聖女は、外交に臨む。(1)
不本意かもしれないが、とイルディンは言った。
法務部には、聖女との謁見を求める書状が多く届いている。
もともと、召還され、教育を終えて浄化の力を手にした聖女は、各地を渡り歩き魔物たちを一掃していくのが慣わしだ。
現在、この世界に存在する聖女は三人。イルディンの話では、あとの二人は順当な形で聖女になり、通例通りの浄化の力を得ているらしい。
花が最後に召還され、異例の事態の中、今がある。
各国の反応は様々で、魔物を残したことに抗議したいが、淀みがなくなったことをどう評価していいかわからず、自国に聖女がいるところは引き続き魔物を消しながら様子を見ているようだった。
何より、正式に神様と言葉を交わしている以上、表だって花を批判することはできない。
「マドラスは大国だ。守るべき領地も国民も多い。出現した魔物も、な。」
しかし、マドラスには聖女はいない。
召還できる血筋の神官が、もう一人もいないのだという。
他の国の聖女にも要請を出しているようだが、二国とも強国で、聖女を外には出してくれない。
「サリルナードは、為政者が適度に押しに弱い国だからな。」
いや、王様はあれは、ダメでしょ。
花はため息をつくが、嫌なわけではない。
セリウス王は、それでもかなりの粘りを見せ、派遣、ではなく謁見、にしたのだそうだ。
「マドラスの国の様子は、気になる。」
合成獣を買おうとしていた国、マドラス。ソフィーたちのカムタニアを狙う国。
警戒しておきたいが、そのためには、ちゃんと知らなければならない。
「グランキン家に来ていた二人にも会うことになる?」
イルディンは厳しい顔で頷く。
「使者はその二人だけではないが、含まれているだろう。潜入に関しては機密だから、直接問い質したりはできないだろうが。」
ならば、会ってみる必要がある。
花の立場だからこそ、探れることがあるかもしれない。
花は謁見を承知した。その場には、イルディンも同席してくれるという。
ただし、問題が一つ。
「イルディンは、マドラスの言葉はわかるの?」
イルディンの答えは否、だ。
「私、分かっちゃうみたいで。しかも、普通にしゃべったら通じちゃうみたいで。」
通訳を介した方が、イルディンが状況を把握できるし、相手が言葉を知らないとなれば、隙も生まれる。
できれば、花はしゃべりたくないのだ。
「なるほど。となると、だ。」
イルディンは考える。
聖女は神に次ぐ立場だ。今の花の雰囲気ではないが。
「直接会話できなくするしかないな。間に俺が入ろうか。」
花が耳打ちして、イルディンが相手に伝える。これなら、違和感を持たれることもない。
「まどろっこしいなあ。耐えられるかな。」
心配する花に、イルディンは苦笑する。
「まあ、相手もそうそう迂闊なことはいえないさ。じゃあ、さっそく日取りを整えよう。」
相手は今か今かと待っていたらしく、その日の夜には場が設けられる。
つくづく、押しに弱い国である。
ちなみに、謁見の開始時間に、ザックはミリエルに遭遇していたのだった。




