長官は、真実を語る。
「よく、グランキンを無傷で連れて帰れたな。」
イルディンは、感嘆していた。
あのあと、約束どおり、フィラードがあとを引き受けてくれ、グランキンは合成獣の研究と、領地への無断侵入で捕まった。
密かに研究を進めていたことは、研究員として潜入していたザックが証言している。
イルディンいわく、グランキンについては、敵を見誤ったものの末路らしく、ボコボコにされていてもしょうがない、くらいにおもっていたらしい。
無傷、といって良いかはちょっとわからない。
首もとの擦り傷が、いくつか残っていた。
「無傷は偶然だけど、生かして帰るつもりだったよ。ライラスはちゃんと親に言いたいことを言わなきゃね。」
花は召還で、両親と話す機会を永遠に失った。
気持ちの整理はつけたが、それでも、寂しさは残る。
たとえ、憎しみを抱いていたとしても、たった一人の父親なのだ。失えば、相手への憎しみを生むことに繋がるだろう。
「あー、それなんだが。」
イルディンは頭をかく。
明日、その解決のために、聖女の住まいを提供してもらおうというのだ。
つまり、結界の中で話すべき内容だということだ。
2つ返事で了承した花だったが、その内容は意外なものだった。
「ライラス(おれ)は、グランキンの息子じゃない?」
花と、特別に連れられてきたライラスの声がシンクロした。
その前にはカラカラと笑うエリザ。
エリザは、ライラスの母である、というのは間違いなかったが。
「やだねえ。私がそんなへまをするわけないじゃないか。」
エリザは昔の笑いかたをする。
「あー、エリザは、昔、優秀なスパイだったんだ。」
もともと人気の踊り子だったエリザが、いつからそういう仕事をするようになったか、イルディンも知らない。
だが、先輩に紹介されて以来、何回か頼ったことがある。
・・正確には、なぜかエリザが先回りして対象をオトしており、向こうから持ちかけられるのだが。
本当にエリザは狙えば確実にオトす凄腕で・・。
そのせいで、イルディンは、女性不信を拗らせた疑いがある。
要するに、頼れるけど苦手な相手なのだ。
今は定食屋におさまっているが、その美貌と色気は、まだまだ無駄に顕在である。
ちなみに、オトす、とはありていにいえば、対象に深く惚れさせ、男女の関係になる、ということだ。花の世界では恋愛詐欺師、というらしいが、言い得て妙、である。
「グランキンは対象だったから、オトしたけどね。それだけ。」
エリザの見事なところは、別れ際の鮮やかさだ。
相手は、エリザが自分を好きだと疑わない。
だが、泣く泣く離れるのだという演出を、見事にやってのける。
だから。
「私を見て、グランキンは、エリザさんと自分の娘が会いに来たと思ったわけね。」
花、ご名答。
手紙も、王都で働くにあたり、万が一出くわしたときに「大事にもってたのよ」アピールのためにもっていたそうだ。それをミリエルが見る前、ライラスも見てしまったのだという。
「じゃあ、俺は・・。」
「父親は他にいるよ。もう、この世にはいないけど。ちゃんと聞けば良かったのに突然飛び出したりして。」
ライラスが生まれてから足を洗い、エリザは定食屋をはじめた。
ライラスにすれば、母の苦労する姿を見ながら、自分達を捨てたであろうグランキンへの憎しみを募らせていたことになる。
「グランキンには家族はいなかったのか・・いや、それならそれで、何年でも、心置きなく罪を償ってもらいましよ。」
「花。それなんだが、グランキンの罪は、今のところそれほど重くない。」
合成獣の研究と、領地への侵入。それだけなら、一年ほどで罰は終わるだろう。
外国との取り引きが明らかになれば、もっていきかたによっては反逆罪に問えるだろうが。
「ソフィーが探ってる。相手は近いうちにはっきりするんじゃないかな。」
まだ、終わってはいない。
だが、つかの間、休むことは許されるだろう。
イルディンは、明日は仕事をしない、と心を決める。




