男達の密会(1)
教会の一室。
「困っています。」
その部屋にいるのは、男が二人。某国の潜入員と、神官である。
懺悔の間としても使われるその部屋は、防音もしっかりしていて、落ち着く色調だ。
だが、神官は顔を赤らめ、潜入員はげんなりしていて、異様な雰囲気である。
「だから、何に困ってるんだよ。」
さっきからそればっかじゃねーか、と潜入員ザックはため息。
「花が・・。」
神官ミリエルは言い淀む。
「ん?聖女様とけんかでもしたのか?」
ちょっと同情してしまうザック。
ミリエルはうつむいて、心底困った声で続けた。
「花が、可愛すぎて・・。」
・・・・・・・・・・・・・・・・は?
「えーと、それはどういうことかな?」
戸惑うザックに、ミリエルは気づかない。
「可愛いんです。チョコレートっていうのをもらったんですけど、愛の告白という意味があるらしくて、それを、それはもう、ぶっきらぼうに渡すんです。」
いや、普通に渡せよ。
「お昼ごはん、一緒に食べるようになったんですが、いろいろ研究してるみたいでなんでもすごく美味しくって。」
まあ、それはいいよな。
「最近は、この国の歴史とか、勢力図とか、本の内容を教えたり、文字の読み方を教えたりしてるんですが、花って集中すると、眉間にぐぐっとシワがよるんです。」
ああ、あの顔、ちょっと面白いよなあ。
「気を抜くと、抱き締めたくなって困ってるんですよ・・。」
「いや、別にいいんじゃね?」
聞くところ、順調そのものに見えるのだが。
「僕は、どうしたらいいのか。」
ザック、限界。
「えーと、とりあえず、酒が飲めるところにいこうか。素面でこれ以上聞いたら、俺、物を壊しちゃうかも。」
人ののろけ話を聞くのは、正直、しんどい。
(誰を巻き込んでやろうかな。)
ザックはいろいろ計算した。
30分後。
「なんであんなに可愛いんですか!もう、何してても可愛いんですよ!!」
集まった面々の反応は様々だ。
とりあえずザックは、酒を飲んで機嫌を持ち直している。
ザックに負けず劣らずげんなりして、酒の進むペースが速いのがライラスだ。
「親としての心境だな。良かったなとしか言いようがない。」
イルディンは、意外と感無量。ただ、
「お前、自分の身は守れるようになれよ。というか、こちらも対策を考えなければ・・」
と考え始めるあたり、やはり仕事人間、というべきか。
「最近こういう平和な話がなかったからなあ。和むぞ。で、どの辺からそういう気持ちだったんだ?」
タイミングよくイルディンといたため、ついてきたフィラードが、実は一番よく話を聞いてやっている。
ミリエルは、早々につぶれて眠っている。
「・・だいたい、俺らの周りは、気の強い女ばっかりなんだよ!」
ライラスが突然言い出した。
「もっと穏やかで優しい、包み込むようなタイプはいねえのか?」
いないよな、と皆心のなかで答える。
「だが、おそらくお前が一番強い女に転がされる男だと俺は思うよ。」
フィラードの一撃。
「なんでだよ?」
ライラスは食い下がったが、フィラードはとどめをさす。
「いや、お前、どう考えても母親大好きをこじらせてるだろ。」
「んなことは!・・ない。」
「エリザさんよりの女に惹かれるってことかあ。前途多難だな。」
ザックが言うと、ライラスはムスっとして酒をあおった。
あ、拗ねたな。
考えてみれば、エリザのためにグランキンの名を落とす目的で山賊にまでなった男である。まあ、マザコン・・。
「お前だって、分かりやすすぎなんだよ。あのソフィーもなかなかな女だろ?」
フィラードは、標的をザックにうつす。
「なっ?ちょっとまて、俺は別に!」
なんでこいつが?
と警戒するも、フィラードは涼しい顔だ。
「お前は、有事には、まずソフィーの無事を確かめてから事にあたる。と、イルディンが言っていた。」
「・・余計なことを話すな。」
イルディンの低い声。
とたんに、その事が何を示すかまで考えがいたり、ザックはひやりとする。
イルディンは、ちゃんと観察している。
カムタニアの潜入員でありながら、聖女に近い場所にいるザックとソフィーが、何を大切にしていて、どう動くのかを。
それは、すなわち、裏切りがあれば、弱点が容赦なくつかれるであろう事を示していた。
(やはり、こいつが一番警戒しておくべき相手かもな。)
ザックは肝に銘じ、人のよい笑顔を浮かべて見せた。
「俺とソフィーは、ただの同僚っすよ。さて、そろそろ帰りますか。」
ミリエルを担ぎ、ライラスにも促す。
イルディンとフィラードは、まだ飲み足りないらしく、若者三人は、連れだって店を後にした。




