弱虫神官にだって、言いたいことがある。
一段落して、花は、久しぶりの休日をむかえた。
ポチとリリーには、あのあと謝り、お礼も言ったが、気持ちは晴れはしない。
本当は北の地に連れていってもらって、話したいとも思ったのだが。
「休みの日は、連れていきたい場所があります。」
ミリエルに強めにそう言われて、花の予定は決まったのだ。
ミリエルもエリザさんの定食屋でお給料をもらっていたらしく、奮発して、最近人気の王都のレストランに連れていってもらう。
花の『変幻』で変わった姿の方は、王都で最近よく見る子、として認識されており、声もかけてもらいながら大通りを歩いた。
夕方。
ミリエルが連れてきたかった場所、というのは、教会の裏の丘の上だった。
花も『変幻』をとき、二人並んで座る。
肌寒くて思わず自分の肩を抱くと、ミリエルが教会から持ってきた肩掛けをかけてくれた。
遮るもののない丘から、王都が夕焼け色に染まるのが一望できる。
日々繰り返される人々の営み。
ちらほらとつきはじめる灯りの一つ一つに、そこで生きる人々の生活がある。
「・・ミリエル。」
花は、ある決意を口にする。
「私は、この世界について、もっと学びたい。」
サリルナード、カムタニア、マドラス。世界の国々について。
国交と情勢について。
国内の領地について。
この世界で生きることを決めてからしばらく。
夢を叶えるために、何をするべきかを考えていた。
だが、花には、同時に果たさなければならない責任がある。
魔物たちの生きる道を示すこと。
神様の迷いがなくなるくらいに、人々が平和に、明るく生きること。
その方法を探るためには、この世界のことを知らなければならない。
そして、それは、夢を叶える道にも繋がっていくはずだ。
ミリエルは、眩しそうに花を見つめたあと、真面目な顔になる。
「花。僕は結構怒っています。」
花は、ん?と驚いている。
「・・合成獣を浄化したこと?」
花の顔が陰るが、ミリエルは否定する。
「他の方法をぎりぎりまで考えて、最後自分の選択としてしたのでしょう?怒る必要なんてありません。」
「エリザさんとライラスが、グランキンの家族だとかんちがいしたこと?」
「それは、僕も、似たようなものです。」
「勝手にソフィーたちに聖女って言ったこと?」
「そのとき、最善だと思ったからでしょう。違いますよ。」
花は、考え込んでしまう。
ミリエルが言いたいのは、そこではない。
「・・今回、僕、なんの役にもたてませんでした。」
花が体をはって潜入しているときも。ソフィーたちに捕まった時も。北の地で、最後の選択をしたときも。
「こんなの、だだをこねているようなものだと分かっています。怒りは、自分にも向いています。だけど!」
ミリエルは、悔し涙がにじむ目で、花を真っ直ぐみつめる。
「花は、何でも受け止めて、前を向くでしょう?でも、花が、合成獣を浄化して、平気でいられるはずがないんです。弱音を吐き出せる相手に、僕は、なりたい。」
聖女として生きることを決めた花は、その責任を全て負おうとしている。でも、ミリエルはそれを共に背負う存在でありたい、と訴える。
花は優しく笑った。
「ミリエル。まだ、召還したことの責任を感じてるの?私は、ミリエルのおかげで、この世界で前を向けるようになったの。だから、もう、いいんだよ?」
ミリエルがグランキンに立ち向かって叫んだあの時を、花は忘れない。前の世界で「不採用通知」というかたちで「あなたは我々に必要ない」、と言われ続けた日々。そんな花を、自分のたった一人の聖女だと、言いきってくれた。
ミリエルからは、充分にもらっている。
だが、ミリエルは首を振る。
「そうじゃなくて!」
「・・!?」
ふいに、柔らかいものが唇に触れる。
花が、それをミリエルの唇だと理解するのに、数秒。
赤面するのに数秒。
それを見て、ミリエルが我に返るのに、さらに数秒。
沈黙の10秒を破ったのは、ミリエルの、
「わああああ!ごめんなさいいい!!」
という叫びだった。
そのあとどうやってそれぞれが帰宅したか、二人とも、記憶はない。




