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潜入員は、知りたがる。

「なあ、聖女様って、男がいるの?」

ザックから、初めての話題をふられ、ソフィーは意味もなく焦る。

「ザック、花のことが気になるの??」

ザックはそこで、かなり唐突な質問をしたことに気づき、訂正する。ソフィーには勘違いされたくない。

「俺じゃねえよ。なんか、誰か聖女様に手を出したんじゃないかなと思って。」

そして、今日のあの質問について話すと、ソフィーの顔が輝いた。

「なにそれ。ちょっと面白いじゃない。」

ソフィーは、グランキン家での仕事を一旦終え、今していることと言えば報告書作りくらいなものだ。

だが、ソフィーもザックも、職業柄気になることは知ろうとする性分である。

「花の周りの男たちと言えば・・。」


エントリーナンバー1 「イルディン長官」

ソフィーたちが知る中では、一番花を認め、かつ大事にしていると言っていい。花がエリザとして潜入しているとき、身に付けていたお守りやら位置情報を発信する石なんかはもはや過保護の域である。

だが・・

「どう考えても保護者、よね。」

「うん。保護者だな。苦労してそうだ。」

口づけを突然するようなタイプではないだろう。


エントリーナンバー2 「北の領主フィラード」

「かなり俺様タイプよね?」

「ああいう押しが強いのに女は弱いんじゃないのか?」

そういうタイプもいるだろう。

だが、花との関係を考えると、恋人になりそうな雰囲気は、ない。年齢も離れているし、イルディンと同じく保護者に近い感じだ。

何より。

「フィラード様なら、ちゃんと告白してから口づけ、じゃない?相手に疑問なんか抱かせないわよ。自信ありそうだし。」

確かに。よって、別の可能性を考える。


エントリーナンバー3 「山賊のお頭ライラス」

これはちなみに「元」がつく。

今は監視付きではあるが、エリザさんの定食屋「モニカ」で働いている。年齢的には花と一番近いのだが。

「・・マザコン。」

「マザコン、だな。」

エリザさんがもっていた手紙で勝手に父親について早合点し、家を飛び出した。幼い動機だが、エリザさんを思っていたのは間違いない。最近は、一緒に定食屋で働きながら、エリザさんに色目を使う男たちににらみをきかせている。他の女が入る隙はなさそうだ。


「じゃあ、だれなのよー?」

ソフィーは頭を抱える。

そう。二人はミリエルをまだ知らない。会ったことは多分あるが、主要人物だという認識がない。

「理由も告げずに迂闊に花に口づけしちゃうあたり、たぶん若くて押しに弱い感じの男だと思うのよね?花に怒られたらうるうるしちゃうような。」

ソフィーは分析する。

しばらくは、探るべき案件が一つ増えたようだ。

「みつけて、いいやつなら、鍛えてあげよう。」

ソフィーは一人決意する。

「人の事より自分のことに気づけよ。」

ザックはばれないように、ため息をついた。


ザックの日課は夕方からの居酒屋だ。

特別酒は好きじゃない。べらぼうに強いけど。

居酒屋には情報が集まる。

近辺に誰がいるのかを把握すれば、余所者が入ってくればすぐ分かる。

噂話に内緒話も豊富。

取り入りたい相手に、偶然を装って近づくにもいろいろ都合がいい。

すっかり常連になったザックは、いつもの酒を、つまみと共に飲み始めた。

今日は見知った顔が多い。特に新しい情報はないか。

そう思いながら視線を移していくと、店の端の方で1人酒をちびちび飲む若者に目が留まる。

(あんなやついたかなあ。どっかで見た気もするけど・・)

新しい酒をもってきてくれた女給に聞いてみる。

「あそこで飲んでるのって、この辺の人?どっかで会った気がすんだけど。」

女給は、ちらっと目をやって首をかしげる。

「誰かまでは。でも、なんか彼女のことで荒れてるみたい。最近結構くるのよね。」

ザックが気づいたのは今日が初めてだが。

妙に興味をひかれ、話しかけてみることにする。

「俺も一人飲みなんだ。相席いいかい?」

「・・どうぞ。」

男は、顔をあげ、席をずらしてくれる。

「ありがとよ。なんか暗い顔で飲んでんね。どうかしたの?」

ナンパかよ、と思いながらも優しく聞いてみる。

しくしく泣いているのだからしょうがない。

「・・女性って、いきなりキスされて挙げ句すぐに謝られたら、相手のこと、嫌いになっちゃいますよね。」

ん?キス?なんか最近聞いた話に似てるぞ?

参考になるかもしれないと思って聞いてみることにする。

「まあ、状況と相手によるんじゃないの?やっちゃったのか?」

「・・やっちゃったんです。」

「あー、ちなみに、何でキスしたの?相手は彼女さん?」

「いえいえ!とんでもない!!」

全力で否定され、ザックはちょっとひく。

「じゃあ、なんで?」

物事には順番ってもんがあるだろう、と、ザックは真面目な性格だ。相手を問い詰めると、泣き顔のまま、だんだん目が据わっていく。

「僕は相手の力になりたいだけなのに、責任を感じなくていい、みたいに言われて、なんだかムカムカして。」

「ムカムカして、なんでキスなんだよ?」

ザックは考えて、はたと思い付く。

「ようは、相手に惚れてるってことだろ?」

男は、目を見開いた。すごく驚いているようだ。

自覚がないのか。

「惚れてる・・惚れてる!」

男の目が、急に力強くなる。

「そうです。僕は、花のことが好きなんです!!」

ん?今、花って言った?

ザックはそこで初めて、会話の相手がまさに聖女様を悩ませている男だと知る。

だが、それを確かめる前に、男は力を失い、つぶれてしまった。

せめてもの思いで、二人分の会計をすませてやる。


若くて押しに弱い感じの男。花に怒られたらうるうるしちゃうような。

「ソフィーの予想、すげえな。」

ザックは、ちょっと鳥肌が立つ。

さて。こいつをどうするべきか。

名乗らなかったため、どこの誰かわからない。

「仲直りの機会は必要だよな?」

ザックはニヤリと笑って、男を肩にかついだ。



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