな催しがあったが、倹約をかかげる王が控えるようになったこと。

東の領地までのルートは、若干治安がよくない区間もあるが、領地自体は平和なところらしい。

今、一番争いが起きやすくなっているのは、西の領地だという。魔物の出没情報も多く、血の気の多い魔物たちと、人間たちとの争いも聞くらしい。

近々、軍隊の遠征の可能性もあるということだった。

(そんな時に、反対の東の領地に行くんだ・・。)

また、小さな違和感。

(いや、でも今は、この旅を進めることに集中しよう。)

そのまま一行は進み、いよいよハーピーのジュエルが、馬車を運ぶ段階まできた。

三人を中に残して、花は降りる。

ジュエルは、羽根をたたみ、その場に片膝をつく。

「四人が乗っている馬車だから、少し重くなるけど、よろしくね。」

花が頼むと、ジュエルはにっこりと微笑み、礼をした。

『主の望みを叶えるために、精一杯頑張るわ。主も乗っているのですもの。任せてね。』

その美しさに見とれてしまう。

王家御用達だという御者が、馬車から馬を外し、緊張した顔で、コボルトのポチと向き合っている。

花はそちらに行き、ポチとの間に入って、最終確認。

とはいえ、先に行って待っていてもらうだけなので、簡単に確認したあとはポチのテレポートを見送った。

馬車に乗り込み、ジュエルがそっと持ち上げるのを感じる。と同時に窓の景色が、下へと消えた。

安定した浮遊感。

馬車は傾くこともなく、ストレスはほとんどない。

だが、さすがに未知の体験のため、誰もしゃべらない。

と、その時だった。

『カントリーロード・・』

美しいソプラノで、初めは誰かよくわからなかった。声が頭上からのものだと分かり、初めてジュエルが歌っているのに気づく。

ジュエルの歌は、メロディは完璧に花の歌った「カントリーロード」だが、歌詞は異国の言葉だった。花には意味が分からない。

呆気にとられる花の横で、ミリエルが、

「この歌は、花の・・。なぜ?」

と呟いている。

不思議な歌声を聞いているうちに、馬車は森を越え、静かにゆっくりと着地した。




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