潜入員は、巻き添えをくう。
「いや、頼む相手がおかしいでしょ?」
ザックは思わず叫んだ。
グランキンの一件がひとまず落ち着いてから、2週間。
合成獣の研究施設は閉鎖され、資料も没収となった。
研究員として潜入していたザックは、お役ごめんとなり、また何か指令が来るまでは、潜むことになる。
ソフィーがまだ潜入を続けているため、今はサポートに回っていた。
今回の潜入は、得るものが大きかった。
一番は、聖女との接触。
ずっと、エリザ、とよんでいたので、本名で呼ぶ時は間違えそうになって構えてしまう。
花は、間違いなく規格外の聖女だが、ザックは、一目おいていた。
責任を背負って選択することを厭わない。
そして、彼女の選択には、何か一本、人として見誤ってはいけないものがきちんと存在している。
だが。
合成獣の研究資料のことでソフィーと共に、イルディンを訪ねると中で花とイルディンが難しい顔をしていた。
「どうしたんすか?」
ザックが聞くと、イルディンが、
「ザックくんはどうだ?適任なんじゃないか?」
と、ポンと手を打って言った。
花の顔が分かりやすく明るくなる。
正直言って、こういう時は嫌な予感しかしない。
「世界について学びたいなら、学校にでも行けばいいんですよ。地理も歴史も教えてくれます。なんなら本を読めば!」
あろうことか、花は、ザックに世界について教える教師を頼みたいと言い出したのだ。
その会話で初めて知ったのだが、花は文字の読み書きができない。
会話は万能なのだと聞いてまた驚く。うかうか内緒話もできない。
「なんで俺なの?」
素朴な疑問。
「潜入の中で、表も裏も知ってそうだし、研究員に扮することができるくらいだから、他のことも色々聞けそうだし・・」
花はちらっとザックを見る。
だし、なんだよ?
「ほら、ザック、今は一番時間がありそう・・っていうか暇なんじゃないかなと。」
あー、やらない。絶対やらないぞ。
しかし、その決意はソフィーからの
「いいじゃん、やってあげれば?暇そうだし。」
という一言で覆される。
ソフィーと花は、何やら波長が合うようで、やたらと仲が良いのだ。
「俺は、別に暇じゃねえ!」
ザックは言ってみるが、こうなるとどうせ逃げられないんだろうな、と諦めのため息をつく。




