聖女は、山賊に襲われる。(2)
「俺がいうのもなんだけどさあ。若い娘さんとしては、結構ピンチなんじゃないの?」
お頭さんが言う。
「あー。はい。そうなんですけど。まだしゃべれるだけましっていうか。」
「一体何があったんだよ?」
聞かれて、花は、できるだけ短く答える。
「いきなり連れてこられた場所で、初対面の人にいちゃもんつけられて投獄されました。」
はい、以上。
言ってみて気づいたが、短くも何も、花からしたら異世界にきてからの出来事はこれだけなのだ。聖女がどうとか、利益がどうとか、花にはまったく関係ない。
「それに比べたら、目的もはっきりしていて、扱いも意外と丁寧だし、何より指示系統がしっかりしててはっきり言ってちょっと安心感があるくらいです。」
お頭さん、ちょっと絶句。まあ、言われたことないだろうしな。しかし、次の瞬間には山賊らしくニタリと笑う。
「ちょっと興味が湧いたぞ。聞いてやるよ。なんでそんなことになった?ていうか、お前、何もんだ?変幻、解けよ。」
変幻ってバレるもんなの??
驚いていると、相手の笑いが深まる。
「分かるんだよ、なんとなくな。まあ、勘?」
「えっと、事情は話したくないんですが・・。」
一応逃亡の身である。出来ればあんまり知られたくないのだが・・。
「俺さあ。女には不自由してねえんだよな。金もないし、別にあんたに興味もない。けど、欲しがるやつはいるだろうな。面白くないものは、金に変える方がいいと思わない?」
つまり、遠回しに、しゃべらないんならその辺のもの好きに売っちゃうよってことだ。
花は、他の手を諦めて、変幻を解除する。さらっと黒髪が肩にかかった。
もう、半ばあきらめて正直に話してみる。
ゲームだと、こういうアウトローな人が思いがけず仲間になってくれたりするし!という期待も、実はちょっとだけあった。
異世界からの突然の召還。
聖女のはずが、グランキン伯爵に、みた目に片っ端から文句を言われて魔女にされ、手枷足枷で弁解もできないまま投獄。
処刑を避けるために必死の逃亡。一応ミリエルのことだけちょっとはしょって。
途中、グランキン伯爵の名前を出したとき、ちょっと逃げたくなるくらいのダークオーラをお頭さんが発して怯みそうになったが、なんとか最後まで話すと、
「ちなみに、匿ってくれたり、助けてくれたりしませんか?」
と一応聞いてみる。
「・・面白いじゃねえか。」
お頭スマイル再び。
お?っと期待した花だったが。
「聖女なんて、お宝だ。売り飛ばす先さえ考えりゃがっぽりなんじゃねえか?」
話が良くない方向にいっている。
花はがっくりと肩を落とした。
結果、洞窟の奥にある部屋に放り込まれてしまう。
ご丁寧に鍵つきの部屋だ。
・・なんだか、こっちの世界に来てから縛られて放り込まれている時間の方が多い気がする。
さすがに心が折れそう。
ただし、今回は召還の時とは大きく異なることがあった。
先客が、いたのである。