聖女は、意気投合する。(2)
カフェに入ると、セリーヌもまだ昼ごはんを食べていないというので、アフタヌーンティーのセットを注文する。
本場イギリスのアフタヌーンティーをいただいたことがあるが、あの時はタワーに、サンドイッチやらスイーツやらが乗っていて、その後一日、何もお腹に入らなかった。こちらの世界では、それよりはちょっと軽めだが、それでも充分お腹は膨れる。
食べながらお互いのことを少し話したが、言葉が分かると知るや、セリーヌは結構饒舌なお嬢さんだった。
カカオから、甘いチョコレートができると話すと、知らなかったらしく、目を輝かせた。
「私の家は、カカオの生産が主な事業なんです。ただ、マドラスではカカオはあくまで不老長寿の薬、で・・。」
そうなると、購買層は限られる。事業への限界を感じているところだったそうだ。
「私の世界では、まずカカオの粉を、溶かしたものに砂糖を入れて飲むことから始まって、カカオバターと混ぜることで、チョコレートができたんです。」
「でも、そのまま固めたら、味にくせがありすぎませんか?」
「ミルクを入れることでマイルドになるんです。パンに入れたり、ケーキとかクッキーとか、なんにでも応用可能ですよ。」
話をすると、セリーヌが商売人の顔になるのが面白くて、話は弾む。
「それに、私の世界では、バレンタインデーというのがあって、主に女性が、好きな男性にチョコを贈って告白するというイベントがあるんです。」
それが流行れば一財産築けるのでは?という思いで話してみたのだが、セリーヌの反応は意外なものだった。
「まあ・・」
と言って顔を赤らめてしまったのだ。
(おや?これは?)
花はピンときてしまう。
「セリーヌさん、もしかしてそういう相手がいるんですか?」
セリーヌは、頬を両手で包んでうつむいたあと、潤んだ乙女の瞳で花を見上げる。
「こちらでは、女性からお慕いする相手に思いを伝える機会があまりないのです。」
もう、いるって言っているようなものだ。
「どんな方なんですか?」
「聖女様もお会いされていますよ。私、今回のサリルナード訪問
は夢のような時間になりました。」
ん?ということは、リオンか?
・・ちょっとがっかりする。
「彼はちょっと、苦労しそうですね・・。」
思わず言ってしまうとセリーヌはきょとんとした。
「そうでもないですよ。仕事熱心な方で尊敬できます。」
・・まあ、好みは人それぞれだし。
セリーヌは今度は身を乗り出す。
「聖女様は、こちらの世界にきて、そういう気持ちがあるお相手はないのですか?」
「花、でいいですよ。相手は・・ははは。」
一人浮かんだが、こちらはセリーヌのようなかわいい反応はできなさそうだ。
「他の国では、歴代の中に守人の騎士様や、召還した神官様と結ばれるかたもいらっしゃるとか。素敵ですわね。」
(そうなんだ。)
守人の騎士は、そもそもいない。まあ、理由はなんとなく分かる。そして、神官、の言葉に胸がはねて、その後沈んでしまう。
「私は一人で生きることになるかもしれません。」
花は、分かりやすくへこんでしまった。
今さらながら、あの時、ミリエルからの愛の告白をものすごく期待していた事実に気づいてしまったからだ。
「・・あ、そういえば、花様を召還された神官様は、あの場にはいらっしゃいませんでしたね。やはり忙しくされているんですか?」
何も知らないセリーヌは、地雷を踏んでいることに気づかない。
「・・忙しくはないと思いますよ。普段は王都の外れにある教会にずっといますし。」
(だめだ。話題を変えよう。)
「実は、先ほどお話したチョコレート、実際に作ってみたんです。良かったら研究用に少しお分けしましょうか?美味しかったら、セリーヌさんがこの世界で一番最初のバレンタインデーをしてみるのもいいかも!」
セリーヌは目を輝かせた。
「それはぜひ!おそらく、あと10日ほどで国から迎えが来るので、それまでにお時間があれば嬉しいです。」
「ええ。」
最初から比べれば花の心もだいぶ落ち着き、セリーヌとの会話で楽しみもできた花は、ちょっと意識的にではあるが、セリーヌが喜ぶチョコレート作りに気持ちを向けて、過ごすことにしたのだった。




