聖女は、捜索する。(1)
イルディンからの呼び出しをうけて、法務部に行くと、ソフィーの報告書の件だった。
任意だが、リオンから事情を聞くことにしたという。
合成獣は、マドラスでも禁忌のはずだから、本当のことを言うとは限らない、のだが。
通訳が手が放せないらしく、こちらで通訳を用意できるならば、応じるという返事があった。
王宮にはマドラスの言葉が分かる通訳はいる。
だが、内容が内容なので、余り内情を知るものを増やしたくない。
イルディンが内容を把握するために通訳が必要だったのは本当なので、その辺を軽く謝罪して、改めて花を通訳に、事情聴取をお願いしたいというのだ。
花には依存ないが、黒い面を見せてしまったため、向こうがどう言うか気がかりだと言うと、もう、了解をとったということだった。
・・手回しが早いことで。
「早速だが、夕方から相手が来る。頼めないか?」
「いいんだけど。もし、私がごねたらどうする気だったの?」
イルディンはにやり。
「その辺は信用してるさ。まあ、最悪王宮の通訳を使うが、花は、基本的に断らないだろ?」
(なんか納得いかない。)
次の依頼は断ってみようかな、などと考えているうちに、時間になったらしく、知らせがくる。
ソフィーの報告書を頭に入れて、イルディンと共に、応接室の一つに入った。
部屋にはリオンだけだった。セリーヌも、通訳もいない。
一人だからか、リオンは前よりかなり弱気な感じだった。
「この前はどうも。」
一応、そう挨拶しておくと、
「言葉が分かるなら、言っておけば良いものを・・」
と、ぶつぶつ言っている。敬語の使えない若手社員のイメージ。よくこの人物が外交できたものだ。
「さて。花。グランキン伯爵について、聞いてみるか。」
イルディンに言われ、花はリオンに向かい合う。
「グランキン伯爵と、あなたは、何か取り引きをしようとしてましたね。」
直球過ぎて無理かな、と思ったが、意外にも、リオンは素直に頷いた。
「外国との取り引きは禁止されていないはずだが?」
イルディンに伝えつつ、花は続ける。
「何を、買おうとしていたのですか?」
「珍しい動物だと聞いた。カムタニアでは、ペットとして飼うのが流行っているが、なかなか手に入らないらしい。」
ペット?
「合成獣、では?」
とたんに、リオンの顔が歪む。
「はっ!冗談じゃない。法を侵すなどありえん。しかも、合成獣の研究は美しくないだろうが。・・それが、尋問の理由か?」
マドラスでは、合成獣の研究は邪悪なものとして、書物を持つだけで罪になるという。
(思っていた反応と違うな・・。)
花と同じ違和感を、イルディンも持っているようだった。
協力に感謝して、終わろうとすると、リオンは何か言いたげな顔をしている。
「何か?」
「聖女として、マドラスに来てもらうことはできないのか?」
本来の目的について、話そうとしているようすだった。
だが、その目的に添えないことが分かっている以上、花は役には立てない。
「私は、魔物を片っ端から浄化することはしません。共存の道をともに探してくれるなら、行ってもいいとは思うけど・・。」
リオンの顔をみれば、期待はずれの返事なのだと分かる。
だが、花はそれを曲げることはない。
合成獣を浄化するしかなかった痛みが、それを許さない。
「やはりな。考えが違う以上、交渉は無益だ。」
リオンはそれで終わり、出ていく。
(今は、グランキン伯爵の罪が明らかになること優先。)
花は、イルディンと、もう一度ソフィーの報告書の確認をする。
ソフィーの報告書には、合成獣、とはっきり会話の中に出てきている。盗聴の時だ。
「花が聞いていた時は、どんな話だったんだ?」
イルディンに聞かれて記憶を手繰る。
「大きさと、輸送方法を話してた。合成獣っていう言葉は出てこなかったけど。」
だが、リオンのあれは、本当に嫌悪しているように感じた。
ソフィーが嘘をつく理由も浮かばない。
「もう少し慎重に調べてみるか。」
考え込むイルディンのそばで、花は、違う可能性について考えていた。
(今日、セリーヌと通訳はなぜ来なかったんだろう。)
なぜか、ソフィーの警告が頭を巡りはじめる。
もし、セリーヌが、何か情報を得るために花に近づいたとしたら。
(私はセリーヌに何をしゃべったっけ?)
思い返して、あることに思い当たったとき、花はぞわりと寒気に震えた。
「・・イルディン。」
「なんだ?」
花の顔をみたイルディンは、その青さに驚く。
「ミリエルと、最近会った?」
答えは、否、だった。




