従業員は、企む。
ゴーシュは、鼻歌を歌う。
毎日が楽しい。こんな感覚は久しぶりだった。
ほんの、少しの間のつもりで始めた仕事は、思ったよりやりがいがあって、気がつけばそのことを考えてしまう。
それに、花とミリエル。
反応がいちいち面白く、ついからかいたくなる。
(困ったな。やりすぎないようにしないと。)
だが、やはり見ていて楽しいのだ。花の近くは心地いい。
夕方、花から、ハーピーと契約を交わしたと報告された。
従業員ということで、花が変幻を解いた姿も、本当は聖女であることも説明してもらったが、ゴーシュにとっては今さら、な情報である。
この旅先案内所のようなものは、花が前の世界で追いかけていた夢を叶えようと踏み出した1歩目らしい。
(できる範囲で手助けするくらいは、許されるさ。)
ゴーシュは自分に言い聞かせる。
だが、昨日の今日で、魔物と契約してくるとは。
何を、かは分からないが、ゴーシュの中の期待が膨らんでいるのが自分で分かった。
次の騎士たちの旅は、きっと面白いことになるだろう。
花もミリエルも知らない彼らの秘密を、ゴーシュは知っている。
(花がどれだけ、彼らの心に迫れるのか、楽しみだ。)
その結果次第では・・。
そう考えるゴーシュの目には、いつもの飄々とした軽さはない。
あの騎士たちは期待に違わない動きをするだろう。
この世界の人間たちは、まだまだ浅はかなのだ。
花に呼ばれて行くと、地図が広げられ、ゴーシュが直したルートが示されていた。
ハーピーのジュエルが受け入れられるかはまだ分からないため、迂回のルートも示されているが、どうしても魔物たちの縄張りを通ることになる。
怖いのは魔物ばかりではない。盗賊団の縄張りもある。東の領地は、実は途中の開発があまり進んでいない。
東の領地そのものよりも、行くまでの道中が厳しいのである。
「まずは、ジュエルの力を借りる場合。ジュエルは確かに大柄ではあるけど、馬車ごとなんて可能なのかな。」
イメージは確かにしづらい。
「あのー。話を折るみたいで申し訳ないのですが、コボルトのポチさんに、テレポートで運んでもらっては??」
ミリエルはなかなか鋭い。
だが、顔には出さないが、ゴーシュはそれでは面白くない。
「できない理由がいくつか。まず、テレポートは、馬車や荷物まで運ぶのはちょっと厳しいと思う。それから、主である花自身や、主と深い関わりのあるものでなければ取り残される例もある。」
いろいろ課題を言ってみる。
まあ、花ほどの魔力と、ポチの能力ならできなくはないのだが。
「何より、それじゃあ便利だけど楽しめないわ!」
花の主義はぶれない。
そのぶん、空の旅は、確かに得難い経験にはなるだろう。
あとは、彼らの反応次第だが。
「直接説得の前に、長官や北の領主を味方につけておくことをおすすめするよ。」
慎重に、アドバイスする。彼らの場合は、その二人の後押しが大きな追い風になるはずだ。
花はこぶしをあごに当て、考えている。
「騎士だものね。確かにそのへんは大事かも。」
「なら、一度北の森でデモンストレーションしてみては?」
ミリエルは相変わらず冷静だ。
「ハーピーなら、馬車を掴めればバランスよく飛べるはずだ。馬車に、掴む輪っかをつけてやればいい。馬だけなら、テレポートもありだね。」
北の地でのデモンストレーションプランが進む。
そんな中で、花は何か気になることがあるようだった。
「どうしたの?花。」
ゴーシュは聞いてみる。
花は、独り言のように、言った。
「騎士、なのよね?私が進めたとは言え、馬車で移動するのが、なんだか違和感があって・・。」
確かにその通り。できれば、もう一歩推理してほしいところだが。
花の弱点は、この世界の常識を知らないところにある。
ミリエルも、少し俗世離れしたところがある。
馬車に乗る騎士、は、一般的ではない。
彼らは一般的な騎士ではないのだ。
(気づくまではほうっておこう。)
ゴーシュの判断基準は、選べるなら面白い方を、だ。
花は、振り回した方が面白い。ミリエルも。
知らず知らずにゴーシュはまた鼻歌を歌う。
面白い予感がある限り、ゴーシュの機嫌は常に良い。




