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潜入員は、知らんぷりをする。(1)

「夜分にすみませんね。ちょっとこいつを引き取って下さい。」

いきなりやってきたザックは、人間をかついでいた。

夜中の乙女訪問を、さすがにたしなめるべきか迷った花が口をつぐんだのは、ザックの連れてきた人間が、久しぶりにみる顔だったからだ。

「ミリエル?!」

「酒場のすみで寂しく飲んでたから声かけたら、花様の知り合いだそうで。こいつ、酔いつぶれて、家分かんないし、さすがにアジトには連れていけないんで。」

ソフィーにバレたら、ミリエルがしごかれてしまう。

同じ片思い男としては、肩を持ってやりたい気持ちもある。

それに、この反応。思ったよりキスうんぬんは怒ってないみたいだし、もしかしたら脈アリなんじゃねえのか?

まあ、後の事は本人の問題だ。

とりあえず涙あとの残る酔っぱらいをドサッと下ろす。

「わわ!ちょっと、床に落とさない!えっと、とりあえず靴脱がせてベッドに運んで!!」

花もブチパニックだが、とりあえずミリエルを運ぶ男手があるうちにと、頼む。

ザックは「へえ、ベッドねえ。」とにやついていたが、寒くなってきたこの時期に床で寝て風邪でもひいたら大変だという、ほぼおかん心である。

ザックはやることだけやって、さっさと帰ってしまった。


もともと寝る直前だったのですることもなく、ミリエルのボタンを緩めて、締め付けをなくし、濡れタオルで顔だけぬぐってやる。

「ん・・。」

ミリエルがうっすら目をあけ、花は硬直するが、ミリエルはそのままにへらーっと、笑う。

「花だ~。」

眠りにつきそうなミリエルに花は気が抜けて、一方でちょっと腹も立ってくる。

「なんでキスなんかしたのよ?」

ミリエルの頬をつついて、聞いてみる。

あのあと半泣きで謝罪したミリエルは花のことを避けに避けまくっていた。花が欲しかったのは謝罪じゃない。

「花が・・好きだからです・・。」

え?

思いがけない言葉にびっくりして聞き返すと、ミリエルはむにゃむにゃと眠ってしまう。

(なんなのよ?この状況!)

このままたたき起こして問い質したい気持ちと、それをしてまた避けられたくない気持ちがせめぎあって、結論、花はふう。とため息をついた。

「とりあえず、寝よ。」

なんだか疲れてしまった。

異国の王族には馬鹿にされ、酔っ払った神官からは告白され、どちらも言い返せぬままもやもやと思考と感情が巡るだけだ。

(ちょっと寒いな。)

暑さも寒さもある程度調節された部屋だが、ちょっと肌寒く感じる。とはいえ、布団はミリエルが使ってるし。

(はじっこで寝て、ミリエルが起きる前に目覚めればいっか。)

疲れと、睡魔に負けて、花はミリエルを起こさないように端の方に潜り込む。

ミリエルのおかげでちょっと温かいベッドの中、花は驚きのスピードで眠りに落ちてしまった。


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