潜入員は、警告する。
試作品のチョコレートで、お茶でも、とソフィーを誘うとザックもちゃっかりついてきていた。
しばらくチョコレートを堪能。反応はまずまずの手応えだ。
しかし、セリーヌとの話を始めると、分かりやすくソフィーの顔が曇る。
花にとっては、楽しい話、だったのだが。
「・・花。あんた、もう少し危機感を持った方がいいと思うわよ。」
ソフィーは真面目な顔で言う。
「私の目からみると、そのセリーヌ、かなり意図的に花に近づいてる気がする。」
『変幻』で姿を変えていたのに、話しかけてきたこと。
しかも、余り迷いもなく。
花が、王宮の離れに住むことは、特に隠しているわけではないので、ちょっと調べれば分かる。
後をつけていたなら、迷わず「聖女様?」と声がかけられても不思議じゃない。
「でも、全然嫌な感じはなかったのよ?」
あの時間を否定したくなくて、ソフィーにも一理あるとは思いつつ、花は反論を試みる。だが・・
「ねえ、花。あなたは聖女様なのよ?政治的な利用価値も高いし、おそらく、他の聖女達から考えても、神様からも特別扱いされてる。何よりあなた自身のスキルが計り知れない。私だってうらやましいと思うことがあるわ。」
そして、自由だ。
この世界に当たり前にある、生きにくさをはねのけて進む姿は、眩しい。
「私は、あなたのこと、すごく気に入ってる。そばにいたいし、できることはしてあげたい。でもね。」
もし、カムタニアのために、花を裏切らなければならなくなったら。
花に不利になる情報を求められたら。
「・・私は花を裏切るかもしれない。」
花と過ごす、素の自分と、カムタニアの潜入員である自分。
きっと自分は、国を優先する。
それを花に告げること自体、本来あり得ない。
なんだか、いいわけをしているみたいで、気が滅入りそうになる。
そして、裏切るとき、自分は言い訳のように思うのだ。
花は恵まれている。大抵のことは、自分が心配しなくても乗り越えていくだろう。
だから、大丈夫だ、と。
「ごめん、こんな話して。要するに、あまり信じすぎちゃだめってこと。」
花は、ソフィーの言葉を心に刻んでいた。
この世界にきて、絶望的な事ばかりで、できることをみつけて前に進んできた。
友、と呼べる人ができる日が来るなんて、思いもしなかったのに。
「ソフィー。私、あなたに会えて良かった。あなたが何と言おうが、私は勝手にあなたを信じるし、あなたを友達だと思う。そんな風に心配されちゃうと、余計に好きになるわよ。」
ソフィーは、なにそれ、と言いつつもどこかて安心する。
ソフィーだって、花が相手でなければ、こんな風に自分の本心を明かしてまで心配したりはしない。
ソフィーにとっても、花は希少な友、なのだ。
「・・あー、あのさ。」
ザックがおずおずと会話に入ってくる。
花はビクッと驚いたものの、顔には出さなかったが、ソフィーは「あんた、いたっけ?」と辛辣だ。
・・いたよ。空気を読んで背景になってたけどな。
「さっきの話を聞いて、思い出したことがあってな。気になってきたから確かめに行きたい。チョコレートまたくれよ。先に行くわ。」
そういうと、ザックは手をひらひらと振って部屋から出ていった。
ソフィーも少し話をしたあと、帰り際に、そういえば、と言う。
「私がグランキン家で聞いたこと、全部まとめてイルディンさんに渡しておいたわ。リオンだっけ?マドラスの取り引き相手の尋問ももうできると思う。」
同じものは当然、カムタニアにも渡っている。何か情報があれば流してくれる、という。
花は礼をいって別れた。
その頃ザックは、ソフィーには言えない、情報入手の場にいた。いわゆる娼館である。
馴染みの娘が、最近グランキン伯爵のことを聞いてきた男がいる、と言っていたのを思い出したのだ。
その時はあまり深追いしなかったのだが。
「前に、落ち気味の貴族は?と聞かれて、グランキンの名前を出したっていってたろ。聞いてきたのはどんなやつだった?」
娘はザックにしなだれかかりながら、特徴を告げる。
改めて聞くと、その人物はちょっと腑に落ちない人物だった。




