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聖女は、外交に臨む。(2)

謁見は、王宮の聖女の間で行われた。

マドラスの使者は、女性が一人、男性が一人。通訳の男性が一人いて、合計三人と向き合う形である。

花は以前王宮に乗り込んできた時のように、大至急いろいろ施されて、扇のようなものを渡され、それで隠してイルディンに言葉を伝えることになる。

花は、ばれないように、だが、盛大にむくれていた。

仕方がない。そう思おうとするが、ムカムカはおさまらない。

始めは良かった。女性が、手土産にカカオの実と粉を持ってきたのだ。マドラスでは不老長寿の薬として、実をすりつぶして飲んだり、粉をお湯で溶いて飲む習慣があるらしく、賓客のもてなしや、貢ぎ物としても重宝される、高級品だという。

(どこかで聞いた話だな)

記憶を手繰ると、たしか、チョコレート検定を受けたときに勉強したメソアメリカの話だ、と気がつく。

多分称号があるだろう。

(ということは、チョコレートが食べれるかも?)

そう思いながら心を弾ませたとき。

「セリーヌ。もう、いいだろ?女同士のつまらん話は早く切り上げて控えてくれ。聖女の機嫌が良くなればお前の役割は終わりだ。」

カカオの説明を丁寧にしてくれていたセリーヌ、という女性は、表情を曇らせ、困ったように微笑むと下がった。

通訳は、男の言葉を訳さない。ただ、

「リオン様が話をされます。」

と告げた。リオン、というのは、まさに合成獣をグランキンと取り引きしようとしていた人物だ。

(分かりやすく男尊女卑、って感じだな。嫌いだなー。)

そもそも合成獣がらみでいい印象は無いのだが今の一言は決定的だ。

リオン氏は花と同世代くらいに見えた。セリーヌは少し年上に見える。だが、立場としてはリオンの方が上なのだろう。


「聖女には見えないな。やはりまともではないのだろう。キース、適当に褒めておけ。」

リオンがにこやかに言う。

「聖女様を初めて拝見しましたが、お美しくて驚いています、と申しています。」

キースと呼ばれた通訳は全く訳さずに伝えてくる。花は表情を貼り付けて変えないようにするので精一杯だった。

知らないふりは難しい。

「聖女になってからの仕事ぶりも目覚ましくないのだろう?サリルナードで浄化が行われたという話がほとんど入ってこない。なぜか聞け。」

「サリルナードでは、浄化がなされた話をあまり聞きませんが、なにか理由があるのですか?」

イルディンがどうする?と聞いてくる。

「魔物たちが人間を襲わないので必要ないと伝えて。」

「あー、魔物は人間を襲わないので、何もなければ浄化の必要はない、とのことです。」

キースが繰り返すと、リオンは分かりやすくふん、と鼻で笑う。

「ものを知らない小娘が偉そうに。魔物など、利用できないくらいなら駆逐してしまえぱよいのだ。キース。この貧相な聖女を言いくるめてマドラスに連れて・・。」

ピシッピシピシピシッ・・

不穏な空気に、リオンの声が止まる。

気がつくと部屋の空気は闇魔法で充満していた。

一触即発で雷が発生しそうな状態だ。

「花、どうした?」

イルディンが小声で尋ねてくるまで花は自分が発していた気に気づかなかった。

顔はギリギリ笑顔のまま、ん?、と眉をあげる。

こめかみに分かりやすく血管が浮いている。

まずいな・・。

イルディンは冷たい汗が背中を伝うのがわかった。

雷以外にも、何やら嫌な風も吹いてきた。嵐の予感である。

「聖女様は気分が悪そうです。今日の謁見はここまでに。」

マドラスの三人はたじたじになりながら退室した。


「・・多分、バレただろうな。」

後で事情を聞いたイルディンがうなる。

悪いのは相手だ。言葉が分からないと思っていたにしろ、あれは本当に失礼過ぎる。なんというか、悪意が尋常じゃない。

「リオン、は王族なのよね?こっちも人のこといえないけど、礼儀とか、マナーとか、ちゃんと勉強しなおした方がいいんじゃない?」

あんなのが外交のために出てくるなんて、マドラスも、トップにはとうてい期待できそうにない。

「まあ、マドラスは諦めないだろうから、次までに策を練ろう。それより、花。彼らの土産に目が輝いてたが、これが何か、分かるのか?」

イルディンの言葉は効果てきめんだった。

「そうよ!あんなやつよりも、チョコレート!!」

土産は毒見がされたもの、とのことなので信用することにして。

夜ではあるが、イルディンに頼み、砂糖とミルクを準備してもらう。

『称号』を探して、見つける。「媚薬の調合師」。花がとったのは、『チョコレート検定』の『チョコレートエキスパート』だから、もし『スペシャリスト』なら、駆け出し、とか見習い、とかになるのだろうか。

・・他に媚薬に当てはまる資格はないから、これで間違いないだろう。

称号を発動すると、資料を丁寧に読み込んで知識を身につけた時のことが甦る。

頭に正確なレシピが浮かび、魔法を駆使して時短で仕上げる。

チョコレートは、恋にきくお菓子でもある。

この世界では12ヶ月の概念がないため、2月14日もいつなのか分からないが、前の世界でもまさかカカオ豆と粉からチョコを手作りする女子はなかなかいないだろう。

「カチーン」で冷やしている間に、頼んでおいた鍋でミルクを温め、ココアをいれる。

うん。美味しい。なかなかうまくできたようだ。

「こんな使い方をするのか。」

イルディンも感動している。

チョコレートの方はイルディンにもお土産で渡し、残りをもらって部屋に戻ることにする。

なんだか、めちゃくちゃ疲れる夜だ。しかし、やっとシャワーを浴び寝ようかという時になって、最後にもう一波、ザックが起こしにやってきた。




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