長官は、頭を抱える。
花からの報告は、心臓に悪い。
最初から、いつ窮地に陥るかわからないスタート。
だが、ここでやめて不信がられ、徹底的に探られるのはまずい。
様子を見ると、意外に何も進展のないまま、潜入は続いていた。
イルディンには、それよりも、悩んでいる件があった。
自分を捕らえた山賊たちの処遇である。
イルディンが一暴れしたため、山賊たちは、短くて半日、長くて3日、気絶から回復しなかった。
回復したものから順に、聞き取りをして、彼らが最近あの森をねぐらにして、通行人から金品を奪っていたこと、売れるものは、なんでも売っていたこと、聖女の監禁についてなどを証言させた。
その中で、彼らの出自についても確認したのだが。
彼らの多くは没落貴族たちで、もう位もないものが多かった。
自分で稼ぐ術を持たない者たちの集まりだったのだと分かる。
治世にも問題はある。
王があまりに弱く、貴族間で、弱肉強食が進んだ結果、のしあがるものの影で踏み台にされた者たちなのだから。
しかし、ボスの若者だけは、何者なのか、誰も知らないのだ。
花が言っていたように、彼らは変なところで紳士的で、指示系統がはっきりしていた。
お頭と呼ばれた彼は、それなりの力があることは間違いない。
いろいろ情報を得て、最後にいろいろ聞き出そうとしていたイルディンは、まずあまりの情報のなさに、辟易していた。
しょうがないので、ストレートに当たってみることにしたのだが。
「俺は、どれくらいの罪になるんだ?」
頭の男は聞く。
「まあ、軽くはないな。死刑とまではいかないだろうが。」
答えると、安心とも不安ともとれる顔でお頭は「そうか。」と呟いている。
「お頭って呼ぶのもな。お前、名前は?」
「・・ライラス。」
「では、ライラス。やったことは罰を受けるべき事だが、誰かの命を奪ったわけではない。山賊になったいきさつと、何をしたかを官吏に全て話せ。」
人に呼ばれて、イルディンは後を官吏に託そうとする。
その時、ライラスが言ったのだ。
「この時を待ってたぜ。・・俺は、グランキン伯爵の息子だ。」
場がはっきり凍りつく。
イルディンは、素早く優先順位を計算し、部下にいくつか指示を出してから人払いをした。
改めてライラスに向き合う。
「どういうことだ?グランキン伯爵には子供はなかったはずだが。」
グランキン伯爵は、一度結婚している。
ただ、どうみても地位と金のための政略結婚。
彼の先代は彼ほど商才がなく、伯爵家は明らかに傾いていた。
そこに入ったのが、今は亡き妻だ。
名家ではなかったが、資産がたっぷりあって、魅力的な持参金を提示されたというのは有名な話。
その家の娘は、かなり気性が荒く、簡単に言えば親は嫁ぎ先探しに困っていた。
そこで白羽の矢が立ったのが、利害が一致しそうなグランキン伯爵家だ。
グランキン伯爵は、持参金と、妻の父からの援助で、事業を起こし、成功する。
それが、武器の開発だった。
・・たしか、夫婦の間に子供はなかった。
妻の死後、グランキン伯爵は、独身を通しているが、それだけ夫婦が不仲で懲りたのだろう、と言われていたのだが。
「母は?」
イルディンが尋ねるが、
「言わない。」
とライラスは突っぱねる。
「なぜ、今ここで明かした?」
「もともと奴の顔に泥を塗るのが目的だ。・・そうそう、聖女様も、奴を没落させるのに役立つかと思って捕らえた。」
・・確かに花が、グランキン伯爵の名前を出した時お頭さんがすごい顔してた、と言っていた。あの時は特になにも思わなかったのだが。
「残念ながら、こちらでは真偽は判断できない。まずは罪の告白からだな。」
イルディンは、努めて冷静にふるまう。
もう少し、考えてみる必要がありそうだった。




