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聖女は、抱きしめる。(2)

恐らく、グランキンが何度自分の行動を振り返っても、なぜこうなったのか分からないだろう。

獣道を通り、合成獣を降ろせる拓けた場所をみつけ、研究員に薬を打たせた。

合成獣の虚ろだった目に暗い光が灯り、狂暴性が増幅する。

気の向くままに森を破壊すれば、あの忌々しい魔物たちがあぶり出され、そのまま駆逐することが可能・・なはずだった。


まず最初に聞こえたのは、研究員達の悲鳴だ。

驚いてそちらに目をやると、蔦が絡まり、手や足の自由が利かなくなっているようだった。

初めは、だれかがドジをしてこけた、くらいに思ったのだが。

「!?」

自分も同じように蔦に囚われて初めて、罠の可能性にいきつく。

自由が利かない状態になって、合成獣の唸り声を聞いたとたん、震えが止まらなくなった。

そこに、魔物達が現れる。

安全な場所から高みの見物をする予定が、今、一番危険な立場で当事者になっていた。


花は胸が締め付けられるようだった。

魔物たちの最初の叫びは、もうもとには戻れない仲間達への悲痛の叫びだった。

『アイツがあそこにいる!』

『なんてことを・・。』

『あああああ・・』

苦しいその言葉にならない思いを、聞けるのは花しかいないのだ。

彼らの罪は結局本当の意味で理解されることはないかもしれない。それでも、許されない。ザックのように、それを感じ取れる人間もいる。

花は、罠が彼らをとらえるのを確認してから、合成獣に向き合った。

ありのままの自分で。

黒い聖女の姿で。


合成獣からは、具体的な声はない。

暗い光を帯びた目。いびつな形。

破壊への衝動は、花の加護をもってしても、消え去ることはなく、コボルトに似た肩が唸り、腕を振り回そうとする。

巨大とまではいかない、それでも魔物達よりふた回りほど大きなその体で1歩目を踏み出した合成獣は、しかし、そのままそこに沈みこむ。

暗い目で破壊への衝動をもったまま。

その生き物は、結局自分の意思で歩くことすらできなかったのだ。

「・・不良品か。」

グランキンの呟きを、魔物たちは聞き逃さなかった。

『殺してやる!』

強くなった殺気にとっさに花が氷と風でグランキンとの間に壁を作り、その前で手を広げ彼らを止める。

不意を突かれ、彼らは踏みとどまる。

『なぜ!!』

ハーピーの絞り出すような声。

花は目を閉じ心に確認してから、ハーピーの目を真っ直ぐにみつめる。

「復讐は、終わらないからよ。」

間違ってない。ここで止めなければ、戦いは続いていく。

グランキンにも、愛する人と、息子がいる。

憎しみを口にしても、肉親を失えばその感情がどこに向かうか、予想はつかない。

だから、花はグランキンを殺させない。

彼は生きて、裁かれなければならないのだ。

「さ、さすがは聖女様。守るべきものを分かっていらっしゃる。」

どこまでも神経を逆撫でするようなグランキンの声に、花は無言で風魔法をとき、氷をさしむける。

尖った氷の先端が、グランキンの喉元まで伸び、「ひっ」と声がする。

「黙りなさい。余計な動きをしたら喉を突くわよ。 」

一睨みした花は、改めて合成獣に近づいた。


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