従業員は、口説く。
ゴーシュがただをこねるので、モニカには、昼ごはんもかねて、三人でいくことになった。
『モニカ』は、元踊り子の美魔女、エリザさんが、女手一つで切り盛りしていた定食屋だ。
今は、従業員として、息子のライラスがいるが、エリザさんを好きすぎて、親しく話しかける客に片っ端からがんつけるので最近は、ホールより厨房によくいるらしい。
今日の定食は、春野菜のスープに白身魚のムニエル。相変わらず美味しそうだ。
「エリザさん、ですね。なんて美しい方なんだ!」
話が聞きたかったので閉店間際の客が少なくなる2時前に行ったものの、ホールにいるエリザさんの奥で厨房からは、食器や鍋特有のカチャカチャした音がしていた。従業員がいる証拠だ。
(バイトの人でありますように。)
祈る花とミリエル。こと、ゴーシュの絡む事案について、二人の思考はかなり似た経路をたどる傾向がある。
が。
「あら、悪い気はしないわね。あなたがゴーシュね。男前ね。」
「もっと早く来るべきでした。いや、今からでももちろんイケます。まずは、今夜お食事でも!!」
身を乗り出して誘いをかけるゴーシュだが、花とミリエルは、厨房の音がぴたりとやんだことに気づき、顔を見合わせる。
時、既に遅し。
だが、二人が選んだのは、ゴーシュを止めることではなく、目の前の料理を平らげることだった。
ゴーシュをすぐに止めるのは不可能。エリザさんは、この顔の時は基本的に面白がっているから、あしらってはくれないだろう。
ライラスが怒鳴り込んでくる前に、まずはちゃんと料理を食べなければ。ライラスの辛抱が思ったより続けば、ゴーシュにも早く食べるようにすすめてあげよう。
ムニエルを堪能し、パンも平らげ、スープを飲み干すまで、なんだかんだゴーシュはエリザさんを口説き続けている。
そして、その手を握った瞬間、
しゅっ、さくっ。
小気味良い音と共に、ナイフが飛んできて、ゴーシュの頭上の壁に刺さった。
ゴーシュがさすがに、笑顔でかたまる。
厨房からは、ただならぬ殺気。
「とりあえず、手を離した方がいいんじゃないかな。」
花は静かにアドバイスして、続けて、
「ゴーシュ、食べてて。」
と促す。
食事を既に終えた花とミリエルは、心の中で、
(ライラス、ごめん。)
と謝る。
エリザだけは、やはり、面白がっている。
彼女にとっては、息子すら、手の中で転がす対象である。
さすがにおとなしく食事を終えたゴーシュは、用事を思い出したそうで、一旦帰宅。それでも去り際にどこから出したかバラを捧げ、ウインクして見せたのは、称賛に値する。




