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聖女は、許さない。

ミリエルは、血の気の無い顔で花を見ていた。

また、縛り上げられて、ひどい目にあっているのではないかとおもっていたが、そんな様子ではなかった。

ここにいるのは、ミリエルの意志、なのだろうか。

「ごめん。私が迂闊なことを言って、ミリエルを危険にさらしたわ。」

まず、言いたかった謝罪を言う。ソフィーの言っていたことは正しい。花の言動にはいろいろな責任が伴う。

むやみに信頼して、人の情報をしゃべってはいけない。

ミリエルは弱く笑う。

「いいんです、花。僕なんかのこと、気にしなくていいです。」

ミリエルは、分かりやすくどん底にいた。

あんなことを言ったのに、自分なんかを気にする花に、やっぱり敵わないと思う。

「僕、マドラスに行きます。僕にもできることがありそうなので。」

「聖女を召還するってこと?なぜ?」

花は俯いていて、表情が分からない。

ミリエルは明るくふるまう。

「マドラスに聖女がいれば、こんな風に花が煩わされることもないでしょう?大丈夫。今度は前の世界に未練がなさそうな、こっちに来ることを喜んでくれる人を探します。」

「だから、突然、なんでなのよ?」

「だって、これぐらいしか僕にできること、ないじゃないですか。」

ミリエルは淡々と答える。

「今回は帰っていっても、マドラスは聖女による浄化をあきらめない。花の考えを理解してくれる日は、すぐには訪れないでしょう?」

ならば、向こうで聖女の召還をしてしまえば、花はもっと自由になれる。夢を叶えるために、もっと時間が使える。

「だから、僕は。」

「・・じゃないわよ。」

花の声が低くひびいた。

その場にいた皆が、ピリピリした緊張感の中、静かに行方を見守っている。

「冗談じゃないわよ。」

今度ははっきりそう言って、花は顔をあげた。

「無責任な召還なんて二度とするんじゃないわよ。私の覚悟をなんだと思ってるのよ。私はあんたのたった一人の聖女じゃなかったの?私のいくところならどこでもきてくれるんじゃなかったの?何マドラスに行こうとしてるの?」

涙が花の頬を濡らすのを、ミリエルは見つめる。

「花のそばにいたいと願えば願うほど、その資格がない自分に悲しくなるんです。僕がいて、なんになるんですか。花は自分で前に進んでいく。僕は、足手まといになることはあっても、助けになることはない。」

今回だって、ヒーローは花で捕まった自分はヒロインの役どころだ。

「花には、僕なんかより隣にいるのにふさわしい人がきっといます。」

花は、声を振り絞って思い切り叫んだ。

「ミリエル!私から逃げるなっっ!!」

花が前を向けたのは、覚悟を決めたから。その覚悟を決められたのは、ミリエルが、花を丸ごと肯定したからだ。

「強いとか、恵まれてるとか!そんなの、こっちに来てからそうじゃなきゃ生きられなかったからに過ぎないわ。私がやってこれたのは偶然に過ぎない。でも、前に進むためにもがこうと思うのは、ミリエルがいるからなの。あなたがいなくなるなら、私、やけになって何をしでかすか分からないわよ?」

その間、花の涙は止まらない。

「私からいなくならないでよ。帰る場所でいてよ。私にとっても、ミリエルはたった一人の神官なのよ?」

ミリエルがふらふらと、花に近づき、そのまま、花を抱き締めた。

「!?」

花はもう思考が巡らなくなり、ただ、ミリエルの胸で泣き続ける。この世界にいる全員が、初めて見る花の涙だった。

空気を読んだイルディン、ザック、ソフィーが、無言で、唖然とするキースとセリーヌを捕らえて静かに去る。

ポチとリリーは顔を見合わせて肩をすくめ、テレポートで姿を消した。

船は、そっとその場を退散する。

捕まったもの、逃げたもの、帰ったもの。

ミリエルが

(この状況どうすれば!?)

と焦り始めた頃には、付近にもう、誰もいなくなっていた。



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