聖女は、契約する。
「ああ、東は音楽が盛んだからね。数多くの踊り子や吟遊詩人が東の出身だよ。」
ゴーシュからは、一瞬で知りたかった情報が飛び出した。
オリバーは、そのことを知っていたのだろうか。
踊り子、と言えば。
「エリザさんって、もともと踊り子だったのよね・・。」
なんだか、つながるような気がする。
ゴーシュに全部頼ってばかりではいけない。花は、エリザさんに聞いてみよう、と思い立つ。
それと。
「ゴーシュ。ルートの件だけど、魔物を使役するという案は検討するけれど、他の方法もみつけておきたいの。お願いできる?」
ゴーシュは相変わらず軽く了承して、ルート地図の部屋に入っていった。
魔物に手伝ってもらう旅、か。
まずは交渉だ。でも、もしもそんな風に関わり合いながら暮らせるようになったら。魔物たちのいきる道をひらく一歩になるかもしれない。
『ポチ。今来れる?』
目を閉じて呼びかけると、目を開けた時には、ポチがいた。
使えば使うほど、魔法の力は上がるというけれど、ポチのテレポート力、めちゃくちゃ洗練されてきている気がする。
フィラードのじゅうたんに劣らない快適さで、ポチは花を北の森へ連れていってくれた。
『空を飛ぶ魔物を使役、か。』
まずは、中枢で会議である。
『馬車を運ぶなら、力持ちじゃないとだね。』
メンバーは、ポチとリリー。
「精霊の力を借りることも考えたんだけど。風の精霊とか。」
プランの一つとして言ってみる。
『風の精霊は、いいこなんだけど・・』
リリーはうーん、と考えるしぐさ。かわいいんだよなあ。
「何か、問題あり?」
『あのね、力の加減があまり上手じゃないの。』
馬車壊しちゃうかも、と言われると、やはり躊躇してしまう。
「だとすると、魔物に頼るのが最終手段・・。」
浮かぶ魔物はいるにはいるのだが。
『主。たぶん、ある程度目星をつけているからこの森に来たのだろう?翼のある魔物は限られる。そして、この森には一体しかいない。』
そうだ。ポチがそれに気づかないはずはない。
「ハーピーを呼んできて欲しい。まずは、話してみないとね。」
『了承した。』
ポチは森の奥に下がり、程なくして、『彼女』を連れてきた。
『久しぶりね。聖女様。』
ほのかに色気を漂わせる羽根のはえた美女。
とはいえ、天使とは異なる。
手のかわりに羽根があり、脚は鳥のそれである。
もともと王都の近くに住んでいた魔物。仲間を失い、助けを求めて強い魔力を持つポチに引き寄せられて移動してきた。
「長い間、ちゃんと話せないままでごめんなさい。」
やっと、謝れた。
本当は、仕事関係なく会いに来るべきだった。すぐに来れなかったのは、忙しさのせいではない。単に、合わす顔がなかったのだ。
だが、魔物に助けを求めてみよう、となった時、だからこそ彼女が思い浮かんだ。
憎しみを乗り越えなければ、二つの種に、共存の道はないだろう。
「今日は、お願いがあってきたの。私の夢に、力を貸して欲しい。」
『聞こえていたわ。馬車を運んで、空が飛べなければならないのなら、私は確かに当てはまる。』
ハーピーは、探るようにこちらを伺った。
『あなたは、力を貸して、と言った。使役するのでは??』
花は首をふる。
「使役というのは、私からすることではないと思ってる。私を主とすることを望んでくれたから、ポチとリリーとは契約しただけ。私は、あなたと対等でありたい。」
ポチやリリーだって、花の中では対等に扱うべき相手なのだ。力を貸してくれることを、当たり前とは思っていない。
ハーピーはふふふ、と笑った。
『コボルトが、なぜあなたを主としたか、よく分かった。私も、あなたを、気に入ったわ。』
ハーピーは、その場に片膝をついた。
『名前を。』
花は戸惑う。
「契約、必要なの?」
ハーピーは真っ直ぐ花をみつめた。
『あなたのことは気に入った。でも、人間はキライ。私の家族を奪った。あなたの命令でなく、私の意思で動けば、私は人間を傷つける。』
ハーピーにとって、契約は、自分を抑える手段になる。
『主。』
横でやりとりを聞いていたポチが言う。
『契約は、一方的なものではない。我々は主に従うかわりに、主の加護を得る。主の魔力は心地いい。ためらわなくても大丈夫だ。』
必要なら、契約すればいい、と背中をおす。
『魔物は人間みたいに、ごまかしたり嘘をついたりしない。この者がそう言うなら、事実、そうなのだ。』
「でも、嫌なことを、契約で無理やりさせるわけには・・。」
『私がそうすることで、魔物の生きる道がひらけるかもしれないのでしょう?あなたはやってみたいのでしょう?』
ハーピーは、澄んだ目でこちらを見た。
『名前を。』
花は、心を決める。
「ジュエル。宝石という意味の言葉。どうかな。」
陰より光をイメージできるように。
『我が名を受け入れ、あなたを主と認めます。』
光が彼女を包み、羽根の根元が黒になり、耳にはリリーのよりはおおぶりの黒いピアス。
「力を貸してくれてありがとう。よろしくお願いします。」
と花が言うと、ジュエルは、優しく微笑んだ。
ポチが、またテレポートをしてくれる。
『主。礼を言う。』
帰り際にポチが言った。
『目的のない生は、目的を探そうとする。おそらくジュエルの言葉は本心だ。』
契約で抑えることに決めた人間への思い。でも、それを果たすために力を振るえば、憎しみの連鎖が始まる。
『魔物にも心はある。主との契約は、我々を不幸から救う手立てだ。』
その言葉に見合う生き方を、貫かなくてはいけない。
花に課せられたものは大きい。
ベストは分からないが、少しでもベターを。
花は、次に向けて考えを巡らせていた。




