聖女は、あきらめない。
「ミリエル。」
花の部屋で、花は、ミリエルと向かい合う。
ミリエルはなぜか、正座だ。
あの日、ひとしきり泣いた花に、ミリエルは例によって何も出来ず、流れのまま、帰っていくことになった。
その数日後。
「話があるの。」
という呼び出しを受け、ミリエルは花の部屋にいる。
(だめだ。心当たりが多すぎる。)
さらわれたとはいえ、ミリエルは、一度はマドラスに行こうとしていた。
花と出会った当初、召還が、いかに身勝手に人の人生を変えるか知って、二度としないと決めていたのに。
いや、もともとあんな風に投げやりになったのは、花に嫌われたと思ったからだ。
嫌われること、しちゃったし。
しかも、花を泣かせてしまった。
神官としての責任を放棄したのだ。もう、本当に、なんと言っていいか分からない。
そんなことを思っていると、自然と正座になってしまう。
だが、聞かなければいけない。
それが、花からのどんなに辛い言葉だったとしても。
・・コトン。
ミリエルの前に小さな皿が置かれた。
皿の上には、茶色の艶のある粒が二つ。
「ミリエル。」
「はい。」
なんだろう?と考えているときに呼ばれて、普通に答えたあと、ハッとして俯く。
「ミリエル。こっちを見て。」
花は、我慢強く、ミリエルに語りかけた。
ミリエルの顔が、恐る恐るといった感じで上がる。
そして、怒りではない、花の必死な顔に心を奪われる。
「私ね。ミリエルがマドラスにいくかもしれないと思ったとき、苦しくて、どうにかなりそうだった。」
涙がにじむ。ミリエルは、受け止めてくれるだろうか、と不安でたまらない。
「そばにいてほしかった。ミリエルがいないと、前に進めないって思った。ミリエルは、自分は何もできないと言ったけど、それは違う。私が心を許して、気持ちを話せるのは、あなただけだわ。私は、ミリエルに甘えているの。」
負うべき責任が重くても、ミリエルに肯定された全てで頑張ろうと思う。心を預けられるから、強くなれる。
「わがままだと分かってるから、嫌ならそう言ってくれてかまわない。でも、お願い。私から離れていかないで。そばにいてよ、ミリエル。あなたじゃなきゃ嫌なの。それが、神官としての責任からだったとしても、もう、構わないから。」
重いだろうか。また、イライラさせるだろうか。でも、花は、気づいてしまった以上、もう隠せない。
泣くのは卑怯だ、と思うのに、止まらない。
だめだ。
弱い自分に幻滅されるのが怖くて俯きそうになる。
でも、気持ちを届けたくて花は必死でミリエルを見つめ続けた。
「・・花。」
ミリエルが、花の目を真っ直ぐ見て、名前を呼ぶ。
その声は、甘い。
「僕がイライラした、と言ったのは、花の力になれない、無力な自分にたいしてです。後悔したのは、気持ちを伝える前に、あんなことをしてしまったから。もう、花にちゃんと言う機会は与えられないかもしれないと思ったら、生きてる気がしませんでした。」
もう、言葉を間違えたりしない。
伝えたいことは一つなのだから。
「僕は、一人の男として、花のことが好きです。きっと、もう大分前から。頼りなくて、並んで立つことすらできてないけど、どうしようもなく、花が好きなんです。」
だから、と立ち上がったとたん、ミリエルは盛大にこけてしまった。
「大丈夫!?」
思わず駆け寄る花に、ミリエルは泣きそうな声で、
「足がしびれました・・。」
と言う。
「もう・・。」
花は泣き笑いになりながら、ミリエルにそっと口づける。
唇が離れても、二人とももう謝らない。
「もう一回、いいですか?」
ミリエルがそっとささやき、二人はとびきり甘いキスをもう一度した。
温かい感情で、二人の心が満たされ、互いがそうであることを確かめるように、聖女と神官はおでこをくっつけて、笑いあった。
やっと、書きたかったところまで、書くことができました。
読んでくださるかたがいることが、ここまで大きな励みになるのだと、小説を投稿してみて初めて知りました。
拙い文章ではありますが、評価・ブックマークしていただいた皆様、読んで下さった皆様に心から感謝しています。
あと数話、エピローグのようなものを書いて、一旦終わろうと思っています。
ここまでお付き合いいただいてありがとうございました。
もう少し、彼らのお話をのぞいてやってください。
また、書きたいことができたら更新します。




