聖女は、意気投合する。(1)
「もう!一体なんなのよ!?」
花は、怒っていた。
ザックとの勉強会も、行くには行ったが、おさらいだけで早目に終わった。
ザックにも言ってやりたいことはあったが、あの話題にふれると、間違いなく王宮の物を壊してしまう。
あのティーカップ、お気に入りだったのに!
それもこれも、ミリエルのせいだ。
あれだけ花の心を乱しておいて、あんな理由だったなんて。
(酔ったときの言葉は、何かの間違いだったんだ。)
真に受けた自分をはたいてやりたい。
午後からは時間があいたので、『変幻』でいつもの格好になり王都に出る。
現在、結構懐は暖かい。
『モニカ』でのバイトは一旦やめているが、グランキン家での潜入で、メイドとしての給料ももらい、潜入の報酬も得た。
また、花の作った『ヤバいポーション』もイルディンが正式に購入したため、ほぼ法務部からにはなるが、一気に所持金が増えたのである。
そのかわり、イルディンから、しばらくの間、バイト禁止を言い渡された。
こうやって王都にふらっと出るのも、あまり良くはない。
今は、外交や潜入のため、人の出入りが多い。いつ危険な目に遭うか分からないのだ。まあ、イルディンは半ば花の自由を制限することは諦めていそうだが。
食材の買い出しがてら、服の生地や装飾品ものぞいてみる。
この世界では、裕福な令嬢は仕立て屋のオーダーメイドでドレスやワンピースを手に入れる。
一般市民は基本、手作りだ。
そのため、服屋より、必然的に布やボタン、リボンといった素材のお店が並ぶことになる。
洗濯が魔法で簡単にできるため、たくさんの服はいらないのだが。
(気分転換に、新しい服とか、着たいなあ。)
何か、気の晴れることがしたい気分なのである。
ちなみに花は、もちろん願えば王宮お抱えの仕立て屋が、サイズぴったりの服を用意してくれる。ただ、やっぱりドレスは性に合わないし、そもそも、もとからねだる気にはなれないのだ。
エリザさんが、教えてくれて、簡単なワンピースなら作れるようになった。ソフィーなら、もっと動きやすい服も教えてくれるかも。
そんなことを考えて、気持ちが浮上してきたとき、花は突然呼び止められた。
「すみません!あの!」
振り向くと、そこにいたのは、マドラスの女性だった。
えーと、たしか・・
「セリーヌ?」
「はい!あなた、聖女様、ですよね?」
なぜ片言?と疑問に思ったが、そこで設定を思い出す。
恐らく知っている単語を並べて話しているのだろう。
さて。どうするべきか。
『変幻』もあることだし、ごまかす手もあるっちゃある。
でも、正直、このセリーヌさんとはもう少ししゃべりたかった気持ちもあった。
(うーん。ちょっとしゃべってみるか。)
「はい。そうです。」
女性は案の定目を見開く。
「言葉が、わかるのですか?」
多分、マドラス語で聞こえているようだ。
もう、いいか。
まあ、少し・・と濁しつつ肯定すると、セリーヌはあれこれ巡ったらしく、しばしの間の後
「あの時、やはり聖女様はリオン様の発言に怒っていらしたのですね・・」
と顔色が悪くなる。
あのあとマドラスの三人は、なんとなく不穏な空気を感じつつも、特にリオンが「異世界の女のことなんか理解できん!」というスタンスで特に原因を考えることもなかったらしい。
真っ青なセリーヌにさすがに気が引けて、お茶に誘うことにした。
この辺りは女性向けのお店が多いため、かわいいカフェもあるのだ。ソフィーとは一度一緒に行ったが、シフォンケーキやスコーンがおいしい。ついでに昼ごはんがわりにしてしまおう。




